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ふたりで作る未来へ4


 広くて、人払いできる場所をと考え、カルロスの屋敷の近くにある庭園に移動することになった。

 自分で言い出したことではあるが、カルロスとの思い出の場所で大役を果たさなければならないと思えば、ルーリアは緊張を募らせ、カルロスにしがみつく手にも力がこもる。

 馬を走らせ、噴水のある広場を通り抜けようとしたその瞬間、じゃらりと鎖の音を耳にしたような気がして、思わず声をかけた。


「カルロス様、ちょっとだけ止まっていただけますか?」

「どうした?」

「鎖の音が聞こえたように思えたのですが……勘違いみたいです。ごめんなさい」


 求めに応じてカルロスが馬を制して速度を落としてくれたけれど、広場を見渡しても、あの黒精霊の姿は見られない。

 続くように、エリオットや他の騎士団員たちもその場にとまったため、ルーリアは申し訳なく思いながら謝罪する。


「……いや、お手柄かもしれない。闇の魔力を薄ら感じる。どこだ」


 しかし、カルロスは表情を厳しくさせて、辺りを窺っている。それはエリオットも同様で、ルーリアの中にまた違った緊張感が顔を出す。


「なんだって! 少しも痛みが改善してないっていうのに、そんなに金を取るのか!」

「私は虹の乙女よ。妥当な金額です」


 噴水の近くから年配の男性の怒った声と、聞き覚えのある声が聞こえてきて、思わずルーリアはびくりと体を震わせる。


「アメリア」


 自らのことを「虹の乙女」と言うのはもちろんアメリアで、その後ろにはクロエラとディベルの姿もある。少し腰が曲がった男性の言葉から、アメリアが治癒行為が行い、高額な金額を要求したのだということが容易に想像ついた。

 男性へと、ルーリアと庭仕事を行なっていた老婆が近づいて、声をかけた。


「この子には関わらん方がいい。ジークローヴ公爵の若奥様を訪ねてみると良いよ。誰かと違って効果は抜群で、尚且つ謙虚でお優しい方だ」

「ちょっと待ちなさいよ。あなた今、私がルーリアに劣っているかのように言ったわね!」


 アメリアは老婆に掴み掛かり、そのまま苛立ちをぶつけるように突き飛ばした。よろけて倒れた瞬間、足首を痛めたらしく、老婆は顔を歪めたが、それでもアメリアを見上げて、はっきりと言い切った。


「虹の乙女という敬称は、あの子の方が似合ってる!」


 アメリアは怒りで唇を震わせた後、老婆に掴み掛かっていく。周囲から悲鳴が上がり騒然とするが、ディベルとクロエラは老婆の方が悪く叩かれて当然といった顔をし、アメリアを止めることなくただ眺めている。

 老婆は抵抗するが力が弱く、アメリアに良いようにやられている。足首の痛みも手伝ってか、逃げるどころか立つことも出来ない老婆の姿に、ルーリアは見ていられなくなり、馬を降りて走り出す。


「やめて、アメリア!」


 ルーリアがアメリアの腕を両手で掴むと、その声に反応するようにアメリアが肩越しにルーリアへと振り返る。


「ルーリアお姉様」


 アメリアは老婆から手を離すと立ち上がり、怒りを煮えたぎらせたような目でルーリアを睨みつける。


「全部お姉様のせいよ!」


 そして、怒鳴りつけながら力一杯ルーリアを後ろへと突き飛ばす。ルーリアは倒れそうになるが、素早く横からカルロスが手を伸ばし、しっかりと体を支えた。

 アメリアはカルロスを見て、一気に目に涙を溜めて訴えかける。


「カルロス様、聞いてください! この方達、私にひどいことを言って侮辱してくるんです」


 腕にすがりつこうとアメリアがカルロスに近づくが、カルロスは触られたくない様に身を引き、冷めた眼差しを向ける。

 アメリアはそれ以上近づくことはせず、悔しそうに唇を噛んだ。

 その様子をクロエラも不機嫌な面持ちで見つめていたが、ディベルはにっこりと嘘くさい笑顔を浮かべて、カルロスとルーリアに近づいていく。


「久しぶりではないかルーリア。カルロス君も一緒だな。新婚のふたりだ。仲が良くてよろしい」


 ディベルは周りに聞こえるように大きな声でそんなことを言う。そして、アメリアが何をしたかも忘れたかのように、座り込んでいる老婆に笑いかけた。


「あなたが先ほど言ったのはこの子のことではないかね。嫁には行っても、ルーリアは我がバスカイル家の大切な一員であることに変わりない。ジークローヴ家と繋がったこのご縁も大事にしなければな」


 笑い声まで付け加えてから、ディベルはカルロスのすぐそばまで歩み寄り、今度は内緒話でもするかのように小声で話し掛けた。


「今からジークローヴ邸へ行こうと思っていたところだ」

「何か用か?」

「ルーリアが生成した魔法薬で稼いでいるだろ? 少しばかり援助してもらおうと思って」


 一気にカルロスが表情を険しくさせるが、ディベルは構うことなく続ける。


「騎士団に売り込んだのお前だろう? おかげでこっちは商売が上がったりだ……元々はバスカイル家で培ってきた技で稼いでいるのだから、俺にも要求する権利はあるはずだ」


 そこでまた一段と声を低くし、ディベルは口元に笑みすら浮かべる。


「ルーリア自身のことは本人からすでに聞いているのだろう? それでも公表せず、我がバスカイル家の名誉を傷つけなかったことは感謝している。ルーリアがいまだ闇の力にのまれていないのはさすがとしか言いようがない」


 ディベルは称賛するようにカルロスの肩をポンポンと叩いた後、ゆっくりと歩き出す。


「援助と、そうだな、ルーリアの生成したものをこちらにも流してもらおうか。それで、勝手に連れ出し婚姻までしたことは目をつぶるとしよう」


 ふたりの真後ろで足を止めた後、ディベルは冷たく言い放った。


「穢れ者となってしまった時は、後始末をよろしく頼むよ。その後、新しい嫁が欲しいなら、アメリアでもなんでも差し出そう」


 ルーリアは思わずカルロスの腕をギュッと掴んだ。


(これまでたくさんの物をアメリアに奪われてきたけど、カルロス様だけは渡したくない)


 穢れ者となるくらいならカルロスの手で楽にしてもらいたい。言い方は嫌でも、そこは受け止められるが、共に生きていく道を模索してくれているカルロスだけはどうしても渡したくないのだ。

 心をちくちくと刺す嫉妬の痛みに顔を俯かせた時、カルロスの温かな手がルーリアの手に重なる。顔をあげれば、力強く笑いかけられ、ルーリアも自然と表情が和らいでいった。

 カルロスは踵を返し、ディベルへと顔を向け、ルーリアに触れていた手を剣の柄へと移動させる。


「笑わせるな。お前らと縁などというもので繋がっているなら、今この場で断ち切ってやる。俺もルーリアも、お前らに何かしてやる義理はない」


 はっきりとカルロスから拒否され、ディベルは顔色を変えて言い返す。


「ル、ルーリアを育ててやった。恩がある」

「……でも、私の生成した物に価値などないのではなかったのですか? 虹の乙女であるアメリアの足元にも及ばないと。アメリアが作った方が価値があるはず」


 ディベル、そしてクロエラに向けて、ルーリアはこれまでずっと言われ続けてきた言葉を返した。

 特に毎日のように貶めていたクロエラはほんの一瞬怯むが、すぐにルーリアへと愛想よく笑いかける。


「嫌だわ。本気にしていたの? 冗談に決まっているじゃない。アメリアにも作ってもらっているけれど、ルーリアのようにいかないのよ。だからこれまでと同じ量を……いえ、もう少し少なくても良いけど、私たちのために生成をお願いするわね」


 笑顔のクロエラを、アメリアは唖然とした顔で見つめる。そしてルーリアも、これまで我慢してきた辛さが一気に蘇り、悔しさとなって心の中で膨らんでいく。


(私もこの場で、過去を断ち切りたい)


 カルロスの言葉に背中を押され、ルーリアは過去の自分と決別すべく、ディベルとクロエラに決意を告げる。


「もう命令には従いません。隠すことももうやめます」


 そこでルーリアは息を吸い込み、大きな声で街の人々へと話しかけた。


「皆さん、聞いてください。私はバスカイル家の出身です……そして生まれた時、黒精霊から祝福を授かりました」

「おい! 待て、ルーリア!」

「私の中には闇の魔力が根付いています。光の魔力と闇の魔力、両方を有しています。そんな私が生成した魔法薬でも、これからも使っていただけますか?」


 闇の魔力は有しているだけで忌み嫌われる。そのため、ルーリアに問いかけられた老婆は表情を強張らせ、周囲からもざわめきが生じ出す。


「これまでバスカイル家が売ってきた魔法薬には、私が作ったものがたくさんあります。皆さん、黙っていてごめんなさい」


 ルーリアが頭を下げると、人々から怒りの声が飛び交い始めた。



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