第58話 往生際の悪い子豚を誅する正義の刃
突然ですが問題です。
殺人未遂、強姦未遂、脅迫、恐喝、暴力事件など、ありとあらゆる悪事を働きまくった挙げ句今まで大金持ちの親の金とコネの力でそれらを揉み消していた極悪人が、全ての悪事を暴かれ学校を退学処分&国外追放処分になりました。
そんな極悪人が、よい評判などほとんど聞かないようなイカれたマッドサイエンティストの元に邪竜の鱗を持ち込み、何やらコソコソ動き回っています。
さて、傍から見たらどう思われるでしょう?
「ホーク・ゴルド!貴様の悪事もここまでだ!」
そうだね、性懲りもなく悪事を企んでいるようにしか見えないね??なんか黄金に輝く剣を俺に向けるハーレム主人公ヴァン以下、ヒロイン御一行様のエントリーだ!
ちなみに、ちょうど並行世界への扉を開く実験を開始した直後の出来事だった。許可もなく学者ギルドの奥の秘密研究室に彼らが大勢で雪崩れ込んできたものだから、状況はもう大混乱だ。
「邪魔をしないでくださーい!!今大事な大事な実験中なのでーす!!」
「ギルドマスタ―!あなたもグルだったのですね!?」
あ、なんか学者ギルドに籍を置いてるミント先生が勘違いしてる。まあ状況的に見てしょうがないよね。
「お爺様の鱗を盗み出すなんて許せない!一体どんな手を使ったっていうの!」
「盗んでないですもらっただけですー!!やーいやーい!!ハインツ様に自分の死をプレゼントされた可哀想なリンドウちゃんやーい!!」
「殺す!!っていうか、なんであんたがお爺様の名前を知ってるのよ!?」
「リンドウお嬢様、惑わされてはなりません!」
「そうですわ!そいつの話に耳を傾けていいことなんて何ひとつありませんでしたもの!」
黄金の邪竜としか知られてないからね。リンドウが驚くのも無理はないね。激昂するリンドウを諫めるローリエと、土でできたゴーレムを召喚し俺を撲殺させようとするサニー。
「命までは奪わないという皆様の慈悲を踏みにじって!!」
「あなただけはもう絶対に許さない!!」
「やはり殺しておくべきだったのよ!!」
車椅子なしで歩いているマリーが光の矢を撃ち込み、炎の剣を握ったハイビスカスが斬りかかってきて、憤怒の表情を浮かべたローザ。
「何故ですかお爺様!何故お爺様がこの犯罪者の悪事に加担するのですか!?」
「おおヴィータ。何故じゃと思うかね?」
「お爺様は騙されているのです!!闇魔法による洗脳ですか!?許せません!今解放して差し上げますわ!」
「協力しますよヴィータちゃん!」
ヴィータ・アクア。銀髪の水属性魔法使いで、学院長の孫。元いた世界線では中等部1年A組のクラスメイト、つまりはローザやピクルスに絡まれてる時にチラチラと名前と顔ぐらいは見知った美少女が、祖父の裏切りに激昂しながら魔法を放っている。
彼女をサポートしているのはいつかの緑髪の偽ロリ異端審問官だ。お前もヴァンのハーレム要員だったのか。知ってた。あきらかに重要キャラですみたいな顔してたもんな。
ローザ(闇)、マリー(光)、ハイビスカス(火)、ローリエ(氷)、ミント先生(風)、サニー(土)、オレンジ髪の山猫娘(電撃を纏ってるからたぶん雷)、いつかの鼠女(金属を錬成しているので恐らく金)、植物を生やして蔓の触手で動きを止めようとしてくる桃髪のシスター(木)、学院長の孫(水)。
そして、人間の使い手は数百年に一度しか現れないというレアな時魔法を自在に操るリンドウ。緑髪ロリは知らん。そして他ならぬ無属性を操れるようになったヴァン。
11種類+無属性。この世界に存在する12種類の属性の使い手たちが一堂に会し、邪悪な子豚に正義の天誅を加えるために戦う。何これ最終回??この世界の最終回なの?
でもこの後戦争がどうとかこうとか言ってたよ?ひょっとして、これは第1期の最終回なの?1期で王国編やって、2期で帝国との戦争編をやる的なサムシング??
「ホークくーん!!門が開きますよお!!」
「ちょっと博士!?何この状況で実験を強行してるんですか!?普通一旦中止してから後でやり直しますよね!?」
「ダイジョーブ大丈夫!!むしろこんだけ多種多様なエレメントがグッチャグチャに渦巻いている今こそ絶好のチャンスでえす!!ピンチをチャンスに変えちゃいましょう!!」
「なんだ!?」
空間がバチバチと歪み、12種類のエレメントが虹色に輝きながら16人もの人間がいるせいでメッチャ窮屈になった室内を爆ぜるようにうねりながら暴れ回る。
「だあもう!!こうなったらやったらあ!!」
師匠の鱗のお守りを掲げ、イメージする!俺は帰るんだ!あの世界に!あの時間に!帰りたいとかじゃなく、帰る!そう決めた!世界がどうとかこうとか、知ったことか!行きなさいホークくん!!と脳内でいい感じに自分を鼓舞する!
「やめなさい!!世界が悲鳴を上げているわ!!」
「よせえ!!」
リンドウとヴァン、俺が何をしているのか理解できたのはハーレム軍団の中ではあのふたりだけだろう。
空間にブルーレイディスクぐらいの大きさの穴が空き、その向こうに研究室が見える。
「ホークくん!?」
「そっちの世界の私!!今から私がそっちにパスを繋げます!!あなたも私にパスをください!!超特急で!!説明は後!!」
「なんだかよくわかりませんが、天才たる私の言うことなら間違いはないでしょう!!いいですよ私!!」
こっちの世界とあっちの世界。ふたりのオークウッド博士が協力して、空間に空いた穴を拡げる。ヴァンたちは必死にそれを止めようともがくが、エレメントの暴風や重圧により立ち上がることさえできないようだ。
「今じゃホーク!行け!」
「はい学院長!!」
そして俺が空け、ふたりが拡げた穴を、学院長が魔法で一時的に固定する。俺は手の平に握りしめていたお守り、師匠のくれた黄金の鱗と、この世界のパパが遺してくれた毒の小瓶を学院長に託し、フラフープぐらいの大きさになったワープゲートに向けて駆ける。
「逃がすかあ!!お前だけは、みんなを不幸にしたお前だけは、絶対に逃がすものか!!そのためにも、力を貸してくれ!!女神様!!」
「そうですわ!」
「今こそみんなの力をひとつに!」
「みんなを不幸にしやがったあいつに」
「裁きを!」
「正義を!」
「祈りましょう!」
「あいつを殺してくれ!」
「もう誰も不幸にならなくていいように!」
「もう誰も泣かなくて済むように!」
「この世に不幸しか生み出さないあいつが」
「どこかで新たな不幸を生み出さないために!」
「お願い女神様!」
虹色の輝きが。全ての属性エレメントが。弾けて混ざる。虹の濁流。そして、女神は降臨した。





