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人の望みを叶える穴

 顔面を掴まれてアリエッタに氷魔法を使われた俺は、ちっちゃいおてて形に凍傷の痕を残した。


「ごめん……ぷぷ」

「謝りながら笑うな」


 いつものようにパフィの店の二階に集まった。

 アリエッタに報告すると、カッパという未知のモンスターに驚き、さらに巨大な魔石にたまげて彼女は言葉を失った。


「ギルドに持ち込まなくて正解よ。こんなの見たら盗掘が行われて、領主側と対立し、せっかくまとまった領主、教会、冒険者ギルドの三者がぶつかりあってバラバラになる所だわ」

「おおう……」


 今の穴の調査は、領主の命を受けたリチャルドから冒険者ギルドに伝わり、冒険者ギルドから俺が派遣されていることになっている。さらに教会も穴を封じようとしていて、めんどくせえ。リチャルドが最初に入ったのもその面倒な関係からなのかもしれない。

 まあとにかく、穴が莫大な利益を生み出すとわかったら、それぞれケルベロスの一件でまとまった三つが勝手をしだす可能性は十分高い。というかするだろう。


「外に持ち出せないでしょ。だからこれは私が預かっておくわ」

「アリエッタが欲しいだけじゃないよな?」

「有効に使ってあげる」


 盗られた。


「亀の甲羅はなんの変哲もないけど、カッパは黙っていた方が良さそうね」

「だろうな」

「どういうことじゃ?」


 珍しくヨウコが尋ねてきた。カッパを知っているのはヨウコだけだったし、帰り道に俺が言いかけた事が気になってもいたのだろう。


「なぜカッパがあそこに現れたのか。ヨウコの記憶から生み出されたんだ」

「なんと!?」


 俺は直前に何度もマナに覗かれる体験をしていたのですんなり納得できたが、ヨウコは信じられんと繰り返した。


「それと、ただの隙間に剣を挿したら広がっただろう?」

「うむ」

「俺がそう願ったからなんだと思う。王の剣を通して伝えられ、マナが反応したんだ」


 みんなが固まりしんとなった。「何言ってんだこいつ」と思われたのかと思ったが、そうではなく俺の言葉を理解しようとしてみんなぽかんとなったようだ。

 そして最初に口を開いたのはアリエッタだった。


「つまり、穴のマナは人の記憶を覗き、剣を通して願いを叶えた。まあありそうなおとぎ話ね。そういうことも稀にあるわ。稀によくある」

「他の生窟せいくつだとそういう事はないのか?」

「だから、稀によくある」

「どっちだよ」


 アリエッタが手を組み、顎の下に当てた。話しが長くなる時のポーズだ。「わかってる。短くするわよ」と、前置きして語りだした。


「生窟は生きている洞窟。成長する洞窟。人を食べる洞窟。色々言われているけど、マナによって勝手に大きくなる穴よ。じゃあなぜそんな穴ができるかというと、死者の残留思念ね。人は死ぬ時に強く願う。それは発動しない魔法だとしても、マナとして残るの。そして溜まっていったものがマナ溜まり。雑に言うとそんな感じ」

「長い」


 俺はアリエッタの腰つきを眺めた。見た目はちびっ子だけど、お尻は大きい。骨盤は成長している証だ。つまり子供が産める歳ということだ。セクハラとかそういうわけではない。改めてただの少女ではないことを確認しただけだ。


「でも穴には宝があることがある。変でしょ? 宝を求めて死んだ人の思念かもしれない。そういうこともある。だけど生窟には何かしらある。不自然なほどに。宝を求めて入った人の願いを叶えるために穴が宝を用意している説があるのよ。つまり、マナが冒険者の記憶を読み取って、その願いを叶えているという話しね」


 しかしマナが多いほど時間が歪む。つまり、成長が遅くなるとしたら、アリエッタの尻が大きいのはおかしいことじゃないだろうか。ちびっ子はちびっ子らしく、全身が子供体型になるはずだ。つまり、アリエッタは合法ロリなのである。


「他にも死霊の類。大事な人に成りすます死霊。悪霊。マナは記憶を読み取る。それは間違いないことなの」


 そう。子供好きからしたら悪霊の類だ。子供扱いしたら怒る子供にしか見えない大人である。非常に厄介なトラップだ。それでいて中身も子供っぽいからたちが悪い。


 ヨウコは「ふむ」と頷いた。


「あの大穴はマナが濃いから、記憶を読み取り再現する力も強いというわけじゃな?」

「そうとも言えるし、そうじゃないかもしれない。ただ言えることは、異常ということ」


 珍しく部屋に残っていたメメも頷いた。


「変なのよあの穴。ザコお兄さんのせいだとしたら納得できるね」

「なんでだよ」


 俺はまだおっぱいロスを引きずっている。せっかく得たおっぱいはおっぱいではなく寄生生物だし、しかしそれでいて間違いなくおっぱいだった。そう、俺は一度はおっぱいを得たのだ。


 アリエッタは頷いたあと、こほんと咳払いをした。


「じゃあなんで穴が異常になったのか。何か意図があるのか。謎が残るわ。作為的なものを感じるの。記憶……願い……。あっ!」


 アリエッタは何か閃いたようだ。

 だけど口を開いて天井を見たまま固まってしまった。

 俺はアリエッタの口の中に指を突っ込んでみた。


「げほっ! おえぇええええ! なにすん!」

「うわっ。指臭くなった……」


 指をくんかくんかする俺は、正面アリエッタと左右ヨウコメメから同時に殴られた。ひどくね。


「あててて……。で、なんなんだよ」

「いえ、やめとくわ。憶測でしかないし。無駄だしそれに……」

「気になるじゃん。出かかったくしゃみくらい気になるじゃん」

「言ったでしょ。記憶を、意思を読むって」

「?」


 アリエッタは窓へ近づき、復興の進まぬ街を眺めた。

 少しずつ街は直されていったが、まだまだ壁の外に暮らす住民は多い。その一番の理由は穴だと言う。穴からケルベロスなんてモンスターが現れたのだ。いまだ恐れる者は多い。それならまだ森の魔狼の方が怖くないということだ。

 ケルベロスは地獄の門番だという。なるほど、確かにあの大穴は地獄の入り口の様相だった。誰かが、みんなが、想像したのかもしれない。地獄に通じる穴だと。

 大穴が人の頭を読み取り形作るなら、地獄にもなり、ケルベロスも生まれるのかもしれない。


「変な事を言って、余計な意識を植え付けて、影響が出たら困るでしょ」

「確かに」


 話しが終わった空気を読んだのか、リルゥがとことことアリエッタに近づき、穴から持ち帰った本を差し出した。

 アリエッタは「ん」と気もそぞろにそれを受け取り、ハッとなりページをめくり、ぷるぷると指を震わせた。


「これは……穴から? 他には?」

「本はそれだけだったぞ」

「そう……ちょっと一人にさせて」


 俺たちは追い出された。

 本大好きっ子としてはたまらん垂涎の一品だったのだろう。もしかしたら都合よく穴の謎が書いてあったりして。

 ありえる。ありえるな……。普通に有り得る。「なんなんだよこの穴」と思ったらその答えを出してきてもおかしくない穴なのだから。

 人の望みを叶える穴。

 俺たちだけが探索を許されたのもそういうことなんだろう。なるべく関わる人が少ない方が良いのだ。

 メメが望めば強敵が創られ、その強敵はヨウコの記憶から生み出された。場所は俺の記憶の精霊花の泉である。本を見つけたリルゥは、壁の隙間の先にあったこの空間と河童について不思議に思い、答えを求めたのかもしれない。

 それじゃあ、精霊花の代わりに大量に生えていた魔石は……。


「てつだうー」


 シエラはパフィの元にお菓子作りのお手伝いに向かった。手伝いと言ってもシエラは子供だし、パフィからしたら邪魔者でしかないだろうに、仲良く一緒に作っている。

 ちなみにいつもクッキーを焦がしているメメは力仕事でちゃんと役に立っているようだ。お菓子作りは力と体力が必要らしい。


「作り方わかったー?」

「あいっ」


 シエラは真っ白になった手を上げ、ぽんと魔法で完成品を生み出した。


「こらこら。魔法じゃ沢山作れないでしょー?」

「えへへー」


 創り出したワッフルを口いっぱいに頬張り、粉と卵を混ぜ始めた。


「あっ」


 眺めていてシエラがなぜ魔石を求めたのかわかった気がした。

 魔石はマナの結晶だ。マナを込めたり引き出したり、魔法式を書き込み魔法効果を生み出し魔道具を作ったりする。

 あの巨大な魔石なら何ができるんだろう。外に持ち出せないような魔石を、アリエッタはどう有効活用するのだろう。きっとパフィの店のために何か創るはずだ。例えば、自身が居なくなっても氷が作れるように製氷の魔道具だったり……。

 お菓子の悪魔の願いは、お菓子屋さんのためになるものだったのかもしれない。

 そんなことを思いつつ、俺はパフィさんの揺れる褐色おっぱいを眺めていた。

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