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ばかばっかり!  作者: 弥塚泉
2014年、再びうろな町役場企画課
31/42

7/5『平成二十六年度うろな夏祭り報告書/午前十一時』

 会場設営は滞りなく進行し、夏祭りは予定通り午前十時に開催となった。

 企画課の二人の担当する屋台はお好み焼きと焼きそばとたこ焼きだ。始まってすぐに朝食代わりとして何人か買いに来たが、その後は特に来客もなく、今はステージの方で始まったサイン会をぼんやりと眺めている。

「あの人ら、なんか有名なん?」

 香我見は自分で持ち込んだかき氷器をごりごり回しながら、けだるそうな声を出した。暑さの苦手な彼が早くもグロッキー気味なこともあるが、言うほど興味がないようだ。

「『月刊うろNOW!』の作家さんたちやんか。ボクも行きたかったなあ」

 対して隣の佐々木は作家たちをよく見ようと首を伸ばしている。

「ほら、クリスマスに合コンした日花里ちゃんが仕事してるとこ」

「あー、はいはい、あの子な」

 二人とも『月刊うろNOW!』の取材記者、澤鐘日花里さわかねひかりとは面識がありメールアドレスまで交換した仲であるが、香我見はうろ覚えの様子だ。

「俺は読んだことないなあ」

 そう言って、出来上がったかき氷の山に青い液体をかけていく。クーラーボックスの中には彼が好きなブルーハワイの他にメロンとイチゴ、溺愛する従妹のためのスイカのシロップが入っている。

「いろんな人が取材受けてるから、ボクらのとこにも来るかも知れんで。流星の葛西さんとか、ピグミーの日代さんとか、渉んとこも受けたって言うてたっけ」

「ウチなんかに来るかいな。そんときは佐々木君一人で受けや。俺はたぶん熱中症で休んでるから」

「そういうサボり発言やめてや! また公務員は給料泥棒とか言われんねんから!」

 香我見は既にかき氷に夢中で、佐々木の話を聞いていない。

「どうでもええわ、そんなもん。にしても暑いなー。こんな日はさっさと……」

「こんにちはー。ハルお兄ちゃん、佐々木さん、差し入れを持ってきました」

「さっさとお客さんのお腹を幸せで満たしたいなあ佐々木君!」

「キャラ変わりすぎちゃうか!?」

 香我見をハルお兄ちゃんと呼ぶ彼女は霞橋神楽子といって、彼がこの世で最も愛している従妹である。彼女は白いワンピースを風に揺らしながら、二人が座っていた屋台の陰のパイプ椅子に腰かけた。

「ハルお兄ちゃん、今からそんなに頑張ってたら倒れちゃうよ」

「そんくらいやる気があるっちゅうことや。どした神楽子、神代子みよこと一緒やったんちゃうんか」

「みぃねえは家で浴衣と戦ってる」

 首を少し傾げて、苦笑した。

「夜までには来るって言ってたけど」

「そか。あ、兄ちゃんがかき氷作ったるわ」

「香我見クン、神楽子ちゃんだけには優しいやんな……」

「そうか? こないだ山で会った女の子にパン奢ったで」

「女の子ばっかりやん」

「こないだカナメ薬局の兄ちゃんと飲みに行ったけど」

「その優しさがなんでボクに向けへんの!? もっと労わって!」

「ほら、大事なもんほど手荒に扱うやろ? それそれ」

「フォローがすでに投げやり!」

「すみませーん」

 三人で騒いでいると、鉄板の向こうから女の子の呼ぶ声がした。時間は午前十一時になろうかというところで、そろそろ昼食の需要が緩やかに上昇してくる頃だ。

「いらっしゃいませ。何にしましょかー?」

 香我見が何か言う前に、佐々木がすかさず接客モードに入る。企画課としての仕事も三年目を迎えて、この辺りの呼吸はいよいよ磨きがかかってきているようだ。

「お好み焼き一つくーださいなっと。今年は広島風、ないの?」

「あー、まあ相方の気分しだいやな」

「今年は広島風食べたかったんだけど……ありゃ?」

 体を少し傾けて、佐々木の後ろを見る。姿は見えなくても氷を削る音は聞こえるので、気になったようだ。

「ここ、かき氷もやってるの?」

「いや、これは相方の趣味でやってんねん」

「じゃあそれもちょーだいなっ」

「だから、これは売り物とちごうて……」

 言いかけた言葉は、うるうると効果音がつきそうなくらい涙目になる女の子を前にして、蒼穹の彼方へ飛んでいった。

「香我見クン、ボクはかき氷作るから、広島焼き作って! シロップは何にしよ?」

「やたー! あたしときたら、この世で一番メロンが大好きなのです!」

 何安請け合いしとんねんとか、私も広島焼き食べたいよとか、そんな問答が屋台の向こうで行われ、数分後の少女の手には見事に広島焼きの入った透明なパックと緑色にデコレートされたかき氷が載っていた。

「ありがとーなのですっ」

「ちょお待って!」

 元気に走り去ろうとする少女を急いで呼び止める。

「かき氷の在庫はあんまないから、そのことはなるべく人に広めんといてほしいねん」

「あっ、分かりました」

「それと、四時からそこで」

 佐々木は右手を上げて、屋台の隣を示した。そこには今朝、工務店の中でもノリのいい若者たちとこっそり作ったお立ち台ミニステージが置いてある。

「俺らが漫才するから、よかったら見に来てな」

「そうなんですか! 楽しみにしてますっ」

 たたたっと今度こそ駆けていく。

「で、結局こうなんねんなあ」

 一方香我見は一人でお好み焼きと広島焼きと焼きそばとたこ焼きを作っていた。

「兄ちゃん、広島焼き二つとお好み焼き四つくれ!」

「おおきに! そっちの姉ちゃん、たこ焼き三つと広島焼きできたで! 四時から漫才やるから、見に来てな!」

「香我見っち、何やってるんですか?」

 そこに何も知らない助っ人、風野紫苑がのほほんとやってくる。

「ええとこに来たな、風野。食券のとこに列ができたから、ちょうどもうすぐ忙しくなるとこやってん」

 香我見は頭上に広がる青空のような爽やかな笑顔を見せた。

「俺らはお好み焼きやるから、お前は焼きそばとたこ焼き頼むで」

「今年もですかあああああ!?」

そんなわけで、今まで出会った人に来てくださった場合には、企画課からかき氷をプレゼント!


来年やることがあれば、かき氷をメニューに加えてもらってもいいかもしれませんね(笑)

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