7/5『平成二十六年度うろな夏祭り報告書/午後四時』
腕時計で四時になったのを確認して、マイクを手にした風野はステージの横に出ていった。ステージといってもその上には大人が五人並べる程度のもので、メインのステージとは比べ物にならない。しかし、うろな工務店の若者たちに手伝ってもらったおかげであって、素人特製のチープさは無く、それなりの出来となっていた。
「さあ、みなさんお待たせいたしました」
ステージが休憩中ということもあり、この中央公園の真ん中に設けられた白いプラスチックのテーブル席から視線が集まる。事前に宣伝していたおかげで、ステージの前にも二十人ほどの観客がいて、風野は少し緊張した。
「うろな町役場企画課のお二人による漫才です! どうぞ!」
漫才番組でよく聞く音楽とともに二人が屋台の後ろから登場し、ステージに上がると拍手で迎えられた。
「どうもー、佐々木達也ですー」
「香我見遥真です」
「よろしくお願いします、っちゅうことでね。いやー、まさかこんなにお客さん来てもらえるとは思いませんでしたわ。みなさん、暇ですねー」
「失礼やなキミは」
「まあまあ、ゆうてもね、ホンマにこの暑い中来てもうてありがたいことですわ。
最近いよいよ暑うなってきて、夏も本番っちゅう感じでね」
「佐々木君はこの夏の予定とかあんの?」
「夏と言えば海っちゅうことで、今年もナンパしに行こうと思ってんねん。ほら、去年の夏は一緒にARIKAでナンパしたやん」
「仕事で行っただけやろ。しかもあんときは水鉄砲でぶっ飛ばされてたのに、懲りひんやっちゃな」
「何事も当たって砕けろやで。でも、普段からナンパに行ってもあんま成功率高ないからさあ、ちょっとここで練習させてくれへん?」
「ええよ。じゃあ俺はその辺におるライフセーバー役でいい?」
「もうちょいこっちに絡んできてや! ほな香我見クンは女の子役やって」
「任しといて」
「ちょいちょい、そこの姉ちゃん、暇ちゃいまっかー?」
「おいどんのことでごわすか?」
「なんかめちゃくちゃごついの出てきた!」
「佐々木君の趣味に合わせたつもりやってんけど」
「ちゃうからね! ボクが好きなんはどっちかゆうたら、シュッとしてるタイプやから」
「分かった。シュッとしたタイプな」
「ちょっとそこのお姉さん?」
「あらどうしたの?」
「いやあ、あんまりスタイルええもんやからつい声かけてしもたんです。スリーサイズなんぼでっか?」
「上から50,10,40です」
「ガイコツちゃうのそれ!? なに真夏のホラーにしてくれてんねん!」
「シュッとしてるやろ?」
「シュッとしすぎ! もうええわ、香我見クンはボクのナンパのサポートして」
「任しといて」
「返事だけはええな……。ちょっとそこのお姉さん、ボクらと遊びまへんかー」
「ぷよぷよとテトリス、どっちがええですか?」
「テレビゲームちゃうねん!」
「あ、花札の方やった?」
「カードゲームもやれへんねん! ここビーチやねんから、ビーチバレーとか」
「いや、ここステージやで?」
「分かってるわ! ナンパのときの話!」
「あ、そういえばこないだ面白い看板見つけてな」
「別の話せんといて!? 何回もおんなじくだりやってボク、アホと思われるやん!」
「分かった分かった。今度はちゃんとやるから」
「頼むでホンマ……。いやあお姉さん、その水着めっちゃ似合ってはりますわ」
「流線型のフォルムに白一色の配色、名前がすぐ分かるのもポイントですね」
「白いスクール水着やんなあソレ!?」
「佐々木君、好きやろ?」
「好きやけどそれ着てる女の子ナンパしたら捕まるから! ……そうや、ボクらとビーチフラッグ勝負せえへん? ボクらが負けたら海の家で昼飯奢るわ」
「佐々木君ごめん、俺今財布に二十五円しか入ってないねんけど」
「黙っとけばええねん! あ、アクセル聴いてんの? ボクも好きやねん!」
「すいません、町役場までにはどうやって行くんでしょう」
「それはアクセス!」
「この薬、飲みやすいな」
「それはカプセル!」
「アケメネス朝の王様の名前ってなんやったっけ?」
「なんで今聞くの!? もう全然ちゃうやん!」
「あのさあ佐々木君、俺思うねんけどナンパって結局んとこ、顔が全てちゃう?」
「それ言うたら終わりやろ! もうええわ」
「どうも、ありがとうございましたー!」
小藍さんの『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』から、東のビーチにある海の家ARIKAのお名前と、
寺町朱穂さんの『アクセル!-新人アイドル奮闘記!‐』から、主人公の所属するアイドルグループ、アクセルのお名前をお借りしました。
「水鉄砲でぶっ飛ばされた」のくだりは『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』の『8/8 始まりは突然に』から。




