俺はメスガキと繋がっていた
三人のお胸がたぷんとした美少女が、キングサイズベッドの上であられもない姿で寝ている。
そのうちの一人に俺はベッドから蹴り落とされ、俺は痛みでのたうち回った。
「おいこらメメ」
「やんっ怒らないで♥ 身体に障るでしょ。ほら、ザコお兄さんのせいでお腹大きくなっちゃったぁ♥」
メメは自分の膨らんだお腹を撫でた。
「食いすぎだ」
メメは食っちゃ寝生活をしていた。幸せ太りである。いや意味が違うか。
ドラゴンを退治し金銀財宝を持ち帰った俺たちは、夢物語のように金持ちとなった。そしてドラゴン御殿を建てたのだ。
「なんじゃ騒々しい」
「デブ狐」
まるまる肥えた狐の美女がごろんと転がる。ヨウコはマナを取り戻し、本来の大人の姿に戻った。そして太った。
「わちのせいじゃない……。仕事のせいじゃ……」
「シエラは太ってないもん」
「シエラは偉いなー」
俺はベッドの上のシエラの頭をなでなでした。
「ずるい!」
メメはごろりと転がり近寄ってきて頭を擦りつけてきた。ヨウコもそわそわとしている。
「お前ら甘え方が上手くなってないか? もう小さくないんだぞ」
「ザコお兄さんはこういうのに弱いんでしょ♥」
「んむ。主は前からシエラに甘かったからのう」
するとシエラは得意げな顔して抱きついてきた。
「シエラ、良い子だから」
「うんうん。シエラは良い子だねー」
「またそうやって甘やかすのじゃ」
「大人バージョンになって上げてるのよ♥ ほらほら♥」
メメの胸とともにたぷんと腹が揺れる。凹ませろ。凹んだ。いつ見ても不思議な消化力だ。悪魔はうんこしないとでも言うのか。メメのお腹が輝き出す。それはマナか。強いマナを感じる。
悪魔はマナ溜まりから生まれた半マナ生物だという。それゆえ食物でマナの不足を補っているのだろう。多分。
「ほらほら。仕事に遅れるぞ」
「ふぁーい」
メメはのそのそと、ヨウコはたぷたぷと、シエラはぴょこんとベッドから下りた。
三人娘はパフィの店の看板娘だ。観光客も増え、どでかい店舗に改装された。
俺は冒険者を辞めた。
だって向いてないし。適正は暗殺者だし。思ってたのと違う……。
そういうわけで今は俺は本を書いている。怠惰な日々を送っていたらアリエッタに奨められたのだ。何かしろよと。自叙伝を書いてちびっ子を笑わせるつもりだ。思いっきりネタっぽく書いてやる。アリエッタの登場シーンも増やしてやれば喜んでくれるだろう。
アリエッタはその本好きが高じて図書館を建てた。その中の一室がこの生活区域だ。上でドラゴン御殿とか言って嘘付いた。共同出資だ。俺は警備員みたいなものだ。自宅警備員である。
シリスは街の薬師となった。薬師のババアはくたばっちまったらしい。リルゥとともに店を引き継いだ。シリスはエルフの森の再建を諦めていないらしい。元オークの村にエルフを集めようとしている。そうしないと森が死ぬとかなんとか。エルフならばマナの濃い水源でも平気だそうだ。
ディエナは街から出ていった。人が増え彼女には住みにくくなったようだ。山奥にでも行ったんじゃないだろうか。そのうちふらりと帰ってきそうではある。
リチャルドはドラゴン殺しの英雄リチャルドとして日々活動をしている。ほぼアイドル活動だな。新聞にも載った。ケルベロス殺しだのドラゴン殺しだの他所では創作話と思われているようだがな。
穴は封鎖されている。ドラゴンの財宝を聞いて入り込もうとする奴がいたからだ。しかしそもそも、穴は塞がってしまった。あの白いマナの壁の辺りで埋まってしまったのだ。役目を終えたということなのかなんなのか。そもそもあの穴は結局なんだったのか。その辺はアリエッタ女史に任せるとしよう。古代魔法国エルシアの遺産だのなんだの長話で語ってくれるはずだ。
意外なとこで語りだしたのはミッシェルだ。黄金の天使マニアだ。結局関係ないじゃんと思ったのだが、黒いマナは黄金の天使を語るには密接な関係があるらしい。彼曰く、黄金の天使がマナ溜まりから吸い上げた黒いマナを捨てる場所として、あの穴が作られたと言っている。
アリエッタは「穴自体はマナの濃さ以外は生窟の特徴よ」と意見がぶつかり合っている。まあ、省こう。
俺はぐりりと背中を伸ばし、剣を手にして外に出た。今でも素振りは続けている。俺は結局ドラゴンに剣を一度も振らなかった。それだけを後悔している。あの巨大な身体の龍鱗に剣をぶつけるとどんな手応えだったのか、俺は知らない。そんなこと悔いているなんてメメに言ったら笑われそうだけど。
俺はふらりと街に出た。街の住民は俺の事など知りはしない。せいぜい『悪魔付きのザーク』と懐かしい名で呼ばれるくらいだ。ドラゴン討伐隊の一人だと知ってるマニアだとしても、小間使いで上手いこと寄生した奴くらいの扱いだ。まあそのくらいがちょうどいい。
情報屋の大将の不味い林檎を手にし、冒険者ギルドへ入った。特に用事はない。冒険者ギルドもだいぶ様変わりをした。俺たちの狩ったケルベロスやヤマタノオロチの像が飾られている。これらはもはや恐怖の対象ではなくなっていた。
新人の受付嬢が俺のことを訝しげに見てくる。いたたまれなくなり出ていこうとしたところ、世話になったベテラン受付嬢が近寄り声をかけてきた。特に用事はないと告げるが、部屋の奥へ連れ込まれた。
「お願いがあるのですが」
「俺はもう冒険者じゃねえぞ」
まあ話しだけは聞こうとソファに座る。懐かしのソファだ。地震直後の一時期はここで寝泊まりをしていた。
「実は、幽霊が現れるのです」
「へー。どんな奴」
「見てください。これを」
お茶請けのクッキーが並んでいる。その一枚が半分囓られていた。
「これが何か?」
「幽霊が囓るんです」
「ははっ。そんな馬鹿な――」
とことこと幽霊が俺の膝の上に乗って、欠けたクッキーを俺の口に放り込んだ。
「え? ザークさん? 何をしているのですか?」
「ああ。その幽霊が膝の上にいるんだ」
白い小さいシエラがにこにこと笑い、身体を揺らした。
「えっ……え?」
「悪い霊じゃないからこのまま居させてくれないか」
「あ、はい。本当に害はないんですか?」
「お菓子は食うけど」
白い小さいシエラがクッキーを手にしてぱくりと口にした。
「え、ええ……」
「多分この幽霊は俺が創り出したんだ。いや幽霊というより精霊なんだと思う」
「精霊!? 本当ですか!?」
精霊のいる家には幸運が訪れる。きっと冒険者ギルドはお菓子を対価にこの先も繁盛し続けるに違いない。
白いシエラは俺に付いてくるかと思ったが、バイバイと手を振り見送った。俺は手を振り返して後にする。
次に俺は教会へ向かった。
ジス教は異教徒を排斥するが、黄金の天使教は取り入れることにしたようだ。俺は黄金の天使教と嘘を付いて入り、聖女様とアポを取る。
聖女様はさらに胸が大きくなっていた。
「お久しぶりですね。ザークさん。どうなさいましたか?」
「ちょっと旅に出ようと思ってな。挨拶がてらに」
「あらまあ」
俺たちは取り留めのない会話をする。話しの中心はその黄金の天使についてだ。黄金の天使マニアのミッシェルによると、黄金の天使は過去に三人いることが判明したのだ。
太古の時代に多くの国を戦争に巻き込み滅ぼした悪魔。
そしてエルシア時代に各地のマナ溜まりを浄化した聖女。
最後にエルシアの女王。
黄金の天使の存在があやふやだったのは、黄金の天使と呼ばれる存在が過去に三人いて、それらの話しがごっちゃになっていたからだと言う。まあ細かい話しは置いといて、その中のエルシアの女王は回復の奇跡の使い手だったのだ。
つまり、聖女様も黄金の天使の一人ということである。
まあ色々あって、ジス教の中では黄金の天使教は一派という扱いとなった。しかし実のところ、名を持たぬ民から広まったジス教は、黄金の天使教の一つではないかとミッシェルは言う。つまり、本当は逆なのだが……まあその辺もジス教としては譲れない所もあるのだろう。
「ところで、リチャルドとの婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます。ふふふっ」
「あいつ、ああ見た通り抜けてる所が多いんで、支えてやってくれ」
英雄リチャルドは領主の養子となり、聖女様と婚約した。
それが彼の本当に望んだ事なのかは俺にはうかがい知ることはできないが、軋轢もなく元気そうなので、いいのだろう。
話しが一段落付いたところで、聖女様は机に身体を乗り出した。胸が机に押しつぶされている。
「街の怪しいカルト教団の噂をご存知でしょうか」
「知らんなぁ」
「なんでも、それは、その、女性の乳房を信仰するとのことのようですが……」
俺は異端審問をかけられる前に教会から逃げ出した。
教会から出ると陽が沈みかけていた。復興した街は魔法石の灯りで夜も明るくなった。
パフィの店の前で、アリエッタと出会った。
「聞いたわ。ダークエルフの国へ行くんだって?」
「ああ。パフィさんの使いでな」
「死にそうになったら私を呼ぶのよ」
そう言って、黒い立方体の付いたネックレスを俺に渡してきた。
「これって、もしや……?」
「ふふん。例の転送魔道具よ」
「このサイズで再現したのか……!? お前本当に天才だな!」
「転送はできないわよ」
「飾りかよ」
アリエッタはにひひっと笑った。
「付けてみてよ」
言われた通り首からかけてみると、途端に身体が重くなった。
「んええ!? なんだこれ……マナが吸われるぅ!?」
「そう。凄いでしょ」
「呪いの魔導具じゃねえか!」
「失礼ね。マナ溜まりに使えるでしょ」
うん……。うん? あれ? これ凄くね?
「じゃあね。あ、そうそう。ねえ」
「なんだ?」
「三つ目の質問ってなに? 気になってるんだけど」
「あー、別に大したことじゃない」
「言わないと殴る」
「アリエッタの歳は結局いくつなんだ?」
言ったのに杖で殴られた。
「じゃああんたはいくつなのよ」
「十九だが」
「穴から出た時に十年経ってるのに?」
「あっ。あれ? そうだな……?」
アリエッタは答えずに去っていった。つまりそういうことなんだろう。きっとわからないんだ。
その後パフィさんに挨拶し、お別れを言った。といってもすぐに戻ってくるつもりだが。
パフィさんの店はドラゴンマネーで大きく改装した。三人娘のウェイトレスで盛況のようだ。ちなみに最近は遠い北西の島のメイドスタイルのコスチュームが彼女らの中でブームらしい。いやまあそれは置いといて。
シエラの願い通り、街はお菓子が人気の観光地となりつつあるが、人気になりすぎて砂糖の需要が高まった。元々砂糖はパフィさんのダークエルフのコネで大量輸入しているものだ。しかしいくら金があるからといって、物だけ要求し続けることに限度はある。そこで俺たちがダークエルフの国に行ってちょっくら挨拶しに行くのだ。
「おおい帰るぞー」
三人娘はパフィさんとお別れを告げて、メイドスタイルのまま店から出てきた。なんで? その姿で旅に出るって? 侍女を引き連れた富豪設定で行く? わからん。
そんなことよりいつものあれだ。
「今日もやるのー? 疲れてるんだけどぉー」
「ちょうどいいハンデだろ」
メメと素手で対峙する。
「がんばれー。ご主人さまー」
シエラの応援でやる気が色々とムクムクしちゃう。うむ。俺頑張っちゃう。
「ちょっとぉ、ザコお兄さんは私の眷属だって言ってるでしょ♥」
「むー。シエラのだもん」
「これこれ、悪魔同士で喧嘩するでない」
いつの間にか俺はメメの眷属になっていた。この火傷の首輪を付けられた時からだ。くそ。どうりでメメに逆らえないと思っていたぜ。
それはともかく、本日も一本勝負だ。
「はいはい。顔に一発入れた方が勝ちね♥」
「いくぞ!」
俺はマナの風となる。俺の首の火傷痕は林檎色に光り、メメのマナに呼応した。
完結です。ご愛読ありがとうございました。残り一話はエピローグです。
一話約3000字縛りで進めてきましたが、最後だけちょっと多くなってしまいました。えへへ。
シリーズにするつもりはなかったのですが、「黄金の天使の伝承世界」として処女作とまとめました。よしなに。




