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俺は酔っ払いの言うことなど信じない

 世の中は誰かが何かしらに関わって回っている。俺は俺の代わりなんていくらでもいると思っていた。だが、俺の代わりなんてここにはいない。誰もできやしないんだ。


・暴力脳筋女――ディエナ

・常に離れて不快そうな顔を向けるエルフ女――シリス

・小言が多いちびっ子魔法使い――アリエッタ

・生真面目で頑固で融通の効かない――リチャルド

・教会箱入り娘の聖女様――バンテリア

・暴力メスガキぺたんこ――メメ

・脳内お菓子一色ぷにぷに幼女――シエラ

・自称精霊のロリババア狐っ娘――ヨウコ

・ボディランゲージのみの幼女エルフ――リルゥ


 そして、誰にでも優しく諍いを起こさない、みんなの緩衝材の俺、ザーク。

 自己中マイペースしかいなくて、俺が居なかったら立ち行きいかない。

 こんな奴らの相手が誰ができる?

 ディエナとメメが酒飲みくらべを始め、俺は部屋の隅に逃げ出した。


「お疲れ様です」

「聖女様……」


 聖女様がお酒を手にしてやってきた。俺はそれを素直に受け取り口にする。皮も種も混じっていない上等なぶどう酒だ。

 壁を背に座り込んだ俺の前で聖女様が屈み、目の前におっぱいがたぷんと揺れる。

 聖女様は俺の前から何故か動かず、俺は沈黙に耐えられなくなり口を開いた。


「聖女様はなぜ付いて来られたのです?」

「やはり迷惑でしたでしょうか……」

「嫌味で言ったんじゃあない。ただの世間話だ」

「そうですね。ザークさんは優しい人ですね」


 なぜか俺の好感度が上がった。

 俺はジス教ではないが、聖女様のおっぱいになら信仰できる気がした。

 聖女様は「ふふっ」と笑い、俺の隣に来て同じように地面に座った。


「ザークさんが町の権力者たちに逆らうと聞き及びました」

「誤解だ」

「ええ。それでリチャルドさんもザークさんに付いていくとおっしゃいました。あの方も不満を漏らしておりましたから」

「へえ。あのリチャルドが」


 あれもあれで抱えてたのか。というか、聖女様とそんなに親交があったのか。俺も混ざっていたらもっと仲良くなれていたかもしれない。くそ。どうして俺の周りにはぺたんこしかいなかったのだ。俺は絶望した。


「ですのでわたくしも逆らおうと思ったのです。リチャルドくんが連れ出してくれました」


 くん付け。くん付けだと!? 俺は嫉妬した。リチャルドは俺のものなのに。いや違うそっちじゃない。俺だっておっぱい大きい子と親しくなりたい。俺の知り合いのおっぱいと言えばお菓子屋のパフィのお姉さんの褐色おっぱいだが、パフィさんには手を出すつもりはない。それというのもパフィさんにはシエラの看病の頃から世話になりっぱなしで、そういう対象に見ることはできないのだ。俺にだって節度はある。


「聖女様はリチャルドの事が好きなのか?」

「い、いえ……そんなこと!」


 とかいいつつ、手で隠していやいやするその顔は恋する乙女だ。


「まあどっちでもいいが、あいつの事を支えてやってくれ。あれは見ての通りダメな奴なんだ」

「ザークさんにはリチャルドくんがそんな風に見えるのですね」

「ああ。昔から子供みたいな奴だった。いや、会った頃は子供だったのだが」

「聞かせて貰えませんか? リチャルドくんの昔の話し」

「そうだなぁ」


 早めの休憩を取ったせいで眠気はない。ただ目を瞑って時間を過ごすよりは暇が潰せるだろう。


「会った時のあいつは、俺が十四だったから、十一歳だったな」

「あら。成人の儀も済ませていなかったのですね」

「家出だろうな。何があったかは知らないが」


 俺が家を失くし、行商人の真似事をしてた頃にリチャルドと出会った。リチャルドは露天商と争いを起こしていた。仲立ちをしてやり、腹をすかせたあいつに飯を食わせてやった。

 最初は小汚い浮浪児かと思ったが、着ている服の生地は良く、腰の剣の柄も鞘も安物ではなさそうだった。

 お忍びのお坊ちゃまかと思ったが、リチャルドが店主に向かって「騙した」だのなんだの騒いでるうちに膝を地につけ虫の息となった。腹を空かせて目を回していただけだったが。

 飯を食わせて話しを聞くと、言葉遣いも物腰も良く、良いとこの家出か、人さらいに連れ去られてから逃げ出したか、とにかく厄介なのと関わったと思ったものだ。

 そして旅をしている理由は「探してる人がいる」とか。生き別れた家族か想い人かと思っていたが、探していたのは「黄金の天使」だったと最近知った。隠していたのは、当時の俺がリチャルドの語る冒険譚を夢物語と馬鹿にしていたからだろうか。まあ力のない俺の僻みだったわけだが。

 リチャルドは俺と違い剣が使えた。家で習っていたのだろうな。俺はリチャルドを連れて歩く事にした。用心棒代わりだ。俺は関税の掛からない村から村へ売り歩いて小銭を稼ぎ、珍しいものが手に入ったら町で売りさばくという生活をしていた。

 リチャルドを食わせる分が増えたが、その分少し危険なところにも行けるようになったので、戦禍から逃げつつ東に向かった。そうして着いたのがこの町だ。ここを拠点にしたのは、その頃には冬だったので、町から出られなくなっただけというだけのきっかけだ。

 この町では面白いことに、冒険者ギルドが残っていた。この町での冒険者は昔ながらのモンスターを狩る仕事があり、かつ、冒険者タグも価値があるものだった。リチャルドはまだ未成年だったため俺が冒険者となった。そして日銭を稼いで春になる。

 春になって歳が一つ上がると、リチャルドも冒険者となった。これが英雄リチャルドの始まりだな。そして冒険者の仕事をしていると今度は俺がお荷物となった。そして俺は怪我をして、街で商人もどきとして雑用を始めた。

 その後アリエッタをスカウトした。些細なことで言い争って魔法ぶっ放して来やがって、その威力に俺は惚れた。惚れるっていっても魔法にだぞ。そして俺たちのパーティーができた。

 他にも色々とスカウトしたのだが、まあ長続きするものは少ない。冒険者はそんなものなのだと知った。俺も怪我で引退してたようなものだしな。

 パーティーは増えたり減ったりしつつ、リチャルドが冒険者になってから一年後に人嫌いエルフのシリスが仲間になった。彼女はリチャルドが「拾った」という。拾ったってなんだよ。そこからパーティーは変わらなくなった。アリエッタは男を嫌ったし、シリスは人自体を嫌った。エルフの美貌に惹かれて近づく者もいたが、そういう人もいなくなった。理由は言わずもがな。

 その半年後。ディエナの姉御は、商人たちから厄介な冒険者と話しを付けてくれと頼まれて俺が駆り出されたんだ。仮にも冒険者ギルド所属だったからな。そんなわけで話し合いに言ったらぶっ飛ばされた。露店で山となった野菜がクッションにならなかったら死んでたかもしれない。まあそのあと色々あって、ディエナの姉御もリチャルドのパーティーへ入った。

 そして俺の負担が増していってなぁ。精神的に参ってたんだと思う。もう世話しきれねえ。リチャルドのパーティーを抜けるって俺が言い出して……。え? 俺の話しはいらない?


 いつの間にか聴衆が周りに増えていた。聖女様は話しがつまらなかったのかすでに寝ていた。

 メメは赤ら顔でぐでーっとなりながら俺の隣に寄っかかってきた。


「あれねー。その頃にザコお兄さんと会ったんだねぇ♥」

「そうだ。俺が酒場でパーティーを抜けるって言った時にメメが寄ってきて――」

「そっちじゃなくてぇ」


 メメはリチャルドを指差した。


「あの子とぉ、ザコお兄さんがぁ、この町に来る途中でぇ、私と会ったんでしょー?」

「え? まじで?」


 記憶にない。


「ザコお兄さんがぁ、裸の私にぃ、布を巻きつけとけって言ったんじゃない♥」

「はぁ? 酔ってるのか? 酔ってるな。がっつり酔ってるな。水飲んで寝ろ」


 メメはこてんと俺の膝の上に頭を載せた。

 メメの言うことは荒唐無稽だが、俺の記憶が不確かならもしかしたらメメが正しいのかもしれない。俺はリチャルドとの出会いを話しつつ、その頃の記憶がおぼろげだったことを自覚した。特に、この町に着くまでの間がぼやけているのだ。


「いやいや待て待て。やっぱりおかしい。俺とリチャルドは南の町から来たんだ。方角が違う。くそ、惑わせやがってこの酔っぱらいが」

「んー? 違ったっけぇ? 知ってる顔だった気がするんだけどぉー」


 メメが俺の顔をぺたぺた触った。


「こんな変な顔しらなぁい♥」

「いいから寝ろ」


 このあとシエラやリルゥもやってきて、それをからかいにヨウコやアリエッタも来て、結局ほとんど眠れなかった。

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