おっぱいロスト
ヨウコは魔導銃の音で耳がやられて地面に転がってぷるぷるし、シエラも尻餅をついてぴええと泣き、リルゥは駆け出し古びた小屋の方へ逃げ出した。
頭が割れたカッパはみるみるうちに萎んでいき、日干しした魚のようになった。
「斃せて良かったが……メメ、助けてくれ」
俺は隙間におっぱいが挟まったままで動けず、メメに助けを求めた。
メメは俺の腕を引っ張り、俺はすぽんと抜けてごろごろ転がり、胸が擦れた痛みでのたうち回った。
かくしてメメだけが最後まで生き残ったのだった。
終わり。
「はふぅー」
メメはこのどうしようもない事態を放置して、一人水浴びを始めた。正確には水の中を探索していたようで、水中には一際でかい魔石があったようだ。
その頃にはみんな落ち着きを取り戻し、ヨウコはシエラを褒めて、シエラは干からびたカッパを枝でつんつんし、リルゥは小屋から古びた本を勝手に持ち出して来た。
「こいつ解体するの気持ち悪いな……」
放って置いても干からびたゆえに腐ることはなさそうだ。一応素材として価値がありそうな背中の亀の甲羅を剥ぎ取っておく。それにいささか時間がかかった。
そうこうしているうちに、メメは幼女の身体ほどのサイズもある巨大な魔石を泉の中から掘り出し担ぎ、上がった。
ヨウコとシエラはリルゥを連れて小屋の探索に戻ったが、リルゥが手にした本以外には大したものは無かったという。
そして戦利品のカッパの亀の甲羅と、巨大魔石と、本を並べ、一旦帰ろうとしたところで俺たちは気づいた。
出口小さくね?
「どうやって持って帰ろう……」
「手間じゃが掘るしかないんじゃないかのう」
「メメはどうやって魔石を採ったんだ?」
「拳で」
「雑」
メメが殴って隙間を拡張すれば出られるかもしれないが、その衝撃で天井が崩れたら俺たちは死ぬ。
小屋の木の板を引っ剥がし、スコップ代わりにしようと思ったが半分腐りかけでボロボロと崩れてしまった。
「剣で掘ればいいじゃない」
「おいおい……」
だがふと俺は思った。
この空間は生窟のマナで出来た場所だ。そしておそらく、俺やメメの精霊花の泉の記憶、そしてカッパはヨウコの記憶から創り上げられたのだろう。小屋は知らないが。
そして王の剣はマナの壁を切り裂いた。ならばマナで出来たこの空間の出入り口も切れるのではないか。
俺はそっと剣先を壁に当ててみた。岩だった。
やっぱ無理だぁ。
「ほらザコお兄さん。もっとぐいっと♥」
「折れちゃうよぉ!」
剣先がずるりと滑り、隙間にズボッと刺さった。隙間と言っても人一人が横向きに通れるほどの幅はあるのだが、なぜか俺は心地よいフィット感を感じた。ずぼっと。
「そうか。鍵か」
アリエッタがそんなことを言っていた。俺は剣をぐいとひねると、カションと錠が落ちるような手応えを感じた。
すると扉が開くかのように、ずずずと壁が動き隙間は両手を広げて通れるくらいに開いた。
「面白い仕掛けじゃのう」
「というより、ちょっとわかったんだけど……」
「なんじゃ?」
「いや、街に戻ってから話そう」
俺は別にもったいぶったわけじゃない。だけどメメが「なんじゃなんじゃ?」と言いながら腰をつんつんしてきた。それを真似してシエラも「なにゃー?なにゃー?」とぺしぺしお尻を叩いてきた。リルゥはシエラの肩に手を置いて、ヨウコはさらに並んで繋がった。そしてその後ろには黒シエラと黒リルゥが並んで歩く。なにこれ。
えっちらおっちら、メメと二人で亀の甲羅に巨大魔石を載せて担いで穴を上っていく。
地上が見えたところで、黒シエラと黒リルゥが立ち止まり手を振ったので、俺も手を振り替えした。シエラも真似して「ばいばい」した。
そんなこんなで二回目の探索は終了。結構な時間が経っており、すでに昼を回っていた。
俺の胸がぷるんと揺れた。俺のおっぱいはどんどん成長していた。服に入り切らず、おっぱいが上半分露出状態だ。隙間で詰まったのもそのせいだった。
おっぱいはでかければでかいほど良いと俺は今まで思っていた。だが自分の胸でどんどん膨らむおっぱいを見るとそうでもないかなと思えてきた。重いし足元が見えないし、重心がずれて歩きにくい。
もしかしたら俺はおっぱいに幻滅しているのかもしれない。おっぱい教だというのにお尻に惹かれてしまっているのもそのせいではないだろうか。
俺は前を歩くメメのぷりぷりしたお尻を見つめた。
さて、まずは冒険者ギルドに報告に行こうと思ったら、後ろから声を掛けられた。
「おう! ザークじゃねえか!」
「げぇ! ディエナの姉御!?」
「なんだぁ? それはぁ」
「亀の甲羅と魔石ですが」
俺は荷物を下ろしそう答えると、姉御は「そっちじゃねえ」と大股で近づいてきた。ひぃ。
そして姉御は俺のおっぱいを鷲掴みにした。
「きゃあ!」
「おりゃあっ!」
ディエナの姉御は俺のたぷたぷおっぱいを引きちぎった。俺は痛みで悶絶した。
姉御は俺のおっぱいを握りつぶし、街の道に青い血を撒き散らした。
「寄生生物だ。本来は瘤にしかならねえはずだがこんなブヨブヨで、どんだけ吸われたんだおめえは」
「きせい……せいぶつ……?」
おっぱいではなかったのか……?
「ヒルみてえなやつだ。だがこいつが吸うのは血じゃなくてマナだけどなぁ」
「マナを吸う……」
なるほどどうりで。まるでおっぱいのように成長したのもあの穴の濃いマナの環境のせいなのだろう。しかも俺は度重なる事故でマナが過剰状態だったはずだ。
「まあ死ななくて良かったなぁ! なあ!」
姉御は俺の背中をバンバンと叩いた。息が止まる。
俺はおっぱいの喪失で呆然としていた。なんだかんだで俺はおっぱいを愛していたようだ。さらばおっぱい生物……。夢を叶えてくれてありがとう。
「そんでどこ行くんだぁ!?」
「ギルドへ報告しようかと」
俺がそう答えると、姉御は俺の頭を掴み、ぐりんぐりんと揺らした。
「やめとけパニックになる。ちと付き合えやぁ!」
姉御がひょいと甲羅と魔石を担ぎ、ずんずんと先を歩いた。
俺たちは仕方なしにそれに付いていく。
着いた先はパフィの店だ。なんだいつものとこか。
「いらっしゃいませぇ♪ げぇ! ザーク!」
銀のトレイを手にし、フリフリの衣装を着たアリエッタが俺たちを出迎えてくれた。
俺はいつもならからかうところだが、おっぱいショックで何も反応できなかった。しかしそれも気に食わなかったのか、アリエッタは顔を真っ赤にして、俺の顔を掴み、魔法で氷漬けにしようとしてきた。
凍っていく俺の姿を見てげらげら笑うメメと姉御。ヨウコはシエラとリルゥの手を引き先に席に座ってしまうし、誰も助けてくれない。あ、死ぬ。
俺のまつ毛まで凍ったところで、パフィさんが奥から慌てて駆け寄ってアリエッタを止めてくれた。褐色のおっぱいがぷるんと揺れる。
そして俺は改めて思った。おっぱいは良いものだと。




