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俺だけが信じるもの

 異常なことが複数起きると人……じゃなくて悪魔か、はフリーズするらしい。

 俺はメメの蹴りをガードしたがごろごろごろと地面を転がった。


「なんれならまを……もぐごくん、蹴ったのじゃ!? これうまー!」


 ヨウコは口に入れられたクッキーを飲み込んで目を輝かせた。

 

「ザコお兄さん、マナ吸収を制御できてないんだからダメでしょー」

「そういえばそうだった」


 俺はむくりと起き上がりたははと笑った。


「こ、こやつら頭おかしいのじゃ!」


 ヨウコは森へ向かって逃げ出した。

 バアン。

 ドサ。

 シエラは、今度はちゃんと言いつけどおり人へは向けず、空へ向かって空砲を撃った。


「ばあん怖いのじゃあ……」


 ヨウコは狐耳をぺたんこにしてうずくまってブルブルしている。

 だったら逃げなきゃ良いのに。


「ちょっと待てメメ。俺がこんなのに欲情すると思うか」

「そういう目をしてた」

「バレたか」


 俺は大人バージョンのヨウコのばいんばゆんのおっぱいを妄想していた。確実に俺の手は暴走していただろう。

 うぐっ……右腕が疼く……。


「もう逃げないか?」

「逃げぬのじゃ」

「じゃあ俺はミッシェルに伝えに行くが……連れて行った方が良いのかなこいつ」


 メメはうーんと腕を組んだ。


「ザコお兄さんが変なことしないといいけど」

「変なことってなんだよ」


 それにしてもヨウコの尻尾がもふもふでふわふわでゆさゆさしてて気になる。

 むぎゅ。


「んぎゃあ!? なにするのじゃあ!」

「ほら、そういうとこ」


 おっといきなりたしなめられてしまった。てへぺろ。

 メメとシエラはその場で射撃練習を続けて、俺はヨウコをいつもの酒場へ連れて行くことにした。ヨウコを置いていくことも考えたが「耳がおかしくなるのじゃあ」と離れたがっていたので。

 俺が掴むとマナ吸収が発動してしまうので、ヨウコに俺の袖を掴ませる。隣を歩かせていると、「くふふ。わちの魅力にめろめろじゃな?」とかぬかしてきたので、ぴょこぴょこしている狐耳を引っ張った。ふぎゃって鳴いた。

 酒場に入るとおっちゃんが「今日はまた違う子連れてるのか」と茶化してきた。


「わちはこの主にめちゃくちゃにされたのじゃ……」

「お前、こんな小さい子を……」

「俺はちんちくりんには興味ないからなおっちゃん」


 おっちゃんは無視してミッシェルを呼ぶ。おおい。


「また少女を引っ掛けたのか……羨まけしからん」

「引っ掛けられたのじゃ」

「違うからな」


 さてなんと切り出したものか。


「悪魔狩りの事なんだが」

「それな。先ほど街中で蹴り飛ばされ張り倒される事件が起きた。そこから犯人を追っているところだ」


 それメメが俺の成りすましを蹴り飛ばしたやつじゃね?

 そういえば他人に幻術をかけることもできるんだよなこの狐。


「その獣人の子はなんなんだ?」

「それだ。こいつが追っていたドッペルゲンガーの正体なんだよ」

「は?」


 ミッシェルがヨウコをまじまじと見つめた。ヨウコはベリーを口に運ぶ。


「うむ。わちがやったのじゃ。申し訳ないのじゃ」

「幻術の使える狐の悪魔らしい。いま変身できるか?」

「主に魔素を吸われたので無理じゃあ。力が足りぬ」


 どうやらヨウコはマナの事を魔素と呼んでいるようだ。


「幻術というのは、他人の姿を偽らせ、記憶操作するのだろう?」

「そうじゃ」

「ならば、その子が本物という証拠はあるのか? 本物の振りをさせられてるだけかもしれない」


 なるほど。俺はヨウコのアホ面を見た。うん、こいつはそんな賢くないと思う。


「そんなことするか馬鹿たれぇ」

「そんなこと言うと狩られるぞ」

「むぐぅ」


 ヨウコはとっさに自分の口を抑えた。


「それでだ。どちらにせよこの狐は俺が預からせて貰う」

「は?」

「うむ。わちの身体はこの主の物になったのじゃ。傷物にされたのじゃ。およよ」


 してねえよ。力の吸収はしたみたいだけど。


「メメちゃんだけに飽き足らず! ゆるせん!」

「落ち着けロリコン。順を追って話そう」


 俺は吸収能力を打ち明けて、昨日捕まえた際にヨウコの身体が縮んだらしい事を話した。


「それとこの男から逃げる時にも全力出したのじゃ。もう空っぽなのじゃ」

「そういや俺の偽物を作ったよな?」

「どう出るか様子見したのじゃ。いきなり蹴り飛ばして驚いたのじゃ……。あの露出少女は何者なのじゃ……。恐ろしいのじゃ……」

「偽物も本物も関係なく蹴るしな、あの暴力女」

「そういえば主も蹴られてたのお」


 同情してくれるか。意外と良いやつかもしれん。


「オレもメメちゃんに蹴られたい」

「何言ってんだ」

「わかった。一連の事は解決したと上に伝えよう」

「ぽんこつ狐だったと伝えといてくれ」

「ぽんこつじゃないわい」


 ずぞぞぞとお茶を飲む姿はどうみてもぽんこつ。


「なあ、その上っていうのは教会か? ジス教の冒険者とは珍しいな」

「教会じゃねえよ。俺は黄金の天使教だ」

「黄金の天使教?」

「ああ。ザークは他所から来たんだったな」


 この街に来てから二年経つが、初めて聞いたぞ。


「実体はないからな。強いて言うなら、冒険者ギルドがそれだ」

「はぁ? 冒険者ギルドは冒険者ギルドだろう?」


 冒険者ギルドとは一言でいうと外で働く日雇いの商業ギルドだ。組合員から素材を買い取り、商売をしている。薬草採りも、魔物退治も、護衛も、狩猟も、木こりも、冒険から開拓時代から続くギルドである。人類が安住の地を広げるための組織ということだ。


「と、一般的には思われている」

「違うのか?」

「少なくともここでは違う」

「ふむ?」


 なんだか話しが長くなりそうなので俺もお茶を貰う。ずずず。


「冒険者ギルドとは黄金の天使を追うための組織だ。そしてここは聖地エルシアなのだ」

「なに言ってんだお前」


 天使だの聖地だの何か妄想に取り憑かれていらっしゃる? 実体がない宗教? 脳内教? ああ、そういう?


「黄金の天使は地上の生き神だが、実はジス教の統一神も元は黄金の天使と言われている。まあ俺たちにとっちゃ偽物なんだが、歪めて崇めてるのがあいつらって事だな。俺たち黄金の天使教は違う。そもそも宗教ではないのだが。誰もが日の出の太陽を崇めるように、俺たちに取って黄金の天使は自然にあるものだ。おい聞いてるのか?」


 会話の蚊帳の外にいたヨウコは、何やら勝手に色々注文して肉を食っていた。

 同じく妄想垂れ流し男の話しを右から左へと流しつつ、俺も肉を食った。


「聞いてる聞いてる。つまりミッシェルは黄金の天使を追いかけているんだろ?」

「よくわかってるじゃないか!」


 適当に言ったら当たってしまった。そろそろ話題を変えたいのだが。


「付かぬことを聞くが、ザークの信じる神はなんだ?」


 俺は太陽神だが、おそらく聞いているのはそういうことじゃないだろう。俺の、俺だけが信じるもの。これはそういう話しだ。


「強いていうなら……おっぱい教だな」

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