第63話 どこの世界でも共通の重罪=ネタバレ
「さて、VIPルームへようこそ、我が新たなる友よ。光栄に思うがよい。ここへ足を踏み入れるを許したはそなたが3人目よ」
牛頭獣人と馬頭獣人を左右に控えさせ、閻魔大王のようにふんぞり返る黒獅子イグニス相手の圧迫面接めいたこの状況、全然VIP待遇じゃないんですがそれは。しかも心の中覗き込もうとしたら、昨夜はお楽しみでしたね映像流し込まれてちょっと反応に困るし。
一晩で美女4人を相手にお楽しみとか夜も帝王なんですかねこの人。生々しすぎる主観映像やめてください!相手はまだ(中身は25歳の)子供なんですよ!!かつてパチモンロリもどきに同じような映像垂れ流し反撃した俺が言えた義理じゃないのはそうなんですが。
「よい、そなたの無礼を許す。たった独りで味方もなく、敵陣のど真ん中に連れ込まれてなお臆することなく足掻くその胆力、実に俺好みであるな!グワハハハ!!」
急に笑い出したボスに対し戸惑うことも面食らうこともなく、無表情を貫く牛さんはあれだな?オリーヴと似たようなタイプだな?そして俺を値踏みするように見てくるお馬さんは、参謀とかブレーンとかそういった感じだろうか。
「そなたには訊ねねばならんことが大いにあるようであるからな。素直な心持ちで正直に答えさえすれば、痛い目を見ることもなく、丁重にもてなしてやろう。してそなた、何者だ?」
「何者、と言われましても、ただの商家の倅ですが」
「違う。そなたの体には、俺の魔力が染みついている。俺の羽根を手にしたことがあるのだろう?」
「たまたま道端に落ちているのを拾った、とか?」
「たわけ。俺の羽根は俺自身が意図して破裂させぬ限り爆ぜぬ。つまりは、だ。そなたは俺に見込まれるだけの『何か』を確実に成し遂げたことは間違いない。だが、俺はそなたを知らぬ。ホーク・ゴルド13歳。帝国にもいくつかの支店を持つゴルド商会の社長の息子であり、今朝女海賊ペッパーの首を冒険者ギルドに持ち込んだ」
「メチャクチャ知ってるじゃないですか!」
「その程度のことは調べさせればすぐにわかる。問題はそのような些末な情報などではない。言え、小童。そなた、いつ、どこで俺に気に入られた?よもや、『未来から来た』などと申すわけでもあるまい?...おい、本気か?」
まずい、一瞬図星を突かれたせいで変な顔をしてしまったに違いない。
「ククク!グワーハハハハハハ!!よもやそのようなことがあり得るのか!?時魔法とやらを極めし賢者とでも申すつもりか小童!これはますます逃すわけにはいかなくなってしまったではないか!!なあ!」
ヒラリと身軽にテーブルを飛び越え、ドスン!!と俺の前に着地した黒獅子が、俺の首を鷲掴みにしてソファに引き倒し、その牙を剥き出しにして獰猛な笑みを浮かべる。
「洗いざらい吐け。さもなくば、指の一本一本を噛み千切り、目玉を片方ずつ抉り出し、素直に答えたくなるよう俺が手伝ってやろう」
わーおっかない。おっかないけど、もう二度とこの世界に戻れないんじゃないか、って一瞬でも思ってしまった瞬間の絶望よりかは怖くないな。
「知って、後悔しません?」
「何?」
「あらかじめ誰かが舗装してくれてあった覇道、歩みたいですか?あなた」
「...クククク!グワーハハハハハ!グワーッハッハッハッハ!!」
突然大笑いし始めた黒獅子に、取り巻きの牛と馬がぎょっとした顔をする。
「そうだな!!おお、そうだとも!!俺としたことが、なんたる迂闊!何たる愚かか!!否、否!断じて否だ!!先のことなぞ、知ってどうする?人生とは未知なる道を己の才覚によって踏破すべきもの!!ただ正答を横目に見ながらそれを書き写してゆくだけの答え合わせに残りの余生を終始するなぞ、退屈極まりないわ!!」
俺の首を絞めていた手をどかし、「すまなかったな小童!!」と絨毯の敷かれた床に座り込んで大笑いするイグニス。
「まあ俺も、断片的な知識しかないんで言うほど全てを知ってるわけじゃないけどさ」
なんとなくだけど、うっすら感じた俺の予感は、中っていたらしい。こいつはたぶん、未来のことを教えてやったら逆にやる気なくすタイプだ。
例えばそう、クーデターという目的がこいつの人生というゲームにとってのボスだとしたら、俺はそこから先の展開をネタバレしようとする友達みたいなものだ。
『よし!レベルも上げて仲間も強くなったぞ!いよいよ挑むか!』って楽しんでる時に『あ、その中ボス倒すと真のボスが出てくるから驚くよ。あとその装備じゃ弱いからカジノでコイン増殖する裏技教えてあげるからカジノでもっと強い最強装備整えなよ』と横から盛大に口を挟まれたらどう思うだろうか。
少なくとも、テンションは露骨に下がるだろう。下手すれば、続きをプレイする気がなくなるかもしれない。『よかったら俺が代わりに倒してあげようか?その中ボス、ハメ戦法があるからかなり楽勝で倒せるし』などと言われてみろ。もう台なしだ。ワクワク感もへったくれもない。
「そなた、『どこまでやれる』?」
「ほんとに知りたい?知らない方がいいんじゃない?ヤケクソになってない?後悔するかもよ?」
「いいから、正直に申せ。俺が申せと申しておるのだ。そなたが気に病むことではない」
「たぶん、『全部』」
その気になれば、今から一緒にお城に行って、クーデター成功『させてあげられます』よと言外に伝える。それを受けた黒獅子は、一瞬クシャリと泣きそうな顔になった。
「20年だ。20年間俺は恥辱に耐え忍び、この機会を窺ってきた!だがいよいよというその時を前にして、よもやこのような形で出鼻を挫かれるとは!!信じてもおらぬ女神を恨みたくもなろうものよな!!」
「なんか、ごめん」
「いいさ。好奇心の赴くままに、開けてはならぬ箱をそうとは知らず開けようと引き込んだのは俺だ。ああ、なんとも滑稽なものよな?酷く、冷めてしまったではないか小童。どうしてくれようぞ、ん?」
彼がどんな気持ちで20年もの長い間耐え忍んで、ようやくここまで漕ぎつけたのかは想像もできない。だが、それがこんな思わぬ形で頓挫してしまいかけているのを見ると、かなり気の毒な気持ちになってくる。
いや、そもそも俺は戦争を回避するためにここに来たわけだから、彼のやる気を削いで腑抜けにさせてしまうことは限りなく正解なんだってこと、わかってはいるんだけど、なんかこう本当に、得も言われぬ罪悪感というか、申し訳なさというか。
「ねえ、ほんとに大丈夫なの?このまま燃え尽き症候群になって、明日の朝になったら首を吊って死んじゃったりしないよね?」
「俺を舐めるなよ小童。毒を食らわば皿までよ。こうなってしまったからにはとことん、そなたの秘密を暴かせてもらうぞ!」
その台詞、なんか誤解を招きそうでやだなあ。





