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俺はオークを討伐する

 魔狼討伐の証明兼素材として売るために牙を取っていると、メメがじっと森の奥を見つめていた。


「どうした?」

「森の奥に別の気配があるね」


 別の気配?


「魔狼か? それとも他の冒険者か?」

「これは、オークね」

「オークって、森の奥の腐れ民の?」


 不浄の人型モンスターのオーク。現れるのはもっと森の奥地のはずだ。


「どうするの?」


 作業の手を止めた腕にメメが絡みついてきた。


「何匹いるんだ?」

「六匹」

「多いな……」


 一匹なら腕試しに良かった。二匹ならメメと協力すれば余裕だっただろう。

 六匹にもなるとパーティーでの連携が必要だ。メメなら一人で倒せるかもしれないが、俺が死ぬ。


「あれがエルフ娘の探しものかな?」

「うん? ああなるほど。シリスはそのための単独調査に来ていたのか」


 エルフは元々は森の民であり、森での活動に適している。

 シリスが一人で東の森にいるのは、もしかしたらオークの調査の依頼を受けていたのかもしれない。


「討伐の協力を頼んでみたら?」

「あいつにか? 無理だろ……」


 シリスの二つ名は「人嫌いエルフ」だ。

 エルフというのは元々人嫌いである。人の街に住んでいるエルフでも内心では人間を見下しているという。

 ようするにシリスの二つ名は、「人嫌い」と二重で言っているようなものだ。それだけシリスの印象は悪い。

 彼女が心を許している人間はリチャルドだけだろう。


「エルフさーん! オーク狩りしーましょー♪」

「ノリ軽いな」


 しかし反応はない。


「反応ないな。聞こえてるのか?」

「聞こえてるよ。エルフは耳がいいしぃ」


 メメは立ち上がり、「んんん♥」と背を伸ばした。薄い身体に肋骨が浮かぶ。


「それに反応はあったよ。行こっ」

「なあ。本当にやるのか? まずは戻って報告したほうが……」

「んー。これだけ森の浅いところまで来てると、知らない人たちが犠牲になるかも知れないよ? 私は別にいいけど」

「そうか。そうだな」


 俺は立ち上がり、ダガーの血と油を拭い取る。


「だけどメメに任せる事になるぞ。面倒くさがりなのに珍しいな」

「んー。たまには運動しないとね♥」

「なるほどな」


 俺はメメの脇腹を掴んでみた。ぷにょんとしている。

 メメはそれを目を見開いて驚き、ささっと後ろに飛び退いた。


「ザコお兄さん……。なんて自然なセクハラを……。驚いた……」

「なんだよ……。行くぞ」


 六匹のオークはまだかなりの距離があるようだ。

 メメが言うには接敵までの時間は、一皿の肉を食べきるくらいの時間。……メメ基準だと一瞬なのだが、とにかく普通なら相手の存在に気づかないほど離れている。メメの感知はそれだけ広い。

 慎重に近づいていくと、腐臭を感じた。貧民街の裏路地のような臭いだ。そのような腐臭を放つ花が近くに咲いているわけではない。つまりこれが、おそらくオークの臭いだ。


「なあ。臭いが酷いがオークってアンデッドなのか?」

「んーん。オークは『呪われたエルフ』よ」

「そう、なのか?」


 オークの姿が見えた。

 エルフとは似ても似つかない歪んだ顔。汚れがこびり付いた筋肉質の身体。なるほど腐れ民とは言い得て妙だ。鼻がひん曲がりそうだ。

 俺はバンダナを鼻に巻いた。


「ずるい」

「悪いが他に布は切れ端しか持ってないぞ」


 傷口に当てるための布だ。顔に巻くほどの長さはない。


「これでいっか」


 メメは自分の胸を隠してる布を脱ぎ、自分の顔に巻いた。

 あらわとなった胸に、木漏れ日が射し込む。


「……お前、女の自覚ないだろ」

「え? なぁに? 私の身体に興奮しちゃった? ロリコン♥」

「あいつらくらいの胸になってから言え」


 あいつらとは同じく胸丸出しのオークの事だ。メメより脂肪が付いている。男か女かもわからんが。


「後で折檻♥」

「生きて帰ったらな」


 突然。オークの足元のつたが急激に伸び、巻き付き始めた。オークは『ギュヒギュヒ』と慌てだす。拘束までいかずとも、動きを阻害した。

 シリスの魔法だ。

 そして俺たちの頭上から、オークに向かって矢が放たれた。その大きな胸に、一、ニ、三と突き刺さる。

 オークは襲撃に対し、すぐに手にした手斧を構え、足元の蔦を引きちぎる。

 弓矢の攻撃だけで仕留められたオークはいなかった。


「――ッ!」


 俺とメメは目を合わせ、言葉もなしに同時に草むらから飛び出した。

 オークは頭上からの弓矢を警戒していたため、俺たちへの反応に一瞬遅れたはずだ。


「たぁ!」


 俺はオークのももを狙った。切断できずとも、出血多量で致命傷になるとメメが言っていた。それに文字通り足止めの効果もある。

 俺の剣はオークの腿の、皮の下の脂肪まで切り裂いた。残念ながら筋肉まで届いていない。

 俺はすぐに飛び退いた。


『ギュシュルゥッ!』


 オークさんはお怒りである。ごもっとも。

 俺はさらに下がり、オークは前に出る。残念だがお前は孤立してる。他の仲間はつるぺた丸出しで暴れてる少女にかかりっきりだ。

 俺に怒り心頭のオークの左目に矢が突き刺さる。オークは顔を抑えてもがく。

 俺は突きを放つ。


「ふんっ!」


 体格のでかいオークに対し、心臓狙いは悪手であろう。皮下脂肪が厚そうな腹も致命傷になりそうもない。

 俺は最初の一撃で傷つけた腿を狙った。傷口に刃が突き刺さり、太い血管、そして筋肉を裂いた。


『イギィィイイッ!!』


 オークのがむしゃらな斧の一撃を、剣を手放し右に転がって避けた。

 剣が深く刺さりすぎた。抜く暇がなかった。

 オークの潰れた左目の方に避けた結果、オークは俺の事を見失ったようだ。

 俺は素早く腰の短剣を抜き、転がるようにオークの足元へ近づき、そして足首の腱を切り裂いた。

 オークは叫び声を上げながら、後ろに倒れた。追い打ちのように、右目に矢が突き刺さる。

 視界を失ったオークは、立つこともできず、地面を転がった。その際に腿に刺さった剣が抜け、青い血が吹き出した。

 俺は素早く剣を拾い、地面で暴れるオークの首に突き立てた。

 叫び声が消え、オークはごぽっと口から青い血を吹き出し、絶命した。


「そっちいったよー」

『ンアォオオウ!』


 声の方を向くと、一匹のオークがこちらに向けて走ってきていた。

 仲間を救うために、かたきを討つために、といった様子ではなかった。オークは恐怖し、狂乱し、逃げている。その元凶はメメだ。

 メメは俺とシリスが一匹を相手している間に、四匹を血祭りに上げていた。メメの周囲の木々に、オークの青い血が広がっている。


『アグゥウッ!!』


 俺に向かってきたオークは、戦意を失っていないのか、それともただ逃げる先の障害物を退けようとしたのか。俺に向けて手斧を投げてきた。

 俺は慌てて屈んで避け、思わずオークの腹部に剣を突き刺した。

 オークの勢いのせいで、ずぶり、と奥まで突き刺さる。


「やばっ」


 戦闘中において、腹は急所ではない。後に致命傷になったとしても、その場ではまだ動ける傷だ。

 オークが俺に倒れ込んできた。

 潰される……!

 その時、突風が吹いた。

 オークが何かに弾かれたように、仰け反り、仰向けに倒れた。

 さらに矢が喉に突き刺さる。

 そしてオークは動かなくなった。


「ふぅ……」


 俺は立ち上がり、オークの腹部に刺さった剣を、力いっぱい引き抜いた。


「んおっと!」


 戦闘後で気が抜けていた俺は、足を滑らせてそのまま後ろへ倒れてしまった。

 そこにはちょうど、木から下りて音もなく近づいていたシリスが。

 うむ。白パンツ!


「何をしてる」

「人間族流の感謝の表し方だ」

「そう……」


 ギリギリ許された。

 つるぺた丸出しに股間を踏まれた。

 ギリギリ許されなかった。

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