俺は魔法を覚えた
「ほらザコお兄さん、ズボン脱いで♥ もうこんな腫れちゃってるぅ♥」
ぷりんとした俺のケツがぷっくりと一部が腫れていた。ミッシェルの奴に毒針を刺されたらしい。
「麻痺毒みたいねー☆」
「でも弱いからすぐ治るよ♥」
「あっあっあっあっ」
パフィさんとメメにお尻をつんつんされて、俺の身体は痛みでびくんびくんと痙攣する。
軟膏をぬりぬりされて、俺のぷりぷりお尻はしまわれた。
そしてパフィさんからプリンを渡されたので、シエラに持っていく。
「おかちっ!」
シエラは身体を起こすことができるくらいにまで回復しており、カスタードプリンをぷるぷるさせて目を輝かせた。
「ぷるぷる」
「プリンってお菓子らしい」
スプーンで一口食べて、シエラは身体を揺らした。
「ぷりーん!」
「ねえ、エッタの分は」
「こちらに用意させて頂いております」
アリエッタ嬢もプリンをご所望。俺の手から引ったくるように奪い取り、プリンをぷるぷる味わって、頬に手を当てて「ん~♥」と身体揺らした。
「私もー」
「これは俺のだ」
メメはすでに食べ尽くし、俺の分を手から奪い取った。
「おい……それは本当に許されないぞ……」
「しょうがないなあ。あーん♥」
あーん。
滑らかな舌触りの甘いぷるぷるが口の中いっぱいに広がる。それはまさにおっぱい。幼き日の母のおっぱいの味だ。
「きゃー!? なに!?」
気がつくと俺はメメのおっぱいに顔を突っ込んでいた。いや、メメっぱいは板なので突っ込むというのはおかしい。挟まるという表現もおかしい。だが肋骨の上に盛られたささやかな膨らみは、間違いなく女の子の感触。
「なに盛ってんのよ!」
背後から俺の頭にアリエッタの杖が振り下ろされた。だが今の俺にはそんなものは難なく躱せる。
俺はアリエッタのスカートの中に潜り込んだ。
「こいつ一体なんなのよ!」
「ザコお兄さんの変態度が上がっているわ……」
すーはーすーはー。ふぅ。俺はスカートをめくって外に出て、にこっと笑った。
「汗臭いぞ」
「こいつッ!」
アリエッタの杖が輝きだす。はははーこんなとこで魔法使ったら危ないぞー。
「ぷりんもっとー」
そういって両手を上げたシエラの隣に俺は寄り添った。
「子供を盾にするなんて卑怯な!」
「逃げてー! 変態が伝染るー!」
首をかしげる幼女の頭を俺はなでなでした。なでなで。
「最近俺の言動がおかしい気がする」
「気づいたか」
「自覚あったのね」
アリエッタは杖を控えて椅子に座り直り、メメはシエラに俺の分のプリンをあーんと食べさせた。
「あんたもその子も、魔法ってものを理解してないからよ」
「なにが?」
「魔法っていうのはね、条件を付けて事象を起こすことなの」
アリエッタは掌から氷を生み出し、からんとコップに入れた。
「魔法は願いを叶えるものじゃないのよ。例えば、魔法でプリンが作れると思う?」
「作れないのか?」
「できないわよ。魔法ってそういうものじゃないの」
シエラがそれを聞いて、手をお椀型にして「んむむー」と輝かせだした。
ぷりんっとプリンが生まれた。
「ぷりんできたー!」
「プリンできたぞ?」
「ちょっと待って……」
アリエッタは頭を抱えた。
メメも手をお椀にして「んむむー」としたが、プリンがぷりんとできず、炎がぷりんと現れて消えた。
「プリンできない……」
「そう! できないのよ!」
「シエラはできたが」
「……」
シエラは掌にできたプリンをもしゃもしゃと食べ始めた。
アリエッタは頭を抱えた。
「わかった。アリエッタの魔法論ではできないってことなんだろ。それが俺と何の関係が?」
「おかしい……魔法万能論は百年も前に否定されたはず……だけど実際願ったものが魔法で現れた……魔法を超えた変換は神の奇跡の領域のはず……無垢なるマナを使えば……魔力欠乏症の影響……エルフの秘薬が……」
アリエッタがぶつぶつ言い出して壊れた。
なのでメメが代わりに続けた。
「魔法はできると思うことしかできないのよ」
「それで?」
「逆に思い込めばそれだけ力を発揮するの」
思い込みの力……。なるほど。
俺は聖女のプレミアムおっぱいと思い込んだからセクハラ力が高まったが、それが本当に聖女かおっぱいかとは問わないということだ。
おっぱいが先か、セクハラが先か。
「ザコお兄さんが難しい顔してるけど、絶対間違ってると思う……」
「あんたの魔法は条件付きの身体強化だけど、その条件が異常なのよ」
「い、異常……?」
俺のセクハラ力が……?
「おそらく、あんたに魔法を教えた者の影響ね」
メメは顔を逸らして口笛を吹き始めた。ひゅるひゅる言ってて吹けてないが。
「身体強化の魔法はマナを体内に巡回させるからハイになるのよ。気をつけなさい」
「じゃあ炎出したり氷出したりするのは?」
「それは……ちょっとその子止めなさい!」
シエラが「ぷりんー」と再び生み出そうとしていた。
俺はシエラの胸を触り、こしょこしょとくすぐって邪魔をした。
「やーっくしゅぐっらい!」
「せっかく良くなってるのにまた倒れるわよ。厳密には身体強化も事象を起こす魔法も同じものなんだけど、ここはわかりやすく別のものとして考えて。単純な考え方としてはマナは身体から抜けていくってことでいいわ」
「ふぅん」
「だからそんなプリンを作る魔法……プリンを作る魔法ってなによ……そんなことしてたらまた気絶するわ。それがマナ欠乏症」
俺はこちょこちょをやめてシエラを抱きかかえた。
「プリンを魔法で作っちゃダメだって」
「やーぷりんー」
「こちょこちょするぞ」
「こちょこちょやーっ」
シエラはもぞもぞと腕の中から逃げ出した。
「待てよ。俺にも魔法使えるってことか?」
「相性があるけどね。例えば私は氷魔法しか使えない」
「炎とか爆発とか起こしてるじゃん」
「それはこの杖のおかげ。ああこれ秘密だかんね。属性とか魔法使いの弱点だから。まじで」
「ふぅん。メメも炎だよな」
「そうね」
メメは指先からぽっと火をだした。
「シエラはプリン属性?」
「あいっ」
「プリン属性は無……いやでもプリン魔法だし……」
アリエッタがまた目をぐるぐるにして気が狂い出した。
そうかしかし魔法か。
魔法使えたら便利だしかっこいいよな。
むん!
俺は両手を前に突き出した。
「ザコお兄さんはなんの魔法が使えるのかなー?」
「一応先に言っておくけど、使えない可能性が高いからね。マナを内側で回すのが得意だと外に出すのが苦手だし」
「私も肉弾戦の方が得意ー♥」
そういえばメメは殴る蹴るの方が多かったな。
しかし魔法か、魔法。
アリエッタの話しだと、魔法は万能ではない。だけどシエラはプリンを生み出した。
ということは、おっぱいも生み出せるのではないだろうか。
俺は突き出した両手で空気を揉みしだく。
手が光り輝く。
掌が温かい感触に包まれる。
そこには何も存在しない……だが!
「メメ! 俺の前に座ってみてくれ!」
「え? なぁに?」
メメがシエラのベッドに座った。
俺の手はメメに触れていない。だが感じる。そこにふくよかな感触が。ぷりんぷりんとしている。
イマジナリーおっぱい!
「ひゃう!? な、なにしたの!?」
「何も見えなかったけど」
俺はきょとんとしているアリエッタをベッド脇まで呼ぶ。
そして両手を突き出した。もちろん身体には触れていない。触れたら先に爆発する杖が俺の頭を叩き割るだろう。
幻想おっぱい魔法!
「んにゃ!? なにその魔法!?」
「ふぅ……どうやら俺は新たな力に目覚めてしまったようだ」
なぜか俺は殴られた。




