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オパーイ

「凱旋じゃあ!」


 俺は意気揚々と樽に財宝を詰め込んだ。


「おいザークよぉ! それ運ぶのアシだろぉ! 加減しろやぁ!」

「ええ? 無理なんすか姉御ぉ」

「何言ってんだ! 運べるさあ!」


 ディエナの姉御が俺の背中をバンバンと叩き、ガハハと笑う。

 持ち帰るものを巡ってアリエッタは指示を飛ばす。


「金貨より宝石を優先よ。この金貨はアンティークコインじゃなく、現代のものよ。全く知識のない者の余計な意思で創られているわ!」


 アリエッタはぷりぷりしながら選別をしていく。

 俺は金貨は金貨なんだから別に良いと思うんだが。そう主張するとアリエッタに鼻で笑われた。


「金貨ばかり持ち帰っても何も買えないわ」

「いや、金貨なんだから買えるだろ」

「ははっ」


 笑われた俺は渋々アクセサリを集中して掘り出していく。メメなんか身体中が貴金属まみれになっていた。


「重いよぉ……」

「宝石が付いてるやつだけにしとけよ……」


 メメは金の腕輪までぎっちり付けて、関節が曲がらなくなっていて、俺は爆笑した。笑ってもメメは俺を殴れない状態だ。俺はメメの身体からあちこち外してやった。


「みなさん、そろそろ切り上げましょう。いいですね?」

「はーい」


 リチャルドの号令で、えいしょと荷物を抱えて階段を登り始めた。

 ドラゴン素材は全てを持ち帰るのは不可能なので、目玉二十個と、良さそうな龍鱗をいくつか、角も適当に数本を樽の中にぶちこんだ。

 ヨウコが言うには一番のお宝はリチャルドの腰にある、ヤマタノオロチの身体から出てきた剣だ。聖剣みたいな切れ味とは思ったが、ヨウコが言うには本当に、聖剣どころか神剣だという。まあしかしレプリカみたいなもんだろう。穴が創ったものは全て夢の中のようなもんだ。

 階段を昇っていくと、胸の魔石の音がはっきりとするようになってきた。「ザザザザザ」というノイズは次第に「ザーク……ザーク……」とシエラの声となり始めた。俺は魔石を握りしめ「今から帰るぞ」と送った。

 蔦のロープの場所まで来たが、蔦が無くなっていた。ここまで階段が伸びていたのだ。リルゥが創ってくれたのだろう。


「蔦だったら登れなかったね♥」

「ああ確かに。大荷物だもんな」


 階段の強度が不安なので、シリスの魔法で強化をし、少しずつ運び出す事にした。

 俺が最初に昇ったのだが、空が無かった。そこはコンクリートで固められた一室となっていた。


「はは。俺たちが潜ってる間に囲んじまったのか」


 奥に潜るほどマナによる時間の歪みで、地上とは時間の差ができる。かなりの時間が経っているようだ。一ヶ月か二ヶ月か。


「ざ、ザークぅ!?」


 知らない衛兵のおっさんが俺を見て腰を抜かした。


「生きてたのかお前!」

「ああ今戻った。衛兵担当変わったのか? 誰だっけあんた」

「俺だよ! ピゾットだよ!」


 誰だよ。


「わかんねえの? 十年前にドレイク狩りで一緒だったくらいだからなぁ。いやぁ懐かしいなぁ。良く生きてたなぁ」

「あードレイクの……」


 十年!?


「他のメンバーはどうした? まさか……」

「いや生きてる。全員生還……だ」


 全員生還と口にして、胸がチクリと痛む。黒もやのシエラとリルゥはいなくなった。俺の脳内にはまだ二人が死んだ瞬間の姿が残っている。


「そうかそうか! 十年も何してたんだ?」

「穴では時間の進みが違うんだ。ほら、年取ってないだろう?」

「はー。確かに」

「みんな戦利品を抱えて下で待ってるんだ。運び出すの手伝ってくれないか? ああいや、そうだな。小分けにして運ぶための箱が欲しい。階段の強度が不安なんだ。ギルドにそう伝えてくれ」

「そんなにか!? おしわかった! 任せとけ!」


 俺は彼に続いて外に出た。

 二、三日ほどしか潜っていなかったはずだが、太陽が眩しい。メメも穴から出た時はこんな感じだったのだろうか。

 町は復興していた。本当に十年経っているようだ。信じられんが、街は地震の前の活気を取り戻していた。

 俺はパフィの店に向かう。底でさんざん俺が喚いたせいか、「先に店に行ってその目で確かめて来い」と先に地上に追い出されたのだ。俺は通信の魔石を握りしめ、「地上に戻ったぞ。いま店に向かってるところ」と伝えた。すると魔石が光り、「ザーク!」と少女の声がした。誰?

 そしてしばらくすると、前から長い桃色で虹色に輝く髪を揺らし、美少女が胸を揺らして駆けてきた。誰?


「ザークぅ!」

「うわっ!」


 人目もはばからず美少女は俺に抱きついてきた。胸に胸が当たる。うむ!


「ザーク! おかえり!」

「ああ。ただいまシエラ」


 シエラかな。シエラだよな。シエラだろうな。と思っていたが、やっぱり美少女はシエラだったようだ。昔のように甘い香りを漂わせていた。

 そして昔のようにぷぅと頬を膨らませた。


「ザーク! ひどい!」

「ああ、ちょっと遅くなったな」

「ちょっとじゃない! 『今から帰る』と聞いてから一年待った!」

「そんなに」


 まだかなり穴の深いところでメッセージを送ったのだった。それが一年前か。


「時間の歪みを忘れてた。悪いことしたな」

「んーん! 戻ってきたから嬉しい!」


 シエラってこんなハキハキ喋る子だっけと思いつつ、そりゃ十年だもんなと思い直す。ぷにぷに幼女もぷにぷにおっぱいにそりゃ変わるさ。でも、甘えん坊なところは変わっていないようで、俺の頬に頬を擦り寄せてきた。

 恥ずかしいぞと思っていたら、もっと恥ずかしいことを人だかりができはじめた公衆で言われてしまった。


「結婚して」

「はい?」


 はい?


「シエラ大きくなったから」

「はい」


 はい。


「なったから!」

「なったね」

「お嫁さんにしてくれるって言った!」


 シエラが俺に唇を重ねた。周囲から冷やかしの声が上がる。


「そんなこと言ったっけ?」

「言った!」

「それじゃあしょうがないな」


 俺はシエラの手を取り、俺の胸に当てた。

 そして俺はシエラの胸に手を当てた。

 シエラは顔を赤く染めて、目を細めた。


「やん。なにー?」

「シリスから聞いた古代の婚姻の儀式だ。お互いの手を胸を当て、愛を表す古代語『オパーイ』と口にする」

「オパーイ?」

「オパーイ」


 すると穴から真っ白いマナが噴き出して、雪のように街に降り注いだ。

 俺たちの周りでぐるぐると円を描き、塊となっていく。そしてそれは小さいシエラとリルゥと姿を成した。


「小さいシエラだぁー」


 白い小さいシエラとリルゥはぴょんこぴょんこと跳ね回った。


「シエラ。お菓子を創る魔法はまだ使えるか?」

「うんっ!」

「あの子のためにでかいの頼む」

「わかったー」


 再び白いマナが渦を巻き、目の前に超巨大なケーキが出来上がった。穴くらいの直径の超巨大ホールケーキだ。

 白いシエラとリルゥは超巨大ケーキに飛び込んだ。

 街の子供たちも真似してケーキに飛び込んでいく。

 大人たちは唖然としてケーキに溺れる子供たちを見つめた。


「でかすぎじゃない?」

「えへへー」


 そんな中、ケーキに向かわない幼女が俺の手を取った。耳が尖っている。


「……(くいくい)」

「穴に行くよって言ってる」

「リルゥは変わってないんだな……」


 ほとんど変わっていない。いやちょっとは成長したかなって感じのリルゥは、ケーキに溺れる白いリルゥを見て首を傾げて、俺たちを穴へと引っ張っていった。

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