7/5『平成二十六年度うろな夏祭り報告書/午後九時』
楽しかった時間ほどあっという間に過ぎるもので、気づけば時間は午後八時半。もう祭りも終わる時間だ。中央公園のあちこちで手持ち花火の鮮やかな色が咲き乱れている。
八時になると、神楽子が三人分の線香花火を持ってやってきたのだが、屋台を空けるわけにはいかなかったために、八時から三十分までは香我見が、八時半から終了までは佐々木が一人で屋台をすることになった。風野紫苑は漫才が終わった後に解放している。
そんなわけで香我見は神楽子と二人で屋台後方の少し小高い丘のようなところで線香花火をしていた。
「なあ神楽子」
香我見は線香花火から視線を外さずに呼びかけた。神楽子は動かなかったが、ちゃんと聞いている。
「今日の漫才、おもろかったか?」
「うん。面白かったよ」
「そか」
その言葉を聞いて、香我見は安堵したような笑みを見せた。
「あの漫才は誰のためにやったんやったっけな」
それはあの夕暮れの防波堤にいた少女との約束とも思えたし、かわいい従妹のためとも思えたし、また別の誰かのためにも思えた。
「ちょお、香我見クーン! ボク広島焼きの作り方知らんねんけどー!」
佐々木の声が響いて、香我見はため息をつきながら、口元を緩めた。




