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凍てつく乙女と死神公爵の不器用な結婚 〜初恋からはじめませんか?〜  作者: 真崎 奈南
六章、

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35/40

ふたりで作る未来へ3(カルロス視点)


 着慣れた騎士団の制服に着替えたカルロスは愛馬にまたがり、エリオットや騎士団員たちと共にアーシアンの街を疾走する。

 そして、馬を走らせながら庭園や屋敷でのことをエリオットに話し、ルイス・ギードリッヒを始めとするその一族が闇の魔力に通じている可能性が高いとし捕縛を求めた。そして、捕えられている黒精霊の奪還ももちろん希望する。


「なんとなく理解できたが、ルーリアさんを連れてきて良かったのか? 昼間のようなことがあれば、また危険に晒すことになるぞ」


 ひと通り話し終えた所で、エリオットはカルロスの後ろにいる、同じく動きやすい簡素なドレスに着替えたルーリアへと目を向けた。


「……彼女はひとりにしたくない」


 言い辛そうにも、不貞腐れているようにも聞こえるカルロスの呟きに、エリオットは目を大きく見開き、口元がニヤつきそうになるのを堪えた。


「そ、そうか、悪かったごめん」

「ニヤニヤしないでくれますか」


 自分に後ろからしがみつく体勢のルーリアが少し動揺しているのが伝わってきて、カルロスはエリオットをじろりと睨みつける形で八つ当たりをしてから、そこから抜け出すべく馬の腹を軽く蹴った。

 そのまま馬を走らせていくと、中央に噴水のある広場で応援に駆けつけてくれた騎士団員たちと合流する。

 カルロスの屋敷から騎士団の詰め所へと大急ぎで戻った騎士団員から「目についた者を引っ張ってきました」と声をかけられ、エリオットは新たに増えた十人近い団員たちを見まわし、力強く頷く。


「ありがとう。お前たちは後方から支援をお願いする」


 エリオットの命令を受け、団員たちは「はい!」と返事をした。

 ルイス・ギードリッヒが家族と暮らしている屋敷に向かって一向は進み、屋敷を取り囲む塀が見えたところで馬を止まらせ、カルロスやエリオットを始め突入組は馬を降りた。


「どうやって中に入る?」


 ルーリアが馬から降りるのを手伝いながら、カルロスはエリオットの問いかけに答えた。


「面倒だ。そのまま玄関から正面突破しましょう」


 本気かと疑うようにエリオットが顔を歪める一方で、ルーリアは「はい!」と真剣な様子で返事をする。カルロスは緊張が抜けたように微笑んで、そっとルーリアの頭に手を乗せる。


「俺の見えるところにいろ」

「頑張ります」


 ルーリアへ向けていた穏やかな眼差しから一変させるように、カルロスはニヤニヤしているエリオットを冷めた目でじろりと見て、「さっさと行きますよ」と声をかけた。

 騎士団員のふたりが勢いよく門を開け放つと、躊躇うことなくカルロスたちは敷地の中へと足を踏み入れ、扉を蹴り飛ばし屋敷の中へと突入する。

 気配を探るように玄関ホールを進んでいくが、何ひとつ察知できない。カルロスはエリオットと顔を見合わせた後、手近の扉からどんどん開けて部屋の中を確認し始めた。

 事前情報では、ギードリッヒ家は祖父母に父母、ルイスとその兄の六人家族。侍女は十五人ほどいるとされていた。しかし、一階二階の部屋も、居間も炊事場も、風呂場に物置きまですべて確認したが、そのどこにも誰ひとり見つけられなかった。

 廊下で落ち合ったカルロスとエリオットは、揃って苦い顔をする。


「逃げられた……しかも、慌てて出て行ったという感じですね」


 テーブルには飲みかけの紅茶や、読みかけの新聞が置かれてあり、炊事場には洗い物の途中で放置された皿があったのを思い返しながら、カルロスがため息混じりにそう結論づける。


「城から真っ直ぐ屋敷に戻り、みんなで慌てて屋敷を出たんだな。絶対に逃してなるものか。国境警備にすぐに伝達を」


 エリオットの指示を受け、近くにいた団員が「了解しました」とすぐに身を翻した。カルロスは開いている扉の向こうの部屋へと目を向け、ゆっくりと歩き出す。ルーリアはもちろんのこと、エリオットもつられるように共に歩き出した。

 一階の奥に位置するその部屋は家族の誰かの部屋のようで、ベッドや机、絨毯などどれも高級品であるのが見て取れた。カルロスは躊躇うことなく、棚の引き出しを開け始め、そこに大きな宝石の付いた指輪などが入っているのを確認する。


「まだ近くにいるかもしれない。ガーデンパーティーでの一悶着があったから、俺たちが来ると踏んですぐに屋敷を出てはいるが、金目のものはそのままだ。どこに逃げるにしろ金は必要だ。俺たちが引いた後、屋敷に戻ってくる可能性が高い」

「そうだな。どこかに隠れて、こっちの様子を伺っているかもしれない。どうにかして、引っ張り出せないものか」


 カルロスの考えに納得しつつ、エリオットは窓の向こうへと警戒の目を向ける。黙ってふたりの話を聞いていたルーリアだったが、思い切るように「あの」と声を発し、一歩前に出た。


「私が囮になれば、引っかかるかもしれません。それに闇の魔力をあえて発動させれば、エメラルドさんだって出てくるかもしれないし」

「危ない。反対だ!」

「……でも、やってみる価値はある」


 即座にカルロスは反対の意を示すが、エリオットは少し考えた後、ルーリアを後押しする。

 ルーリアも息を吸い込んでから、緊張気味に自分の思いをカルロスに訴えかけた。


「カルロス様やヴァイオレット様……それだけじゃない。セレットさんだって、私の両親だってそう。たくさんの人々を悲しませてきた彼らを、私も許せません。ここで食い止めたいのです。これ以上悲劇を生み出さないためにも」


 真剣なルーリアの面持ちと言葉に、カルロスは息をのむ。そして渋い顔をしつつ前髪を乱雑にかきあげた後、自分も覚悟を決めたように返事をする。


「わかった。ルーリア、やってみよう」


 カルロスからも認めてもらえて、ルーリアは屋敷に入る時よりも顔を強張らせながら「頑張ります」と声を張り上げた。

 屋敷から引き上げる途中でエリオットはカルロスの側に近づき、こそっと囁きかける。


「すごいな、彼女。一気に見違えた」

「当然です。俺の嫁ですから」


 それにカルロスは得意げに微笑んでみせた。



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