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「俺は部屋に行けとは言ったけど、毎日毎日通えとは言っていないはずなんだが?」
「あぁ、そうだったな」
「で、毎日毎日何をしている」
「どうせ報告はいっているんだろう」
「毎日毎日贈り物もしているって?」
「そうかもな」
「何を考えている。情でも湧いたか。それとも…、気に入ったか」
「さぁな。で、お前の方はどうだったんだ」
ユーシェとの茶を終えて執務室に戻ると、ジト目のディルのお迎えにあった。まぁ毎日毎日顔を合わせてはいるが、敢えてユーシェのことは話していなかったからな。今も顔色ひとつ、眉毛ひとつ動かさずに顔を合わせているところだ。
「はぁ…。何を考えている」
「いいからさっさと話せ」
俺に話す気がないと分かると、ディルはため息を吐き、気持ちを切り替えたようだ。
「日陰姫の言う通り、ドルガは孤児院からあの子を買ってきたので間違いはない」
「おい、待て。なんだその日陰姫とは」
「え〜?日の当たらない部屋に好んで住む令嬢なんだから、日陰姫だろ?」
「なんなんだ、お前のそのネーミングセンスは…」
「分かりやすくていいだろ。で、孤児院に分配していたはずの予算は、阿呆な貴族が中抜きをしていたことが分かった。該当する孤児院には今日付けで臨時予算を配布するから、これにサインを」
「分かった」
ディルのよく分からないネーミングセンスは置いておき、渡された書類に不備がないことを確認し、サインをする。ディルはそれを確認し、部屋の外にいる文官に急ぎだと言って渡した。これで今日中にユーシェがいたところを含め、国内の主だった孤児院に予算が行くだろう。
「阿呆な貴族は証拠突きつけてとりあえず捕縛しといた」
「取り調べを進めておけ。処遇は後回しだ。あぁ、そいつの懐に入った金の回収だけはしておけ。どうせ爵位も返上になるだろうから、搾り取れるだけ搾り取れ」
「当然そのつもりだ。あと、孤児院には何日か見張りをつけたけど、ドルガに監視されている様子はなかったとのことだ。念のため一人残している」
「そうか」
ディルの話を聞きつつ、机の上に重ねられた書類にも目を通していく。なぜこんなにも書類ばかり溢れているのか。ため息しか出てこない。
ユーシェの話を聞いてすぐに、孤児院のことを調べさせていた。もしやとは思ったが、あの痩せ細った身体は、予算の中抜きのせいで満足な食事が行き渡らなかったせいだ。阿保な貴族は捨てる程いるが、まさかこんな形であぶり出されるとは思っていなかった。
しかし、あの孤児院が監視されていないとなれば、ドルガがユーシェを脅す材料はもうないと考えてもいいだろう。さっさとユーシェをドルガから切り離してしまいたい。あれがいていいことなど何もないだろうからな。
「で、毎日足繁く通っているお前の目から見て、日陰姫の陰謀論はどっちだ」
だから、そのネーミングセンスはなんなんだ。大真面目な顔をして言ってくるから、突っ込んでいいのかわからなくなるではないか。
だが、ディルの言葉にいちいち突っ込んでいては会話が進まない。俺は敢えて疑問を全てスルーすることにした。
「限りなく白に近いグレーだ」
「その根拠は」
「接していれば分かる。あれは、本当に孤児院で普通に育ったんだろう。ドルガに目をつけられてから入宮するまでの期間も短い。そういう教育は不可能だ」
「へぇ。俺も今度見てこようかな」
「お前は自分の仕事をしろ」
「なんでだよ。そんなに気に入ったのか」
「くだらんことを言っている暇があったら仕事をしろ」
「してるだろうが」
愚痴愚痴言っているディルを無視して、俺は書類に目を落とす。
少しずつ肉は付いてきているが、まだ標準よりは痩せた身体。すぐに動揺して変わっていく表情。抱き寄せただけでいつも固まるユーシェが、陰謀になんて加担できるものか。あれで腹に何か隠しているとしたら、よほどの演者だ。
「お前の見解はどうなんだ。孤児院以外も調べているだろう」
「まぁ…黒ではないね。何も出てこない」
だろうな、と声に出さずに返事をした。
「お前、まだあの陳情書とやらを持っているだろう」
「ん?あぁ、持ってるよ」
「それを再検証してみろ。多分面白いことになるぞ」
「なんだよ、それ」
「やれば分かるさ」
腑に落ちないという顔で、ディルは机から陳述書を探し始めた。
連日ディルに提出されていたという各所からの陳述書。俺自身は目を通してはいないが、違う目線で調べ直せばきっと違うものが見えてくるだろう。その時のディルの顔が楽しみだ。
ストック…切れた…。




