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第80話 ビバ!!クローズドサーコー!!

「わー!すっげー!」


早朝7時43分。朝焼けが大きな大きな扉から差し込む駅のホームに、ドーン!とその存在感を放つ黒塗りの蒸気機関車。ごうごうと蒸気を放ちながら、まるで鉄の塊そのものが生きているかのように熱を放つ。駅のホームでは大勢の人間たちがごった返しており、賑わい活気づいていた。


「気に入ったか若獅子よ!これぞこの大陸に点在する大国をあまねく結び、人も荷も大量に運び続ける文明開化の夜明けを告げる鉄の馬!太陽がごとく、という意を込め名付けられた大陸横断鉄道、アズ・サニー号である!」


「...わー...」


俺は今、帝国領帝都にある大陸横断鉄道の出発点、マーマイト駅に来ている。何も遊びに来たとか楽しい旅行に行こうというわけじゃない。女神教の本部たる聖地、聖都ベリーズに向かうためだ。


女神教。この世界における世界的宗教であり、ブランストン王国を始め各国に支部を持つこの世界の一大宗教である。女神ミツカを崇め、女性上位思想による百合美少女たちが集う、女神非公認(本人談)の宗教だ。


まあその実態は、数万年前にこの世界に人類を作り出した女神がこの世界を去った後で、残された人間たちが勝手に作り上げただけの代物だが、長い長い年月を経て、この世界に幅広く土着している。


そんな女神教と、成り行きで敵対する羽目になってしまった女神様転生の産物である俺、ホーク・ゴルド。敵を知り己を知ればというわけで、敵情視察に聖都ベリーズにでも行ってみようか、と思い立ったのがつい先日。


無論、ホーク・ゴルド名義でチケットを購おうものなら速攻であちら側にばれるだろうから、イグニス皇帝陛下に偽造してもらったポーク・ピカタなるペーパーカンパニーの社長として行くことにした。でも冷静になったら、帝国からの留学生ポーク・ピカタが王立学院で何をしたかってのは向こうにも通じてるだろうから、完全に無駄な気もするが、そこはまあ気分の問題だということで。


一応、表向きにポークとホークは別人ってことになってるからね。皇帝陛下のお墨付きの偽造戸籍だから、もはや偽造ではなく本物と言える。


「さあ乗り込むぞ若獅子よ!船に鉄道!飛空艇に馬!うむ!旅とは素晴らしきものよ!実に浪漫がある!」


「おー!」


なんとこの皇帝陛下、俺が聖都に行くためにチケットを取りに来たことをどこから聞きつけたのか、『(もういい加減書類仕事ばかりの毎日はウンザリだから)俺も行くぞ!』と突然言い出したものだからさあ大変。革命による帝位簒奪から半年以上が経過しており落ちついてきたとはいえ、いきなりの皇帝陛下の思い立ったらブラリ旅。


もちろん、側近の牛頭獣人さんと馬頭獣人さんたちは大慌てだし、かといって一度言い出したら聞かないのがこの黒毛紅眼のグリフォン獣人である。聖都は内陸地にあり船では行けないし、飛空艇は聖都上空への侵入を禁ずる、という法律があちらの国にあるため利用不可。


よって、鉄道で終点、ベリーズ駅まで行くのが一番手っ取り早いというわけだ。


そんなわけで俺を肩車しながら、意気揚々と列車に乗り込む陛下の後を、陛下の側近の牛頭馬頭獣人さんたち以下、皇帝陛下に付き従う少数精鋭の近衛騎士の帝国軍人さんたち、それに、俺の護衛であるクレソンとオリーヴが乗り込む。


ちなみに今回、戦闘能力低めのバージルはお留守番だ。パパも豪華寝台特急での旅と聞いて行きたそうにしていたけれどさすがに危ないので、いつか家族四人で鉄道旅行をしようね!と指切りして諦めてもらった。


一等客室、それも、金貨100枚はザラだというVIP専用車両は凄かった。車両丸々ひとつが貸し切りになっており、流れゆく景色を一望できる巨大な窓からの眺めも最高なほか、広いお風呂やバーラウンジまで用意されている。


「うむ!実に素晴らしきかな!いつか俺もこの車両に乗ってやるのだという積年の夢がまたひとつ叶ったな!」


ああ、そうか。イグニス陛下は不吉な黒毛の忌み子として殺されなかったのが不思議なぐらいに冷遇された生活を送っていたんだもんな。そりゃ王族なら乗ったことあるでしょ、の理屈からは外れるのか。


「凄い豪華ですね。俺、こんな豪華な電車に乗るの初めてです」


「電車?」


「ああいえ、機関車です機関車。すごくないですかほら?なんかすごい高級そうなお酒がズラリですよ。これ全部飲み放題なんでしょう?」


「おお!では早速乾杯といこうではないか!」


「俺はお酒駄目なんで、あ、炭酸水がある。これでお付き合いしますよ!」


なんか、すげえな寝台特急。まるでホテルの最高級スイートルームがそのまま汽車に再現されたみたいだ。前世、俺は旅行というものがあまり好きではなかった。車に長時間乗っているのは退屈極まりなかったし、電車からの眺めとか、数分で飽きるような子供だった。


行き先も遊園地とかならともかく、なんか地味な滝とか、神社とか、老人会の旅行じゃないんだからさーなんて両親に文句を言いながら、結局スマホで延々ゲームをやったりしているだけの可愛げのないありふれたガキだった。


今はもう、前世の両親と旅行に行くこともできない。もっと親孝行しておけばよかった、と今になって後から悔やむ。まさに後悔だ。だからこそ今生では、いつ死んでしまってもいいように一瞬一瞬今を大事に生きると決めているのだ。そんなわけで、はしゃぐ時は思いっきりはしゃいでいくぜウェーイ!!


「では我らが旅の前途を祝して、乾杯!」


「かんぱーい!」


ちなみに、なんで俺が皇帝陛下と相部屋なのかというと、『広い部屋にひとりっきりでいると寂しいではないか!』という陛下のワガママもとい、粋な計らいによるものだ。そうだよな、お祭り大好き大騒ぎ大好き、ドンチャン騒ぎ大好きでしたものねあなた。


まあ俺としても、お陰で超豪華なグリーン席通り越したVIP車両に泊まれるだなんて思ってもみなかったから、文句はないけど。すごいぞ、こんな贅沢しちゃっていいのかな。バチが当たらないかな?


「陛下、失礼致します。運転手と車掌が挨拶に来ておりますが」


「うむ、通すがよい」


なんかこう、皇帝陛下におかれましては御機嫌麗しゅうとかこの度は御即位おめでとうございますとかそんな陛下の新たな門出の旅立ちにこうして立ち会えること光栄だとかうんたらかんたらみたいな挨拶を始めてしまったので、俺はそそくさと退散することにした。


「こら!どこへ行く!」


「ちょっとトイレ!」


「トイレならばこちらに、ええい貴様!」


ほとんどひとりが通過するだけで精いっぱい、みたいな豪奢だけど狭い廊下に出ると、進行方向前方は運転室、後方は1等客室だ。


「おや、これはピカタのお坊ちゃま」


「クレソンたちはどちらにいますか?」


「102号室をご用意させていただきました。こちらでさあ」


お馬さんが現在VIP車両にいるので、代わりに牛さんが案内してくれる。


「おおご主人!こいつァすげえな!」


「うむ。俺らのような平民には、人生に一度、乗れたらいいなの豪奢な代物だな」


VIP車両ほどではないが、1等客室もかなり豪華だった。クレソンが寝てもはみ出さないベッドがふたつに、洗面所とお風呂。それに、ウェルカムドリンクとミントチョコレートのサービス付きだ。


「基本、俺のことは陛下の護衛さんたちが一緒に守ってくれるだろうから、ふたりとも気を楽にして旅を楽しんでよ。たまには羽を伸ばさないとね」


「そうかそうか!そんじゃ、遠慮なく!」


「気を抜くなバカ者。女神教からの刺客がいつどこに潜んでおるやもわからんのだ」


早速ゴロリとベッドに横になるクレソンに、耳を引っ張って注意するオリーヴ。しかしその尻尾はパタパタと揺れており、彼もこの予想外に豪華な旅を楽しみにしているのが見て取れた。


「お!動き出したぜ!」


馬のいななきがごとき蒸気の甲高い噴出音と共に、グラリと列車が走り出す。駅のホームには見送りの人間、列車を眺めるのが好きな町民たち、トンネルの上からカメラを構える写真家たちや、画家、電車大好き子供たちなどが大勢列車の出発に歓声を上げており、旅ムード満点って感じだ。


遊びに行くわけじゃないんだけど、それでもやっぱりワクワクしてしまう。楽しめる時は楽しんでおかないと損だしな!かくして俺たちは、一路聖都ベリーズを目指し陸路を行く。


「この時はまだ知らなかったんだ。この旅が、あんなにも恐ろしい血塗られた悲劇の幕開けになるだなんて...」


「おい、縁起でもねェこと言うんじゃねェ!」


「あはは!ごめんごめん!ついテンションが上がっちゃってさ!」

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