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日陰姫の陰謀論  作者: 蜜柑
本編
8/47

「俺は部屋に行けとは言ったけど、毎日毎日通えとは言っていないはずなんだが?」

「あぁ、そうだったな」

「で、毎日毎日何をしている」

「どうせ報告はいっているんだろう」

「毎日毎日贈り物もしているって?」

「そうかもな」

「何を考えている。情でも湧いたか。それとも…、気に入ったか」

「さぁな。で、お前の方はどうだったんだ」


 ユーシェとの茶を終えて執務室に戻ると、ジト目のディルのお迎えにあった。まぁ毎日毎日顔を合わせてはいるが、敢えてユーシェのことは話していなかったからな。今も顔色ひとつ、眉毛ひとつ動かさずに顔を合わせているところだ。


「はぁ…。何を考えている」

「いいからさっさと話せ」


 俺に話す気がないと分かると、ディルはため息を吐き、気持ちを切り替えたようだ。


「日陰姫の言う通り、ドルガは孤児院からあの子を買ってきたので間違いはない」

「おい、待て。なんだその日陰姫とは」

「え〜?日の当たらない部屋に好んで住む令嬢なんだから、日陰姫だろ?」

「なんなんだ、お前のそのネーミングセンスは…」

「分かりやすくていいだろ。で、孤児院に分配していたはずの予算は、阿呆な貴族が中抜きをしていたことが分かった。該当する孤児院には今日付けで臨時予算を配布するから、これにサインを」

「分かった」


 ディルのよく分からないネーミングセンスは置いておき、渡された書類に不備がないことを確認し、サインをする。ディルはそれを確認し、部屋の外にいる文官に急ぎだと言って渡した。これで今日中にユーシェがいたところを含め、国内の主だった孤児院に予算が行くだろう。


「阿呆な貴族は証拠突きつけてとりあえず捕縛しといた」

「取り調べを進めておけ。処遇は後回しだ。あぁ、そいつの懐に入った金の回収だけはしておけ。どうせ爵位も返上になるだろうから、搾り取れるだけ搾り取れ」

「当然そのつもりだ。あと、孤児院には何日か見張りをつけたけど、ドルガに監視されている様子はなかったとのことだ。念のため一人残している」

「そうか」


 ディルの話を聞きつつ、机の上に重ねられた書類にも目を通していく。なぜこんなにも書類ばかり溢れているのか。ため息しか出てこない。

 ユーシェの話を聞いてすぐに、孤児院のことを調べさせていた。もしやとは思ったが、あの痩せ細った身体は、予算の中抜きのせいで満足な食事が行き渡らなかったせいだ。阿保な貴族は捨てる程いるが、まさかこんな形であぶり出されるとは思っていなかった。

 しかし、あの孤児院が監視されていないとなれば、ドルガがユーシェを脅す材料はもうないと考えてもいいだろう。さっさとユーシェをドルガから切り離してしまいたい。あれがいていいことなど何もないだろうからな。


「で、毎日足繁く通っているお前の目から見て、日陰姫の陰謀論はどっちだ」


 だから、そのネーミングセンスはなんなんだ。大真面目な顔をして言ってくるから、突っ込んでいいのかわからなくなるではないか。

 だが、ディルの言葉にいちいち突っ込んでいては会話が進まない。俺は敢えて疑問を全てスルーすることにした。


「限りなく白に近いグレーだ」

「その根拠は」

「接していれば分かる。あれは、本当に孤児院で普通に育ったんだろう。ドルガに目をつけられてから入宮するまでの期間も短い。そういう教育は不可能だ」

「へぇ。俺も今度見てこようかな」

「お前は自分の仕事をしろ」

「なんでだよ。そんなに気に入ったのか」

「くだらんことを言っている暇があったら仕事をしろ」

「してるだろうが」


 愚痴愚痴言っているディルを無視して、俺は書類に目を落とす。

 少しずつ肉は付いてきているが、まだ標準よりは痩せた身体。すぐに動揺して変わっていく表情。抱き寄せただけでいつも固まるユーシェが、陰謀になんて加担できるものか。あれで腹に何か隠しているとしたら、よほどの演者だ。


「お前の見解はどうなんだ。孤児院以外も調べているだろう」

「まぁ…黒ではないね。何も出てこない」


 だろうな、と声に出さずに返事をした。


「お前、まだあの陳情書とやらを持っているだろう」

「ん?あぁ、持ってるよ」

「それを再検証してみろ。多分面白いことになるぞ」

「なんだよ、それ」

「やれば分かるさ」


 腑に落ちないという顔で、ディルは机から陳述書を探し始めた。

 連日ディルに提出されていたという各所からの陳述書。俺自身は目を通してはいないが、違う目線で調べ直せばきっと違うものが見えてくるだろう。その時のディルの顔が楽しみだ。





ストック…切れた…。

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