表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/73

俺はセクハラなんてしない

 そして一ヶ月が経ち、まだ肌寒いが植物が萌える季節となった。

 あれから何度か探索へ潜っているが、あまり進展しているとは言えない。メメは早くドラゴンと戦いたがっていたが、それこそ慎重に進まざるを得ない理由だ。先の見えない下り階段は続いていて、突然小部屋になったりする。するとついに底かと警戒するし、何かしらモンスターがいることが多い。しかもそれはヨウコの故郷であるヨウカイばかりであった。

 ヨウコは「わちは色々経験しておるからのう……。こやつらは恐怖の感情から生まれているのかもしれぬ」と言っていた。それだといつかディエナの姉御がモンスターとして現れそうだ。考えないようにしよう。


 さて、一ヶ月で進展していない理由は他にもある。

 底へ進むにつれてマナはより濃くなっていく。すると目に見えて時間の進みがおかしくなっていった。

 早朝に潜り、半日で戻ったところ、すでに夜になっていた。しかも翌日の夜だった。時間の進みの差はおよそ六倍にもなった。それは往復の時間も含まれているので、すなわち現時点の到達地点ではさらにその倍の速度ほどもあるかもしれない。

 さらに厄介なのは、俺たちの時間の感覚も狂うことだ。昼のつもりで戻ったら深夜で、謝りながら起こして宿に入るも身体の感覚はまだ昼間なので眠れない。

 最初の頃は昼夜逆転を戻してから再度潜っていたので、再突入に一週間ほどかけることもあった。今ではもう潜る時間は気にせず、穴の近くに仮眠室を建ててもらう事にした。


 さて、魔石の問題もあった。

 大量の魔石の発見の報告はきちんとすることにした。その代わり、その魔石はリチャルドパーティーに預けて調査中ということにした。アリエッタはこの街で随一の魔法知識なので、一応納得してくれた。そして再突入時に小さい魔石を採り、それをギルドに納入した。

 最後に泉の部屋の出入り口の幅を元の人一人の隙間サイズに戻せば証拠隠滅である。

 それでも盗掘するものは現れた。

 そしてそれを率いる者は、片手の潰れた少年だったという。昔メメを求めて俺と決闘したガキだ。俺とは関係ないところで捕まっていた。それにはジル少年、シエラの初めての仕事で街道にいた少年のリーダーも関わっていた。ジル少年は例のガキの元パーティーメンバーだったようだ。俺を射った弓はジル少年の物であり、ガキは少年の弓を盗み、俺を撃ち、闇市に売っぱらったと今更ながらの報告を受けた。


 懐かしい面子と言えば、情報屋のおっちゃんも生きていた。一時期街を離れていたようだが、春になって大量の食料を抱えて戻ってきた。おっちゃんは貴族つながりの変な商売筋があるようなので、その辺りから仕入れたのだろう。

 それに北の村にいた四人。彼らとも再会した。ガキの盗掘団を捕まえたのは彼らだった。

 そしてある意味俺の剣の師匠もとい真似の元である、ミッシェルとも会った。彼は街の周囲に現れた穴の調査をしていたようだ。俺が「精霊花の泉も関係しているようだ」と伝えると、彼はすぐに出かけていった。

 周囲の穴は、大して広くはなってはいない。だが一様に例の黒い立方体が置かれていたようだ。

 これに付いて彼はこう答えた。「配置と街の位置関係からして、側防塔、つまり街の壁の拠点の塔があったのかもしれない」と地図を広げて見せた。

 アリエッタは否定したので、正しいとは限らない。彼女曰く、「そんな塔から塔に移動するためだけに転移の魔道具なんて置かないわよ」と。彼女は王族の抜け道説を推した。


 復興が進まぬ状態で、未だ街の北にキャンプ街が広がっている状態だが、異様なほど人々は明るかった。たまに人気のヨウコやメメが踊ったり、シエラが子供たちに飴を配ったりしていたからかもしれない。リルゥも薬師のババアの元で薬を作り、無料で配って回っていた。

 俺たちはただ穴に潜る日々ではなかったのだ。

 そして俺は。


「座長! 次の演目の予定はなんっスかー!?」

「座長じゃねえ!」


 ザーク? 座長? なんで? 変な一団を抱える俺はなぜか劇場で座長呼ばわりされていた。キャンプ地の簡易広場は娯楽場となり、劇場が建てられた。そして慰問で訪れた踊り子たちがステージ上で踊り喝采を浴びる。金平糖を包んでおひねりを投げるのがブームだ。もちろん金平糖の作り手はシエラである。

 そしてマナの供給源は巨大魔石である。

 魔石とは多大のマナを内包できるマナ結晶であり、魔道具になる外にも魔法を使う補助にもなる。人によって適正はあるようだが、そもそもシエラは悪魔である。

 シエラは巨大魔石に左手を当てて、右手を鍋に手をかざすと、ざらざらざらと滝のように金平糖が創られ生み出された。そして鍋はすぐに一杯となったのだ。

 シエラはお菓子屋さんの手伝いができるようになったのだ。

 とはいえ、その方法で創られるのは、材料は砂糖だけなのに作るのに時間も手間がかかる金平糖だけなのだが。あまりにも大量のお菓子が生み出されたら不自然だからだ。金平糖でも不自然ではあるのだが、出どころはわかるはずがない。でたらめな魔法なのだから。


 俺の立場は領主と冒険者ギルドに挟まれてやや複雑になってきたが、さらにそこへ教会が混ざってきた。

 メメは何も考えずに自分が楽しくて踊ってるだけだと思うが、教会は彼女を人心を掌握し誘惑する悪魔だと主張してきた。

 合ってる……。

 その通りだからなんとも言えないのだが、そもそもメメが悪魔ということを秘密にするために俺は穴に潜っているのだ。だがその約束は領主側だけの話しであった。

 街中で暮らしていた者、仕事をしていた者はジス教徒が多い。ゆえにみんなが教会の主張を信じた。

 そんなわけでメメは名実ともに小悪魔ちゃんとなった。

 そう。外面は良いし、人気者だし、問題とならなかった。メメは悪魔だとしても悪人ではない。実の所、悪魔がどういう存在なのか皆は知らなかった。「人とは違うみたいだけど、人みたいなもんでしょ?」くらいな感じであった。

 実際身近に接している俺もそう思っている。俺はメメに殺されかけたし虐められたが、俺を助けたし鍛えたし悪い奴ではないと思っている。シエラなんかただのお菓子好きのぷにぷに幼女だ。ヨウコも狐の獣人……いやヨウコは悪魔ではなかったか。

 だから何かの拍子にアリエッタに聞いてみた。「悪魔ってなにぞ?」と。


「悪魔は人の欲望から生まれた存在よ」

「雑」

「あんたがいつも短く短く言うから短く言ったのよ!」


 アリエッタは理不尽にぷりぷりと怒った。

 確かにメメは欲望の塊だ。本能で動いている感じがする。


「で、何を今更そんなこと聞くのよ」

「教会がメメを悪魔だと言い始めたじゃないか。でもそもそも悪魔って何だか知らないし、みんなも気にしていないし、何なんだろうと思ってな」

「そんなもんじゃない? エッタも悪魔かもしれないし」

「え?」


 俺はアリエッタの身体をまじまじと見つめた。なるほど。悪魔の特徴がわかった気がする。ぺたんこだ。


「魔法の力が強いだけで悪魔とされていた時代もあるわ。その時代に生まれていたらエッタも悪魔かもね」

「え、そんなのめちゃくちゃじゃあないか」

「悪魔の定義は闇から生まれ、魔力が強く、欲深い、人を模した生物」

「アリエッタは闇から生まれたのか? 違うだろ?」

「わからない」

「わからない?」

「自分がどうやって生まれたか覚えてる? わからないでしょ」

「そんなの親兄弟がいるだろう。幼少期の記憶だって」

「うん。そうよ詭弁ね」


 アリエッタはふふっと笑った。

 なんだよこいつ。


「だけど問題はそこじゃないわ。悪魔は本質的には人間と変わらない」

「え」

「人だって欲深いでしょ」

「うーん……。アリエッタも実はメメのようにエロエロなのか……」

「知識欲と言って!」


 そういえば色々物知りだよなぁこいつ。そして説明したがりだ。問答したいわけじゃないんだが。


「っていうか、あの悪魔よりあんたの方がエロエロでしょ……」

「いや? 俺は健全な男子だろう?」

「どこが……」

「だけど言われてみれば、性的アピールをあまりしてこなくなった気がする」


 もう日常的に一緒に寝たりして、慣れすぎただけかもしれないが。


「それじゃああんたにエロさが移ったのね。セクハラ男」

「セクハラなんてせんわ」


 俺はアリエッタのお尻にスキンシップした。

 俺は手を氷漬けにされて、命乞いをした。


「結局よくわからんかった」

「だったら本人に聞いてみなさいよ。悪魔は何なんだって」

「ふむ?」


 俺はお土産のケーキを手にして宿へ帰った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ