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俺はアリエッタのスカートに潜る

 本気の脳天直撃コースでアリエッタの杖が振り下ろされた。がっつりマナが込められている。ありえない。

 瞬間。俺はセクハラ力を発揮して、アリエッタのスカートの中に潜り込んだ。黄色だった。

 バゥンとスカートの外から爆発音がする。あぶねえ! あいつまじで俺の脳みそをそぼろにするつもりだったらしい。事実、俺の残した残像の頭部はぐしゃりと潰れた。


「ふぅ。やっぱり幻覚だったわね」


 アリエッタは消えた俺の事に気づいていない。頭に振り下ろしたのに感触がなかったことから完全に幻覚だと思ったようだ。

 せっかくなので俺はアリエッタのお尻を楽しむ事にした。もにゅもにゅ。やはり子供体形だ。なぜ俺の周りには子供体形しかいないのだろうか。悲しい。


「ひゃあ!? なに!?」

「俺だ」


 俺がスカートをめくって外に出ると、すかさず二撃目が振り下ろされた。

 俺はアリエッタの背後に周り、後ろから胸を揉む。ふにょん。メメよりはあるが、限りなく板に近い。


「もっと飯食って成長しようぜ」

「なんだこいつー! うぜー! しねー!」


 アリエッタが杖を横に振り回したところで、俺は再びスカートの中に潜り込み、太ももの間に逃げ込んだ。


「落ち着け。俺は本物だ」

「本物の変態がぁ!」


 しかたない。俺はアリエッタを押し倒し、両手首を掴んだ。


「な、なにすんの! 離して!」

「離したら殺される」

「わかった! 半殺しで済ますから!」


 俺は杖を持つ手を抑えたまま、青く血塗られたダガーを手にした。


「や……ふぇ……」

「静かに」


 俺がアリエッタの口を手で塞ぐと、アリエッタは半泣きのまま静かになった。

 俺はダガーを投擲した。『ギッ』と小さく声を上げ、それは煌々と燃える巨大蜘蛛の火に照らされて、手足をビクビクと震わせた。


「子蜘蛛だ! あちこちにいるぞ!」

「ええ!?」


 部屋の隅の糸の中に産み付けられていた卵が一斉に割れて孵化していた。子蜘蛛たちは死にかけている母蜘蛛に群がりシャリシャリと音を立てている。


「気持ちわる!」

「俺じゃなくて、あっちに魔法撃ってくれ」

「わかってるわよ!」


 アリエッタの杖が激しく光を放つ。

 俺は母蜘蛛咀嚼争奪戦から弾き出されて、アリエッタに向かってくる子蜘蛛を踏みつけて蹴り飛ばして追い返した。


「フリムコラナ!」


 蜘蛛が燃え盛る炎の柱で包まれた。母蜘蛛と子蜘蛛がまとめてパチパチと音を立て、苦しみ、もがき、仰向けになり、団子のように丸くなる。


「ヒューッ! すっげぇ」

「ふふんっ。やばい。ちょっと守って」


 アリエッタはぺたんと床に座り込み、ポーション瓶をごくりと煽る。


「マナポ?」

「そうよ。ちょっと無茶した」


 アリエッタの頬を触ると冷たくなっていた。明るい所で見たならば顔が青白くなっていそうだ。


「キスなんかしたら自爆魔法するわよ」

「しない」

「さっき身体触られまくったの思い出した。やっぱ殺す」

「やばっ」


 自爆覚悟で殺しにこられたらスカートの中も安全ではなくなる。

 俺は慌てて離れてダガーを拾い、生き残った子蜘蛛の処理に精を出した。しかし大半は手を下すまでもなく、燃え盛る母蜘蛛の炎の中へ突っ込んでいった。

 俺は全ての卵と蜘蛛の処理を終えると、アリエッタの元へ戻り、小袋を差し出した。


「はいよ」

「なにこれ」

「クッキー」


 アリエッタは袋を開けると、もしゃもしゃとギルドのお茶請けクッキーを口に頬張った。

 代わりにアリエッタは残り少ないポーション瓶を俺に差し出した。


「んっ」

「俺に?」

「またマナ酔いでハイになってるんでしょ。少ないけど飲んで。飲みなさい」

「はい」


 俺は間接キスを味わいながら瓶を呷った。苦い。中身はマナポだった。

 頭の中の揺らぎがすぅと治まった気がする。


「マナポーションは体内のマナを安定化させるわ。楽になったでしょ」

「ああ、すまない」


 なんてこった。俺は少女趣味はないのにアリエッタの身体を喜んで触りまくってしまった。


「誤解しないで欲しい。ちょっと頭がおかしくなっただけで、本当はちびっ子の身体には興味はないんだ」

「やっぱぶち殺そうか」

「誤解だ。成長の見込みのない身体には興味ないんだ」

「やっぱぶち殺そうか」


 まだ酔いが覚めていないのか、口が上手く回らない。

 俺が怯えて尻もちを付くと、代わりにアリエッタは立ち上がり、パンパンとスカートの埃を払った。

 そこで一つ思い出す。


「太ももの感触は良かったぞ」

「やっぱぶち殺そうか」

「ごめんなさい」


 何を言ってもダメそうだ。これだからわがままちびっ子は苦手なんだ。


「さて、仕置きは置いといて」

「水に流してくれ」

「……ふぅ。はぁ。ふぅ。置いといて。なんでここにいんのあんた」

「転移してきた」


 俺は奥の部屋を指差した。


「なんだって転移!? 行くわよ!」


 アリエッタは俺の手を掴んで引っ張った。


「あの黒い箱が転移の魔道具だ」

「どうやって動かすの!?」

「動かないぞ」

「なんで!?」

「さっき俺が転移してきたから」

「ずるいずるいずるい!」

「天井の魔石の光が弱まったんだ。俺がいた方の部屋ではもっと明るく輝いてた」

「魔石のマナで起動させるのね。輝かせなさい!」

「どうやって」

「マナを補充させる!」

「どうやって」

「……」


 アリエッタは杖を天井の魔石に向けた。おいおいおい。


「壊す気か?」

「魔法をぶつけてマナを吸収させる」

「人を転移させるだけのマナを?」


 アリエッタは冷静になったのか、杖をだらんと下げた。


「どんな……感じだった……?」

「川に流されて滝に落ちる感じ。落ちたことないけど。すっげえ気分が悪い」

「そう……。いいわね……」


 アリエッタはふらふらと黒い立方体に近づき、抱きついた。


「ああ……人類の英知……。れろっれろれろ……ぺろぺろ……ちゅぱ……」

「人類の英知を舐めるなよ」


 アリエッタがぺろぺろ始めて落ち着いたところで俺も尋ねる。


「アリエッタがいるということは、ここは南の大農園なんだろ?」

「そうよ。表向きは護衛。本題は遺跡調査。まあ護衛も本当だけど。リチャルドが畑を見張って、暴風が害獣処理に出てる」

「なあ、アリエッタに急ぎの頼みがあるんだ。仲間が死にそうなんだ」

「急ね。仲間ってメメちゃん?」

「いや、別の子供だ。でかい爆発を起こす魔法を使って気絶して、三日くらいで死んじまうらしいんだ。メメはアリエッタなら救えるって」

「あちゃあ」


 アリエッタはぺろぺろを止めて、顔を向けた。


「あんたの周りは厄介なのばかりいるわね。協力してもいいけど……エッタもギリギリよ」

「エルフの秘薬を作る案もある……。そうだ! この蜘蛛ってこの洞窟と共に生まれたのかな!?」

「そうじゃない? 知らないけど」

「なら死骸が材料になるかもしれない! ああ、でも母蜘蛛は燃えて食われてしまってたな……。残ってればいいが……」

「げぇ。蜘蛛の解体なんて手伝わないからね」


 俺は母蜘蛛の脚をダガーで切り落とし、それを担いでアリエッタと洞窟を出た。

 外から清々しい新緑の香りがする。太陽が激しく照りつけ、強い影を地面に落とす。


「腐らないかなこれ」

「んもぅ。わかったわよ!」


 何も頼んでないのにアリエッタは母蜘蛛の脚を氷漬けにしてくれた。


「まじで、もう、限界ギリギリだからね。エッタを担いでリチャルドの元へ向かいなさい。それで馬を借りて街に向かうの。馬は乗れる? エッタは寝るから。いいわね」


 アリエッタは早口でまくしたて、俺の背中によじ登り、こてん、すやーと意識を落とした。

 

「いや待てよ。ここはどこだよ……リチャルドどこだよ…」

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