表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/467

第30話 フライングピッグマン大学デビュー失敗

やっぱりな、と思ったのは、大学に進学した俺が初めての講義で皆に紹介された時だ。


「本日からこちらでお世話になります、ホーク・ゴルドと申します。よろしくお願いします」


各種手続きを踏んでいる間に誕生日を迎え、11歳になった俺の新学期は、初等部二年生になるのではなく大学部一年生になることで始まった。といっても、想像していた通りの苦い幕開けになってしまったが。


基本的にこの世界では、学生達は十歳で初等部に入学し、十五歳で中等部を卒業して結婚するなり就職するのが一般的であるとされている。初等部三年分の学費を賄うだけでも平民にとっては大変なことであり、基本的に高等部は貴族の子供達の道楽の場だ。しかし、大学部以上になると、話は大きく変わってくる。


何故なら高校生になる分には学費さえ払えばエスカレーター式に進学していくことが可能だが、大学部への進学は、厳しい試験をパスしなければどんなに金を積んでも進学させてもらえない。学者ギルドや魔術師ギルド、宮廷魔術師団の人間達も数多く研究棟に出入りする大学や大学院は、この国の科学や魔法の研究機関を兼ねているからだ。


いつまでも貴族としての責務を果たさず、学院でモラトリアムを送りたいだけの怠惰な学生は、ただ研究の邪魔になるだけだと容赦なく篩いにかけられる。貴族だろうが、王族だろうが、そこに例外はない。大賢者マーリンの名の下に、やる気や才能や知識のない若者はどんな身分であれ弾かれる。その代わり、情熱と知識があれば平民でも活躍できる場所。王立大学とは、そんな場所なのだ。


なのでこの世界における大学生というのは自分達は既にこの国の将来を背負い立っている、選ばれた(誰にだよ)エリートなのだという自尊心が強い者が多い。研究さえできれば他のことはどうでもいいという変人もいるにはいるが、大多数は前者だ。


そしてそんなエリート大学生達の中から、卒業時に教授や講師達に『この子は見込みがある』と認定されたほんの一握りの天才・秀才だけが、大学院への更なる門戸を開かれる。彼らからの推薦を受ける以外に大学院に入学する方法はない。たとえ王族であったとしてもだ。


さて、ここで問題です。そんな大学院生を目指して日夜、自尊心と自惚れの強すぎる若者達が切磋琢磨している大学へ、学者ギルド長のオークウッド博士と大賢者マーリン学院長のお墨付きで、いきなり11歳の子供が飛び級してきたらどうなるでしょう?


「ああ、よろしく」

(は?意味わかんねえ。こんなことがあっていいのか?なんかの間違いじゃねえのか?)


「一緒に頑張ろうな!」

(ふざけんな。マジふざけんな。こんなガキと机並べてお勉強しろってのか?冗談じゃねえぞ)


「飛び級なんて、凄いじゃない!」

(あの子が落ちたのに、なんでこんなガキが?どんな汚い手を使ったのかしら?)


「フフ、可愛い子ね」

(信じられない。こいつあのゴルド商会のガキでしょ?やっぱりお金?お金の力ねきっと)


「天才児だかなんだか知らないが、僕の邪魔だけはするなよ」

(この子があの論文を書いたのか……盗作でないとしたら恐るべき才能だ)


相手の心の声を盗み聞きするのは人として倫理に悖ることは理解していたが、闇属性魔法の特訓と、この世界の大学生の実態はどんなもんなのかを見定めるためにあえて使用してみたのだが、案の定表面上は好意的に振る舞いながらも、内心穏やかならぬようだ。ま、そりゃそうだろ。逆の立場だったら俺だってそうなるかもしれないし。


それにしても、前世は高校一年生であっさり死んじゃった俺がまさかの異世界で大学生デビューとは。前世の両親にもこの晴れ姿を見せてあげたくなるな。まあ見せられても絵面的に困るかもだけど。


「それで?大学生活はエンジョイしておるかね」


「見れば判るでしょ?ただひたすら空気に徹してますよ」


そんなわけで友人なんかひとりもできるはずもなく、存在感遮断の魔道具を装備したまま講義では目立たぬよう常に隅の席にひとりで座り、ぼっち飯を満喫している俺が世界観にそぐわない食堂で大盛りのカレーライスを食べていると、同じようにカレーライスの載ったトレイを手にした学院長が現れ、俺の隣の席に座った。暇なのか、この爺さん。いや、好意的に見れば、俺のことを心配して様子を見に来てくれたのか。


考えてみりゃ小中学校の校長先生とかって、普段何をしてんのか全く分からなかったもんな。ちなみに規則上学院内に護衛やメイドなどの部外者を連れ込むことは特例が認められている王族でもない限りできないので、最近めっきり必要最低限の事務的な会話しかしなくなった俺の護衛トリオはここにはいない。


誰にも心を許せなくなった生活が寂しくないと言えば嘘になるが、いずれ全員解雇する予定の連中だ。深入りすればするだけ、別れが辛くなる。あいつらはもう要らない。俺はひとりでも生きていける。前世でもそうだったのだから、同じことをするのは難しくないはずだ。


ローザ様やピクルス王子とも、放課後に呼び出された時に仕方なく顔を出す時以外はほとんど顔を合わせる機会も理由もない。サニー?知らない子ですね。


「ふむ、この程度の闇属性魔法による認識阻害も見破れぬ者達ばかりとは、誇り高き王立大学の質も年々落ちておるのかもしれんのう」


「俺が闇属性魔法を使うまでもなく、彼らの目は偏見の色眼鏡で曇ってたみたいですから、余計に心の闇に干渉しやすかったというのもありますがね」


「学問とはフラットな目線で物事を多角的に観察することから始まるものじゃ。人であれ物であれ、最初から主観的な思い込みだけで、こうと決め付けてかかるというのは感心せんのう」


「そう思うのなら直接そう言ってあげればいいじゃないですか。誰かに指摘されなきゃ気付けないことってのも結構ありますよ世の中には。若いうちなんかは特にそうでしょ?……ああ、やっぱ今のなしで。俺が学院長に不当に依怙贔屓されている、と思われるだけでしょうから」


「相変わらず、子供らしからぬ発言じゃのう」


「すみませんね。こういう性分なもので」


「お主はそれで、寂しくはないかね?」


「寂しがり屋が許されるのは美男美女だけだってご存知ありません?」


衝突から始まる人間関係というものも、世の中には確かにあるのだろう。最初は反目し合っていても、ぶつかり合っていくうちに相互理解を深め、やがて少しずつ打ち解けていく。そんな少年漫画めいた出会いもきっとあるはずだ。だが笑顔の裏に悪意という刃物を隠し持ち、こちらを傷付けてやろうと画策しているような連中に、笑顔でぶつかっていく奴はただのバカだ。少なくとも俺はぜってーやりたくない。


そういう綺麗ごとは、ヴァン君のような主人公に任せておけばいいんですよ。いや、逆か。主人公だからそういうことができるのではなく、そういうことができるから、主人公のような人生を送れるのかもな。


「ゴルド、少し時間いいか?前回話した風属性魔法による加速と雷属性魔法による加速と光属性魔法による加速の方向性の違いについての話なのだが……」


「ゴルド君少しよろしいですか?学内では発動しないように結界で封じられている洗脳・催眠・魅了の魔法を学外でかけられた人間が学内に侵入した際の防犯対策についての議論の続きを……」


「ゴルドくーん!今日も楽しい楽しい討論会のお時間ですよ!え?ギルド長としての仕事はどうしたのかって?そんなもの、研究の前ではあまりに些事!吾輩の天才的頭脳は誰にでもできるような退屈極まりない事務仕事などではなく、研究に使用してこそ輝くものなのです!」


一方、教授や講師、外部から出入りしている学者ギルド・魔術師ギルドの人間達からは、概ね好意的に受け入れられている。というのも、変人奇人揃いの大学院出身のマッドサイエンティスト達は、魔法の話さえできれば相手が平民だろうが11歳の子供だろうがなんでも構わないようだからだ。


大学生達に嫌われる→でも教授や講師達からは気に入られて可愛がられている→嫉妬でますます嫌われるという負の連鎖。こりゃもうバラ色の大学生活は諦めるよりないな。


せめて知己の仲であるミント先生がまだ在学していてくれたなら少しはマシだったのかもしれないが、彼女は何年も前にとっくに卒業して教育実習も終え、この春から高等部で正式に教師になったらしいので、望むべくもない。今度、お祝いに菓子折りでも贈っておくか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「萌え豚転生 ~悪徳商人だけど勇者を差し置いて異世界無双してみた~」
書籍版第1巻好評発売中!
★書籍版には桧野ひなこ先生による美麗な多数の書き下ろしイラストの他、限定書き下ろしエピソード『女嫌い、風邪を引く』を掲載しております!
転生前年齢の上がったホークのもうひとつの女嫌いの物語を是非お楽しみください!★

書影
書籍版の公式ページはこちら


ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ