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ばかばっかり!  作者: 弥塚泉
2014年、再びうろな町役場企画課
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五組目

 この肝試しというイベントをどう思うか、と聞いたとき、彼女たちはこう答える。

 青空陸あおぞらむつみは「脅かしてくるのは人間なんだから怖がることなんてないわ」と。

 日生芹香ひなりせりかは「怖くなんてないわ!」と。

 高原蒼華たかはらそうかは「ただ夜に出歩くだけで何か怖いことがありまして?」と。

 風野から懐中電灯と地図を渡されて、廊下に出た三人は横並びで歩いている。これまでの組は怖がりな者とそれを引っ張る者がいたので前後ができたが、彼女たちは怖くない人たちなので大丈夫なのだ。

「最初はプールね」

「珍しい場所ですわね。肝試しと言えば音楽室の勝手に鳴るピアノとか、美術室の動き出す彫像だとかを想像していました」

「まあ、あの人のやることだから……」

 陸は懐中電灯で前方を満遍なく照らしながら、先日会ったときに「今度の肝試し、楽しみにしといてや」と笑っていた佐々木の顔を思い出す。その時から嫌な予感がしていた。

 そしてプールに着いた三人は、まずものを隠しやすそうな更衣室を探した後、再びプールサイドに戻ってきた。

「どこにあるのかしら」

「ビート板の裏とかありそうじゃない?」

「なら私は配管のところを探してきますね」

 ここまで頑なに集団行動をしてきた彼女たちだったが、ここで蒼華が別れた。想像したよりも怖くなかったので、脅かし役など出ないと思ったのだ。

 一人になった彼女が配管のところまで行くと、不意に動きを止めた。ぺた、ぺた、という音が後ろから近づいて来ている。その足音は明らかに靴を履いている者のそれではない。内心は叫びたいくらい怖かったが、このまま振り返らなければ触れられてしまう。覚悟を決めてそれを目の当たりにした。

 滴を垂らしている長い黒髪は顔に張りついてその表情をうかがい知ることは出来ないが、以前見たホラー映画の幽霊にそっくりなその風貌は蒼華を叫ばせるのに十分すぎるほどで、覆いかぶさられる瞬間に目を瞑った。

「蒼華ちゃん、どうしたの!?」

 彼女の悲鳴を聞いて、芹香と一緒に急いで駆けつけてきた陸の声に目を開けると、あの謎の人物は跡形もなく消えていた。

「さ、さっき、びしょ濡れの女性がいたんです!」

「え? 誰も見なかったけど……」

「蒼華お姉ちゃん、何かを見間違えたんじゃないの?」

「違いますわ!」

「まあまあ。お札は見つけたから、次の場所に行こうよ」

 釈然としない思いを抱えながら、蒼華は先を歩く二人についていく形になった。

「次は二階の女子トイレだって」

「えぇ!?」

「どうしたの、芹香ちゃん」

「べべべべ、別に! 何でもないわ!」

 このとき芹香の頭に浮かんだのは、学校の怪談としてあまりにも有名なトイレの花子さんのことだ。学校で噂される話は一笑に付しているくらいだが、実際に夜の学校でそれを確かめるとなると訳が違う。

「もしかして怖いの? 大丈夫よ、お化けなんていないんだから」

「ち、違うってば!」

 元気づけようとした陸の言葉は逆効果で、芹香は真っ先にトイレの中に入った。トイレの個室は不自然にすべて閉まっている。

「ええっと、奥から二番目のトイレでノックを二回……」

 最初に入った芹香はその都合上、一番奥のトイレの前に立ち止まることになり、陸が紙に書いている手順を実行するのをドキドキしながら見守っていた。それはまさにトイレの花子さんを呼び出す儀式である。

「な、何も起こりませんわね」

 先ほどのびしょ濡れ女の姿が未だに忘れられない蒼華は陸の後ろにいて、さりげなく自分の前の個室の扉に足をかけて開かないようにしている。

「あ、開けないといけないのかしら……」

 冷たい汗が頬を流れていくのを感じながら、陸は目の前の扉を引いた。しかし、そこには誰もいない。三人がふっと緊張を緩めたのもつかの間、一番奥の扉が開いて、髪の長い女が飛び出してきた。芹香がいたところの扉である。

「きゃあああああああ!」

 こうして叫ばれるのは脅かし役の想像通り。しかしまさか動転のあまり、髪の毛を引っ張られるとは思わなかった。

「ちょ、ちょおセリちゃん! 髪の毛引っ張ったらあかんて! あ……」

 芹香は悲鳴を上げながら脱兎のごとくトイレから逃げ去った。髪の毛を握ったまま。不揃いに伸びた不気味な長い黒髪のウィッグは見事に剥がされ、その後には半端に女装した佐々木達也だけが残っってしまった。

「こ、こんばんは。陸ちゃん。それに高原さんとこの娘サンも。こ、怖がってくれた?」

「……さいっていです! 夜の女子トイレに忍び込むなんて!」

「ちゃうねんって陸ちゃん! 落ち着いて!? 人がおらんかってん、香我見クンはプールの方やってるし、紫苑ちゃんは教室で……」

 これはまずいようだと気付き始めた佐々木に、陸は容赦ない言葉を浴びせる。

「近寄らないでくださいこの変態!」

「ちょっと待ってえええええ!」

 こうして、佐々木に不本意な称号がまた一つ増えた。

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