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俺はこってり絞られる

 穴の探索はサクサクと進んでいた。というのも。


「おるあぁああ!!」


 現れるモンスターの全てをディエナの姉御が粉砕していく。もうあいつだけでいいんじゃねえかな。


「姉御、休憩はいらんのですか」

「まだまだ全然身体が温まってねえよ」


 だが俺たちは良いとしても、聖女様の黒髪おっぱいが肩で息をすると同時にほよんほよんと上下に揺れる。教会で引きこもり生活をしていた聖女様は体力が無かった。

 リチャルドが休憩を告げると、姉御は不満を口にしながらどかっと床に座り込む。

 そんな中、ヨウコが死骸に近寄り、モンスターの死骸である布切れを拾った。


「ううむ。やはり妖怪しか出ぬのう」

「これも東の国のモンスターなのか? 手応えがねえぞぉ!」


 俺たちは五人チームの二パーティーで潜っている。これだけの人数がいるから少しは普通のモンスターが出てくるかと思ったが、やはりヨウコの国のモンスターしか出てこない。ということは、ヨウコの記憶からしか再現されていないようだ。


 アリエッタが腕組をして、語りだす。話しが長くなるので聞き役は自然と俺になる。


「モンスターはなぜ湧くのだと思う?」

「さあ。俺たちを排除したいんだろ」


 アリエッタは驚きの目で俺を見つめる。適当に言ったら当たったらしい。


「そうよ。生窟せいくつが本当に生き物だとしたら、私達は異物。招かれざる客よ。だから追い出そうとするの」

「つまり?」

「ヨウコの記憶からばかりモンスターが創られる理由。穴はヨウコを追い出そうとしてるのかもしれない」

「なんと」


 狐のしっぽをぴんと跳ね上がった。


「つまりあれか。わちだけは余所者じゃから散れと申しておるのか」

「そうかもね。ヨウコだけは遠い別の国から来たのだし。まあ仮説だけど」


 なるほどなるほど。

 もし俺とリチャルドが、本当に穴から王として認められている存在ならば、穴は俺たちを受け入れるはずだ。

 だがその中に明らかな異物が混ざっているので、それを排除しようとしている。


「そもそもヨウコは何なの? 獣人でもなく、悪魔でもないんでしょ」

「むう。言わねばならぬか」

「今後何があるかわからない。情報共有は必要よ」


 ヨウコはふさふさの尻尾を揺らし、ぽつりと呟くように言った。


「わちは神じゃ」

「なに言ってんだ狐が」

「むぅう! いや、そうじゃな。この国で言うならば精霊と言うべきじゃな」

「精霊!?」


 俺とアリエッタはヨウコの身体をぺたぺた触った。ぺたぺたもふもふ。


「やめ! やめるのじゃあ!」

「狐の獣人を模した精霊……興味深いわね……」

「くすぐたいのじゃあ!」


 俺とアリエッタは狐の尻尾でべちんべちんと跳ね飛ばされた。床をごろごろと転がった先には聖女様がいて、座り込む聖女様の顔の汗がぽたりと胸に垂れるところを見てしまった。


「お邪魔します」

「あ、いえ、ようこそ……?」


 歓迎されたのでセーフだ。

 しかし俺はメメに足を引っ張られ引きずられ、ヨウコの隣に戻された。


「聖霊って狐の精霊なのぉ?」


 今度はメメが尻尾をもふもふする。上下関係がメメの方が高いせいか、ヨウコは口を尖らせながらも大人しくもふられた。

 聖女様がそれを羨ましそうに見ていたのを俺は見た。


「そうじゃな。わちは狐の神として崇められ、生まれたのじゃ」

「というと、あれか。森の狼やらを崇める教徒と同じか」

「そうじゃな。わちの国ではここらの狼と同じように人を騙す存在として恐れられるのじゃ」

「狐のくせに」


 俺も尻尾を触ろうとしたら、ぺしんと扇で手の甲を叩かれた。

 アリエッタが狐耳を覗きながら尋ねる。


「でも精霊なんでしょ? 獣人でもなしにこの姿はなに?」

「わちは人にこうあるとされた、ここらで言うマナ生物じゃ。神聖な妖怪と言ってもかまわん」


 妖怪の言葉に反応したディエナの姉御が剣を手にして立ち上がる。


「ああん? その狐もモンスターだってか? どおりでくせぇと思ったんだ」


 じゃりじゃりと剣を床に擦りながら近づくディエナからヨウコは逃げ出し、一番安全な場所として聖女の後ろに隠れた。


「やめるのじゃ! この娘がどうなってもよいのか!」

「きゃあ♪」


 ヨウコに後ろから抱きつかれた聖女様は嬉しそうだ。後ろから掴まれながら、狐の尻尾を掴んだ。


「ちっ。卑怯者め」

「仲間を斬ろうとするのがおかしいのじゃ!」


 姉御がギロリと睨み、ぴょこりと顔を出したヨウコは聖女様の背中にさっと隠れた。


「仲間じゃねえ。協力者だ。言っておくが、お前らザークのチームの手助けはしねえからな。おいザーク! てめぇはしっかりまとめとけよ!」

「はいっ!」


 俺は直立して敬礼した。

 力を付けた今ならはっきりとわかる。姉御はオークロードなんかよりよほど怖い。

 そんな姉御に気軽に触れるリチャルドは微笑んでいる。


「まあまあディエナ。そう脅さないでください。複数チームで戦闘をする場合は、お互いに干渉しない方が上手く行くんです。それぞれのチームで連携というものがあるでしょう? チーム意外の事も考えると動きがぐちゃぐちゃになるのですよ」

「なるほど」


 ディエナの姉御は俺の、俺たちの事を心配して言ってくれたようだ。ふんと鼻を鳴らして剣を収め、リチャルドと共に離れていった。


「まったく、筋肉だるまは口が悪いね♥」

「メメがそれ言う?」


 聞こえたら爆発しかねん。というか、多分聞こえてる。聞こえるように言っただろ。

 姉御は上半身だけ振り返り、「ザーク、ちょっと来い」と恐ろしい声で呼び出しを食らった。

 呼び出しを食らった俺は、小部屋の外で絞られた。

 搾り取られた残り滓となった俺は、ふらふらしながら部屋に戻った。


「おかえりー♥」

「も、もう何も出ません……」


 胃の中が空っぽなのに何も食べる気が起きない。

 俺はボロ雑巾みたいになっているのに、姉御は一汗かいたといった感じに肌をテカテカさせている。

 倒れた俺の胸に、聖女様は両手を当てた。俺の胸がじんと温かくなる。いかがわしいサービスではなく、回復の奇跡は接触の方が効果が高いらしい。


「いったい何を行われていたのですか?」

「聞かないでくれ……地獄だ……」


 この一年間。俺はメメにしごかれていた。だがそんなものは児戯に等しかった。そう、俺はこの数分で本物の地獄を見たのだ。


「も、もう立てません……」


 俺が絞り出した声を聞いたリチャルドが、「それでは早いがここでキャンプにいたしましょう」と宣言し、小休止はそのまま睡眠時間へと変わった。昼夜がわからなくなるような場所で過ごす場合は、早めに睡眠を取るのが大事だとアリエッタが口を出したようだ。

 ヨウコの話しは俺がいない間に終わっていたようで、アリエッタが「そう。国でそんな事があったの。狐さんも大変だったのね」と気になる事を言っていた。なんかしんみりしてる。くそ! アリエッタの長話は興味ないけど、ヨウコの国とか旅の話しとか気になるじゃん! おのれディエナめ!

 俺は姉御を睨みつけた。

 ひぃ! 俺は姉御に睨み返された。


「おい! ザークよぉ! おめぇはこの中で唯一の足手まといだ! やるこたぁわかってんだろうなぁ!」

「イエスマム!」


 俺はいそいそとお湯を沸かし、食事の支度を始めた。

 そう俺はやっぱりパーティーの雑用係。だが誉れあるドラゴン討伐隊の雑用係なのだ。ストレス解消相手にも、幼女の世話役でもなんだってやってやるさ!

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