俺のロリハーレム
冒険者酒場の一階で朝食を取ったのだが、メメとのキスを意識してしまって、なんだかよそよそしくなってしまった。いつも俺の右隣で引っ付いてくるメメも、一つ隣の席に座り、間にヨウコが挟まっている。
「主ら、どうかしたのじゃ?」
「な、なんでも?」
「なにもないよ」
あの時一瞬でも猛烈に意識をしてしまった俺はともかく、仕掛けてきたメメもなにやらもじもじして、肉ではなくパンをもそもそと口にしていた。
「ちゅーしてた」
「……(こくり)」
ヨウコの視線に俺が黙っていると、左隣のちびっ子二人がバラしてきて、ヨウコははぁと呆れたため息を付いた。
「そんなことで主はもじもじしとるのか」
「い、いやそうじゃなくて……! そうだけど……」
キスだけならともかくその先の、口からマナを吸われる感じがとても危険な感じだった。俺の中のものを抜き取られるような、そう、骨抜きにされるような。魅了されたかのような。ああそうか、精神魔法か。俺は魅了を食らったのかもしれん。
もじもじしていると、ヨウコに俺の顔を掴まれて引き寄せられた。
そしてヨウコは俺の口にむちゅうとキスをした。
ぬめっとしたものが口の中に入ってきて、口の中に肉汁が広がった。ヨウコが手を離すと、二人の口からつーっと肉汁が垂れた。
「ぷはっ。どうじゃ、なんともないじゃろこんなもの」
「あ、はい」
ヨウコはれろりと唇を舐め、油でテカった。
ヨウコは今はマナ不足で縮んでいるだけで、本当は大人サイズという事を想像すると、俺はまた意識してしまい、胸がドクドク脈が早くなる。
「今日の探索は様子見とはいえ、そんな気が抜けた状態じゃ危険じゃわ。しっかりせい!」
頬をぺちんと叩かれて、シエラの方を向くと、シエラも抱きついてきて「ちゅー」と唇を重ねてきた。
シエラのちゅーは甘くて柔らかかった。
はぁ……シエラはかわいいなぁ。俺はそのまま膝の上に置いた。
「しえら、およめさんになる」
「まいったなぁ」
といいつつ俺はデレデレだ。
シエラちゃんが大人になるまで何年だ? いくつなら許される? 後十年……いや五年……。待てよ悪魔の場合はエルフみたいに成長が人とは違うかもしれない。
「大きくなったらね」
「しえら、おおきくなる?」
「なるなる」
虹色に輝く桃色髪を撫でたら、シエラは目を細めて肩を揺すった。こんなかわいい子を知らない男に渡すわけにはいかん……。俺が夫になるしかない。そうだな。そうしよう。
さらに横からツンツンと身体を指で突付かれ、ロリエルフのリルゥは俺の頬にちゅっとキスをした。
ちらりとリルゥの方を見たら、さっと顔を背けてしまった。
なんと! 知り合ったばかりのこの子も俺にべた惚れだとでもいうのか!
しかもエルフの癖に言動がかわいい! しゃべらないけど! そんなのって! そんなのって!
「俺、モテ期きてるかもしれん……」
「子供ばっかりじゃない」
いつの間にか正面にアリエッタが座っていた。ありえない。
「なんだ? アリエッタも俺のロリハーレムに入りたいのか?」
「ぶち爆殺殺すわよ……」
「ひぇ」
奴はやる気だ。本気の目をしている……。
「ハレムじゃと。主も言うようになったのう」
ヨウコはくつくつ笑い、メメは呆れた顔をしていた。
あれおかしいな。みんな俺にべた惚れしていたはずじゃ。
メメは肉を口に咥えたまま、俺の背中に引っ付いた。
「べつにぃー。私はうっかりお兄さんを殺しかけたからちょっと悪く思ってただけだけどぉ……。へぇ~。お兄さんはキスでどぎまぎしてたんだぁ♥ かわいいね♥」
恥ずかしさで俺の身体はかぁっと暑くなる。
それじゃあ俺が一人で盛り上がってただけじゃあないか。
しょんぼりしてたら、シエラが俺の口の中に金平糖を入れてきた。ちっちゃくてマナをあまり使わず作れる。パフィさんから星のお菓子と言われて貰ったらしい。
こりこり。
「ふざけてないで、早く行ってきなさいよ」
「あーい」
アリエッタを後にして、俺たちは広場の穴へ向かった。
穴の周りには壁が作られていた。大した対策ではないが、万が一モンスターが再び現れた時のためらしい。
俺は衛兵に挨拶をして、簡素な門をくぐり抜けた。
穴の縁には杭が打ち込まれ、縄はしごがかかっていた。
「これで行けっていうのか?」
「はい。リチャルドさんはここを下りていかれました」
衛兵が横から答えてくれた。
アリエッタの言葉から想像はしていたが、リチャルドのやつ、本当に一人で穴へ下りていったのか……。
衛兵が言うには一昨日から戻ってきていないという。
「それじゃあこの梯子は使えないな」
「なんで?」
メメがひょこんと穴を覗き込む。
「リチャルドが戻ってきたらかち合うじゃないか。まず下りる方法を考えないとだな」
「ざくー」
なぁにと振り返ったら、シエラがぴょこんと、リルゥと一緒に手を挙げていた。
「りる、つちまほー」
「……(こくり)」
そういえば土魔法使ってたなぁ、と様子を見ていると、ロリエルフは穴の縁に手を付いて、むむむと額に皺を寄せた。
青緑の光が穴にうっすら広がり、微かに足元から地響きが起きた。
ぐおんぐおんと鈍い音が穴に響き、ぼこんぼこんと音が鳴った。
穴を覗いてみると、なんと穴の中に石の階段が出来上がっていた。
リルゥは汗だくになって、地面に倒れた。
「リルゥ!?」
「張り切りすぎじゃ!」
慌てて駆け寄る。
リルゥは懐からエルフの秘薬を取り出し、こくこくと飲んだ。
「すごいなぁ! 役に立ったよありがとう。ゆっくり休んでくれ」
リルゥを抱き起こして褒め称えると、リルゥはゆっくりと首を横に振った。
シエラが「かいだん、まだー」と代弁してくれた。
「出来てないのか? 無理はするなよ」
「この後は、吾がやる」
人嫌いエルフのシリスが背後に立っていた。ひえっ。抱きかかえていたけど何もしていませんよ!
シリスは俺たちの事を無視して、穴に向けて矢を放った。
突き刺さった矢の先から芽が生え、根が壁を這った。芽生えた植物はどんどん大きくなり、穴にできた螺旋階段を覆っていく。
シリスは無言で背を向け、この場を去っていった。
「完成したってことか……?」
「……(こくり)」
「できたー」
植物で石階段を補強したということか。螺旋階段に根と枝が絡み合っていた。
「リルゥはここで休んでいてくれ」
「……(ふるふる)」
「いっしょ、いくー」
困ったなと頭をぽりぽり掻いていたら、上からメメに「ザコお兄さんが抱えていけばいいじゃない」と言われた。
ううむそれならばと、リルゥを背中に背負って恐る恐る階段に足を踏み入れた。
「階段の上まで根が張ってるな。気をつけろ」
「一番不安なのはザコお兄さんだけどね♥」
メメはそう言うが、後ろを付いてきたシエラがいきなりコケた。しかも穴に向かって。
落下しかけたシエラに、さっとヨウコが飛びついて、そのままひらりと階段の向こう側に着地した。
「わちが背負っていこうかの」
「しえら、あるくー」
「なら手を繋いでいこうかの」
ヨウコとシエラは手を繋ぎ、それを見たメメは俺の手を握った。
「まるでピクニック気分だな」
「ザコお兄さんも落ちたら助けて上げるね♥」
「それはありがたいが、くっつきすぎると歩きにくい」
一歩一歩、ヨウコとシエラの元へ向かって階段を下りていく。




