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日陰姫の陰謀論  作者: 蜜柑
番外編:ティナ編
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それから

 皇帝陛下がユーシェ様の元を訪れるようになってから、ユーシェ様はどんどん変わっていった。私がいくら働きかけてもどうしようもなかったことを、皇帝陛下はどんどん変えていってくれた。

 どうしても食べられなかった食事は、お茶の時間を増やすことと、皇帝陛下とともに食事をとられることで少しずつ食べられる量が増えていき、痩せていた身体に少しずつ柔らかさが増えていた。

 質素なワンピースしか身につけられなかったのに、皇帝陛下から送られたお召し物を着られるようになり、ご令嬢らしい姿になった。ドレスというには簡素で、けれど普段着というには豪華なお召し物はユーシェ様によく似合っていたし、華美なものを好まないユーシェ様の心を軽くしていたように思う。アクセサリーもつけてくださるようになって、飾り立てるのが楽しくてたまらなくなった。

 艶のなかった髪の毛も、皇帝陛下がくださった香油を使ったおかげで艶のある綺麗な黒髪になった。

 いくら着飾ったところで、外にお出にならないユーシェ様は誰にも見られることがないのが残念だけれど、毎日皇帝陛下が訪れるので、良いのだろう。

 しかし、ユーシェ様は皇帝陛下は自分を疑っているから毎日くるのだと言うが、本当にそうなのだろうか。それだけのために、ユーシェ様に似合うものをわざわざ作って送って下さるなんて、手間がかかりすぎていると思う。あの冷酷な皇帝陛下が、ユーシェ様に笑顔を見せられるのだから、それだけで分かる気はするのだけど。

 いや、信じられないものを見ているとは思うし、夢なのではないかと何度も思う自分がいるのも本当で。けれど、困ったような顔をよく見せるユーシェ様が、幸せそうな顔を見せることも増えたのだ。ユーシェ様はそれに気付いていないのだろうか…。


 なんてことを思って悶々としていたら、とんとん拍子で話は進み、ユーシェ様と皇帝陛下はお気持ちを交わされ、後宮唯一の寵姫となった。

 当然他の令嬢からの嫉妬ややっかみがあったけれど、そういったものは皇帝陛下が全てシャットアウトされ、ユーシェ様がそれを知ることはなかった。本当に、本当に大事に思われているのだと、安心させられた出来事だった。ユーシェ様は悪意に晒されることなく、皇帝陛下によって大切に守られながら過ごし、ゆっくりと、しっかりと愛を育まれていた。

 ユーシェ様はもう痩せすぎのご令嬢ではなく、細身の可憐なご令嬢で、皇帝陛下の愛を受けて、日に日に大輪の花を咲かせるように美しさを増していった。皇帝陛下の手を借りて、ユーシェ様は幸せを掴んだのだ。

 出会った頃に私が思ったちっぽけな願いなんて、簡単に追い越していった。私は、ユーシェ様が寵姫になるなど想像もできなかった。そうなれるよう働きかけもしなかった。これは、ユーシェ様がご自分で掴み取られた幸せだ。私は何もしていないし、何もしなかった。ユーシェ様の唯一人の侍女なのに、何もしようとしなかった。私は、あの方の何を見ていたのだろう…。


「あなた、あの方の侍女よね?」

「はい。そうでございます」

「私の主人が、あなたとお話をしたいと言うの。来て下さるわよね?」


 今の後宮でユーシェ様にコンタクトを取ろうとしても、皇帝陛下が許可した者以外はお目通りは愚か、手紙や物のやりとりすらできない。そもそも寵姫はユーシェ様唯一人であり、愛妾も不要と陛下は公言されたのに、それでも宿下りをせずに後宮に留まるような令嬢が、ユーシェ様に何の魂胆もなく近づこうとするはずがない。悪意をもった者か、地位を利用しようとする者か。どちらにせよ、ユーシェ様に接触して欲しくはない人達ばかりだ。

 そして、ユーシェ様にコンタクトを取れないとわかった者は、こうして私を狙って来る。

 ユーシェ様の侍女も護衛も必要最低限の人数しかおらず、早急に増やす方向ではあるのだが、人選が難しく未だ決まっていないのだ。


「申し訳ございませんが、我が主人に用事を頼まれておりますので、伺うことはできません」

「何ですって?私の主人は高貴な家の方なのよ。お前のような身分の者が断れると思っているの!?」

「申し訳ございません。主人以外の方との接触は禁じられております。どうかお許しください」


 きっとこのどこかのご令嬢の侍女も身分が高いのだろう。ユーシェ様に仕える私の家が末端貴族だというのは周知の事実だ。こんな風に貶められるのも日常茶飯事なので慣れてはいるけれど、どこで諦めてもらえるか考えるのは面倒だ。

 ユーシェ様自身も、貴族籍から脱して元の平民の身分に戻ったために、血統主義の貴族たちからは軽んじられている。あのまま養女だったとしても、所詮元孤児と言われて貶められていたのだろうけれど。


「とにかく来なさい。逆らうなんて許さないわ」


 強引に来るタイプでしたか…。腕を掴まれて無理矢理歩かされされそうになるけれど、こちらもそれにはいはいと従うわけにはいかないのですよ。お茶の準備もしなくてはならないというのに、どうやって切り抜けよう。ユーシェ様のお茶や食事に関しては、皇帝陛下が私よりも厳しく管理をしているので、本当に勘弁して欲しいのだけど…。


「この者に何をしている」


 足を踏ん張りながらどうしたものかと考えていると、後ろから最近は聞き慣れた声がし、反射的に頭を下げた。


「へ、陛下っ!」


 次いでその存在に気付いたどこぞの侍女が、慌てて頭を下げた。私の腕を投げるように放して。末端貴族の扱いなんて酷いものだ。


「お前はどこの者だ。これに何をしていた」

「わ、私はこの者が仕事をせずに休んでいたので注意をしようと思っただけなのです」


 うわぁ…。でっちあげ酷すぎる。これで冤罪が成立したら、私が可哀想すぎるけど、それが成立しそうなのが身分社会よね…と冷めた頭で考える。この侍女はそれが通じると思っているかもしれないけれど、生憎我が国の皇帝陛下はその身分社会を素晴らしいものだとは思っていないのよねと、冷めた目で侍女を見そうになって堪えた。


「くだらん。さっさと去れ」

「しっ、失礼致します!」


 どこぞの侍女は、陛下に深く頭を下げながら、私を睨むことを忘れずに早足で去って行きました。最初から最後まで酷かった。


「よくこういうことはあるのか」


 小さくため息をつきながら、金色の髪のその人は私に声をかけた。


「時々、です。珍しいことではありません。以前は下賤な者がこんなところにいるなんて気分が悪いなどのことを言われていました。今はユーシェ様に取り入りたいとお考えの方と、私を通じて脅すか何かして陛下と引き離したいとお考えの方がいるようです」

「くだらんな」

「女とはそういう生き物なのですよ、ディル様」


 先ほどの侍女に陛下と呼ばれたその人を違う名で呼ぶと、分かりやすく眉をピクリと動かした。


「分かっていたの…か?」


 途端に口調が普段通りに戻った。口調というか、声のトーンというか。やはりこの人はディル様で間違いがないらしい。見開いた目が、なぜ分かったのかと問いかけている。


「何度かお会いすれば分かります。ディル様は見回りでございますか?もしや、皇帝陛下は既にお部屋にお着きなのでしょうか?」


 陛下の影武者のような存在であるディル様が、陛下そっくりな格好をしてここにいるということは、陛下はユーシェ様のお部屋を訪れる予定なのかもしれない。


「もうそろそろ着く頃かもしれないな」

「では、急がないといけませんね。ディル様、失礼してよろしいでしょうか」

「あぁ、構わない。俺もあとから行く予定だしな」

「そうでしたか。それではお部屋でお待ちしております。失礼いたします」


 今一度頭を下げ、私はユーシェ様のお部屋へと足を進めた。最近ユーシェ様はご自分でお茶を淹れる練習をしているから、陛下がいらしたとしてもお茶の心配はいらないのだけれど、侍女としてはそれを率先して行っていただくわけにはいかないのだ。ユーシェ様か陛下がお望みになられたらそれをしていただくという流れでないと、私は仕事をしていないように感じてしまう。誰も私を咎めないから、余計に。

 1人しか侍女がいないという状況は、やはり問題なのだろうと思いながら、私は部屋へと急いだ。








サブタイトルが思いつきません…。

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