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果実

 俺は温かく柔らかいおっぱいに包まれた。おっぱい神は甘い香りがする。桃の香りだ。

 ああ、おっぱい神よ。


「なにがおっぱい神よ。起きてるんでしょ」

「んあ? メメか?」


 となるとここは天国か地獄か。きっと地獄よりだ。土臭いし煙が酷いしお花畑も咲いてない。

 そんな事より俺はメメのおっぱいに挟まれていた。顔が。それはつまり、これは俺の求めていたおっぱいだ。これは俺のものだ。


「うるさいなあ。しっかり握ってよ」


 はい! 握ります! むにゅむにゅむにゅ。

 この掌に吸い付くようなフィット感。これだよこれ! 俺はこれを求めていたんだ! 冒険者とか戦いとか強くなるとかどうでもいい! 俺と一緒に静かに激しく暮らそうぜ……。


「おしりくすぐたい」


 俺が揉んでいたのはおっぱいではなくシエラのお尻だった。

 俺の中から、急に熱い情熱の何かが失われていく。

 なぜ俺は生きているんだろう……。辛い……。


「なんで俺、生きてるの? 戦いはもう終わった?」

「これから良い所よ」


 ケルベロスの身体に銛が撃ち込まれ、無数の鋼鉄の鎖で繋がれていた。その鎖の先にはバリスタが地面に固定されていた。


「あれで束縛に成功したの」

「こっちの大砲は?」


 領主の私兵と衛兵のバリスタとは別に、教会のハゲに囲まれた大砲が設置されていた。


「聖女砲よ」

「聖女砲?」


 偉そうなハゲが分厚い本を手に仰々しく手を挙げた。


「統一神ジスによる悪魔への裁きを行う。悪魔に対する聖なる力を持つ聖女の御身をもって、邪悪なる闇を消し払う」


 なんたらかんたら。

 そして黒髪の聖女様が大砲の中に押し込まれた。


「え? あれってつまり、聖女様を大砲でケルベロスに撃ち込むってこと!?」

「恐ろしいこと考えるよね。人間って」


 ケルベロス自体は束縛したのだから、あとはちまちま攻撃を繰り返せばいいんじゃないかと思うのだが。聖女がこの期に及んで犠牲になる必要は? もしや、教会のメンツのため、立場のために聖女は犠牲になるのか? 尊いおっぱいがそれだけのために?


「本当に大丈夫なのでしょうか……」


 そう。この黒髪おっぱいが失われるのはこの街の大きな損失ではないだろうか。急にたっぷにとしたおっぱいが目の前に現れたので、俺は思わず手を伸ばした。しかしその手は弾かれた。


「きゃあ!?」

「この人は変態だから気を付けて!」


 なにを酷い事を言うんだメメは。据え膳のおっぱいは揉まずは恥というのに。

 しかし俺はそのおっぱいの持ち主を見て腰を抜かした。あら聖女様ごきげんよう。こんなところでご見学でございましょうか。


「いや貴女、さっき大砲に積められてましたよね!?」

「ザコお兄さん越え大きい。あっちはヨウコよ」

「ええ?」


 ヨウコが聖女様に変化して、こっそりすり替わったらしい。


「ヨウコが救ってくれた恩を返さなきゃじゃなとかなんとか言って、身代わりになったの」

「そんな……あいつそんなキャラじゃなかっただろ……」

「……」


 聖女様が固く目を瞑り、両手でタリスマンを握った。


「ファイア!」


 聖女に化けたヨウコの入ったヨウ女砲が発射された。

 眩い白い光がケルベロスを撃つ。そして光は、二つの頭と半身を消し飛ばした。

 その威力に大歓声が湧く。犠牲をともなう一撃とは知らずに。


「ヨウコ……元気でな……」

「なんじゃ。わちはいるぞ」


 辺りを見回したが、辺りは光の粒がキラキラと舞い落ちるだけ。ヨウコの意思が話しかけてきたのだろうか。


「ここじゃ! 主の肩の上じゃ!」


 なんか左肩が重いと思ったら、人形サイズのヨウコが乗っていた。


「い、生きてるぅ!?」

「生きてるぞ。はよう、マナを分けておくれ」


 俺はどうしたらいいかわからずオロオロしていたら、メメが手乗りヨウコをむんずと掴まえ、シエラの頭の上に乗せた。

 するとケルベロスのマナを吸った俺のマナを吸ったシエラのマナが、ヨウコに流れていく。ヨウコは光り輝き、狐の尾がふさふさになった。


「ちと足らぬが、しばらくすれば戻るのじゃ」

「おなかすいたー」


 シエラはドーナツを創り出し、もぐもぐと食べ始めた。

 それを聖女様に見られていた。


「おおう……。どうかご内密に……」

「ふふっ。それで貸しはなしですよ。英雄さま」


 聖女の奇跡がみんなを癒やしていく……。

 残りの一つの頭はディエナの姉御が切り落とし、かくして、ケルベロスとの決着は付いた。


 これで街が何か好転したわけではない。

 宴をする間もなく、ケルベロスの解体が始められた。ちょうど良い事に、内蔵を捨てる穴が空いている。何人か食われていたようで、腹の中から三人ほど冒険者が生きて出てきた。

 解体は夜通し行われ、交代しながら進められ、終わる頃には朝日が昇っていた。

 精魂ともに疲れ果て、仰向けでぶっ倒れて、やっと生きてる実感がした。

 メメの膝枕で、目の前におっぱいがたゆんとしている。下からみるおっぱいはレア角度だ。俺は幸せを感じる。


「ザークさん、流石です。ザークさんのおかげで斃す事ができました」

「リチャルド本当かぁ? 俺はノミのようにしがみついただけだぞ」

「ザークさんがケルベロスの動きを止めて、時間を稼いだおかげでバリスタでの拘束ができました。ザークさんが一番の功績です!」

「そりゃあ良かった。俺はもう疲れたよ」

「ザークさんはケルベロスのマナを吸収していましたよね? あれには僕も驚きました」

「そういえば見せるのは初めてだったな」

「ジス教の言う闇のマナ……僕たちは黒色と呼びます。ザークさんはそれを吸収したのですよ」

「へえ。それで?」

「黒色を吸収できる者。それこそが僕の探していた黄金の天使ですよ!」

「じゃあ俺がその黄金の……って言いたいのか?」

「はい!」


 はいじゃないよ全く。俺はそんな上等なもんじゃあない。


「誰にも言うなよそのこと」

「なぜです?」

「俺はもう戦うのには疲れたんだ。そして俺だけの幸せをここに見つけたんだ」


 俺はたわわに実る果実に手を伸ばす。

 しかしそれはぽふんと凹み、膝枕も肉付きが悪く骨っぽくなった。


「時間切れ」


 メメの声に、俺は静かに泣いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 色々いろいろ。 [気になる点] な、何やってんのジス教ぉー!? [一言] 天使のお導きです。。。!
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