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俺の才能

 潜り始めてから丸一日が経った。さらに地下へ潜った俺たちは、牛鬼という牛の頭をした蜘蛛の妖怪に苦戦した。奇襲で毒を食らい危機に陥ったが、聖女様の奇跡で回復し乗り切った。

 そしてついに底が見えた。

 壁に魔法の篝火が灯され、明るく保たれている。そこには物語のように金銀財宝が転がっており、ドラゴンが真ん中に眠りこけていた。


「こりゃあマジで物語の世界だな……」


 さすがのディエナの姉御もドラゴン相手に突然斬りかかるようなことはせず、息を潜めて階下を眺めた。


「そんでメメが求めたってわけじゃあなさそうだな」


 もしかしたらドラゴンも、ケルベロスのように町のみんなの影響を受けたのかもしれない。巨大な穴の中には財宝の中でドラゴンが眠っている。そんな妄想を誰もが一度はするだろう。俺だって。

 金貨何枚あるんだろううへへへと思っていたらリチャルドに釘を刺された。


「財宝には気を取られないでください。どうせ持ち帰ることができるのは一部だけです」

「そ、そうだな」


 俺はすでにお宝に心奪われていた。だけど熱が入っている俗なのは俺だけだったようだ。みんな食欲やら、本やらにしか興味ないやつばかりだ。


「さてどうやって攻略しましょうか」

「え? 俺? うーん……寝てるし奇襲でいいんじゃないか?」


 もしかしたらすでに俺たちに気づいて寝ている振りかもしれない。かといって目の前で名乗りを上げて戦うよりは楽に勝てる確率は高いだろう。


「そりゃあ無理だろう。ドラゴンだぜドラゴン」

「あれ? 姉御にしては慎重っすね」

「アシだって力量差はわきまえるさ。ザークおめえわからねえのか?」


 わからない。

 もちろんドラゴンの巨体に恐怖は感じるが、ケルベルスやさっき戦った牛鬼だって恐ろしいモンスターだった。そこに違いを感じられない。

 ああそうか。姉御はきっと、マナが見える人なのだろう。いや、ここにいるほとんどが、わかる人なのだろう。俺だけ凡人さを否応なく感じさせられてしまう。

 メメがひょっこり俺の肩に頭を乗せた。


「ねえねえ。ドラゴンってトカゲだから寒さに弱いんじゃなかった? アリエッタの氷魔法を使えばいいじゃない」

「あーそれねー」


 アリエッタは顎に手を当てた。


「エッタの氷魔法は超近距離でしか使えないのよ。だから普段は炎変換の杖を使ってるの」

「役立たねえな」


 俺がぼそりと口にすると、ゴンと杖で頭叩かれた。

 姉御がじろりと睨む。


「おい静かにしろや」


 うーんとみんな悩み、案をいくつか出し合う。シリスとリルゥの植物魔法で拘束を狙うのが第一候補だ。

 だけどメメは俺の奇襲案を再度出してきた。


「ねえ。ザコお兄さんって隠蔽の魔法使えるでしょ?」

「え? 使えないが」

「マナでこう包み隠すの」

「あー……」


 そういえばメメやリチャルド相手に近づく時に試した気がする。

 だがあれは俺の煩悩を力に変えた技だ。ドラゴン相手となると難しいだろう。


「ザークおめえそんなことできたのか」

「はい。僕も驚きました。暗殺者系の適正があるようですね」

「暗殺者……」


 俺は俺の知らないうちに暗殺者になっていたようだ。やだよ暗殺者って。歴史の表舞台に出てこないやつじゃん。俺だってそこそこの名誉は欲しい。


「暗殺者なら顔を隠さねばな。ほれ」

「んん!?」


 ヨウコが後ろから布で俺の顔をぐるぐる巻きにしてきた。


「どこからこんなものを……」

「拾った一反木綿の布じゃ」

「モンスター素材をそのまま顔に巻きつけるなよ!?」

「ただの布じゃぞ。ほれ、良い感じじゃ」


 目だけ露出させた俺を見て、一同笑いを堪えている。何だこのやろう。

 アリエッタは口を隠しながら「隠れて近づくなら良さそうねその布。息遣いを抑えられる」と外そうとした俺の手を止めた。このまま行けと。

 リチャルドが真面目な顔に戻り、メメに続きを聞く。


「でもザークさんが近づいた後の策はどうするんです?」

「アリエッタと一緒に近づくの。奇襲で接触で氷魔法。エルフ二人で拘束。大女が首を落として上手くいけばこれで終わりでしょ」

「なるほど。みなさんはどうですか?」


 ディエナの姉御がニカッと笑った。


「いいのかぁ? それじゃあチビたちの出番がないじゃあねえか」

「私とヨウコは囮になるよ。リチャルドとシエラは聖女様を守るの」


 リチャルドは全員の顔を眺め、静かに頷いた。


「わかりました。それで行きましょう」


 それぞれが配置に付く。

 まずは俺とアリエッタが本当に気づかれずに近づけるかどうかだ。それぞれが初動に失敗したときのバックアップに立つ。

 失敗しても大きく流れは変わらない。シリスとリルゥが植物でドラゴンを拘束し、メメとヨウコが囮に走り、その隙にディエナの姉御が首を落とす。またはアリエッタが氷漬けにする。


「まず俺が上手くいくかどうかだな」

「なによ。制御できないの?」

「それなんだが……尻を触らせてくれ」

「先に凍らせてほしいの?」


 アリエッタが俺の手を掴んだ。冷たい。


「俺の魔法の発動に必要なんだ」

「くっ。迷惑な条件ね……」


 俺は周囲のマナに意識する。すると見えていなかったマナの流れが見えてくる。ああそこに御座おはすはおっぱい神さま。おっぱい神さまもたぷんとその姿を揺らし、俺の事を見てくださっている。いや、おっぱい神は俺ではなく、聖女様の事を見ていた。まさか聖女様もおっぱい神の加護を!? それならばあのおっぱいも納得がいく。神に祝福されたおっぱいだったとは……!

 俺のマナは周囲に溶け込んでいく。


「凄い……どこへ消えたの……?」

「隣りにいるぞ」

「ひあっ!?」


 俺はアリエッタの尻を掴んだ。そして俺のマナをアリエッタに覆っていく。アリエッタはぶるぶると気持ち悪そうに身をよじった。


「なにこれ……うわっ……気持ち悪っ……」

「どんな感じだ?」

「肥溜めに落ちたみたい」

「そりゃあ酷い」


 そういやアリエッタは俺のマナがうんこ色とか言ってたな。くそ。

 マナを周囲に合わせるように。黒く、黒くしていく。


「ねえ。あんたはマナが見えないと言っていたのに、どうしてこんな芸当ができるのよ」

「わからない。胸や尻を触るために自分の事を消そうと思ったらできた」

「才能ね。酷い才能だけど」


 褒められた。魔法マニアのちびっ子に褒められたのは存外嬉しかった。そうか。俺にも魔法の才能が合ったのか。元々何もできなかった俺が。ついに認められたのだ。


「うう……」

「泣いてるの?」

「すまん。マナが眩しくてな……」


 誤魔化しだったが、それも事実だ。黒く淀んだようなマナは、下っていくうちにキラキラと輝き始めた。俺のマナもそれに同調させて気配を消す。


「なあ」

「なに?」

「今のうちに三つ聞いておきたいことがあるんだが」

「なによ」

「この前持ち帰った本の中身はなんだったんだ?」

「そんなこと? 随分と余裕があるのね」

「死んだらもう聞けないだろ」

「そうね。あれは古い魔法書。歴史や魔法体系の裏付けとしての価値しかないわ」

「そうか」

「他は?」

「穴に影響が出るかもと言って秘密にしたことがあっただろ?」

「うん、まあいいわ。ただの仮説だからね」


 マナが焼けるように熱い。マグマの中を歩くようだ。本当にそうだったら死ぬからそんなわけないが。イメージだ。


「六つの転移装置。それはただの補助機能。目的はマナを集めることなんじゃないかって」

「話しが長い」

「とすると、この穴は誰かが目的があって創った空間かもしれない。記憶を読む力もそのため。ただ願いを叶えるだけならいらない」

「はよ」

「過去へ行くことが目的なんじゃないかなって」

「そんなこと……できるのか?」

「魔法に不可能はないわ。理論上はね」

「突飛な発想だな」

「ねえ。あんたは過去に戻りたいと思う?」

「いや、ないなぁ」

「でしょうね」


 家族を無くし、リチャルドと会う前だったら戻りたいと思ったかもしれない。でもどうしようもなかっただろうなという気持ちもある。


「過去を変えたら今の俺は無くなるんだろ? ドラゴン退治の功績も無くなっちまうじゃねえか」

「もう斃したつもりでいるのね」

「そう思わなきゃ手の震えが止まらねえ」

「あんたは何もしないでしょ。やるのはエッタよ」

「なあ今だから言うけどさ」

「なに」

「自分の事をエッタというの子供っぽいぞ」

「あとで殴るわ」


 俺たちは、寝ているドラゴンの顔の目の前にまで来た。顔だけで俺の背よりもでかい。口を開いたら丸呑みだろう。


「三つ目は?」

「生きて帰ったらな」

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