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幕間 実際に手を汚した獣としては

「とまあ、そんなことがあったわけだよ」


「へェ、そうかい」


とあるのどかな昼下がり。


昼食後に、腹も膨れたことだし昼寝でもすっかァ、とホークの部屋の窓際で、絨毯の上にゴロリと寝転がったクレソンを目ざとく見つけ、近寄ってきたホークが『人をダメにするソファ!』とかなんとか叫びながら、有名なアニメ映画のごとく、ゴロリと仰向けになった巨大な山猫の腹の上でうつ伏せになる。


高価な絨毯よりもフッカフカな獣人の毛並みにうずもれながら、ここ最近あったことを報告する主の話をウトウトと聞き流しながら、クレソンは大あくびだ。


「殺し殺され恨み恨まれっつゥのはまァ、どこ行ってもよくあることだからなァ。俺だって兄貴を違う部族の奴らにぶっ殺された時は復讐してやったし、その敵討ちだってきた連中をぶっ殺してやったし。生存競争や縄張り争いなんてェもんは生物の常だ。イチイチ気にしてたらキリがねェぞ、ご主人」


「うん、そうだよね。殺されたくないなら殺すしかないもんな」


「何あったりめェのこと言ってやがんだ。これだから人間ってェのはアホくせェ。敵は殺す、仲間は守る。グチャグチャ余計なこと考えねェで、シンプルにそれだけで十分じゃねェか」


「そんなもんかな?」


「そんなもんだ。まあ、安心しなご主人。敵をぶっ殺したせいで敵に恨まれたオメエがぶっ殺されそうになるってんなら護衛の俺らが守ってやるし、守りきれずに死んじまったってんなら、敵討ちぐらいはしてやっからよ」


チョコチョコ、と全身オレンジ色だが、ところどころ白いものが混じっているクレソンの顎の白い毛を弄っていたホークが、ボフンと枕のように毛皮に横顔を埋める。


「敵討ちは別にいいよ。俺のことや復讐なんか忘れて自由に生きていく方が、きっと残りの人生楽しいし」


「ほんっと、バカだなテメエは。大事な仲間をオチオチぶっ殺されちまっといて、そんで手前だけおめおめと逃げ延びて、しかもそんな悔しさやムカつきをなかったことにして生きてくなんざ、俺ァ御免被るね。そんなもんはな、自由ってんじゃねェんだ。どこへ行っても何をしてても、いつまでも頭に忘れらんねェ過去のことがチラついちまっちゃ何をも心から楽しめねェ。そんなんじゃ、不自由極まりねェだろ?」


オメエのためじゃねェ、明日をなんの憂いも心残りもなく晴れ晴れとした気持ちで生きていくために、俺自身のために殺すんだ、と大の字になって窓ガラスの向こうの青空を見上げながら、クレソンが次第に瞼を閉じる。


「...そっか」


それはきっと、あちらも同じだったのだろう。ホークも同じなのだろう。結局はみんな、誰もが自分のため、自分たちのために生きている。ただその立ち位置が違うだけで、本質的なところは同じ。誰もが誰かのため、誰かのために頑張る自分のために生きているのだから。


「ホーク、ちょっといいかしら...あら?」


ノックをしても返事がないことを訝しんだアリーが、ごめんなさいね、と扉を開けると、日当たりのいい窓辺で大の字になって眠るクレソンと、その腹の上で横になって眠るホークの姿が目に入る。


「あらあら」


微笑ましい光景に、アリーはクロゼットの中からブランケットを取り出すと、陽光の中で気持ちよさそうに眠るふたりにそれをかけてやった。言い方は悪いが、まるでペットと一緒になって寝る我が子の姿に可愛い!とテンションを上げる母親のようだ。もしここにカメラがあったならば、彼女は思わず一枚撮影していたに違いない。


「おやすみなさい、ホークちゃん」


スヤスヤと眠るホークの頭を撫で、それから頬にキスをして、アリーは部屋を出ていく。束の間の陽だまりの中に、心地よい微睡み。そんな平和な、とある昼下がりの一幕。

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