6/27『うろな夏祭りステージの有志参加申込書』
うろな町役場企画課。
今日も彼らは各部署からの雑務を片手間に、資料室の片隅でうろな町をより良くするための企画会議を行っている。しかし毎年この時期は間近に迫ったあるイベントのために頭を悩ませるというのが半ば恒例行事のようになっていて……。
「はあ!? 今度の夏祭りで漫才やるやてぇ?」
「そう。佐々木君、得意やろ?」
いつもはキーボードを叩きながらパソコン越しに会話している二人だが、今日は仲良く色違いの甚平に針を通しながら話をしている。これは夏祭りで彼らが使う服で、目立ちたがりな彼らがわざわざ自分たちで用意しているものだ。
「何を根拠にそんなこと言うてんの……?」
「なんか、見た目がそんな感じやん」
「それがホンマやったらボク、今すぐ鏡見に行きたいねんけど」
「っていうか、もう申込書は出してきたから漫才やることは決まってんねん」
そこで言葉を切って、香我見は糸を噛み切った。彼の着る甚平は裾の生地が黒の青い甚平で、去年と同じく背中に赤い布でうろな、と縫い付けているところだ。
「だから漫才のネタ作ろうや」
「まあええけどな、オモロそうやし」
佐々木はぱっと破顔して、再び自分の作業に戻る。彼の甚平は香我見と同じ黒い縁取りだが、赤いので背中のうろなの文字は青い生地で縫い付けることになっている。
「せやけど、漫才か。香我見クンはお笑いとか見んの?」
「正月にやってるのくらいやな。佐々木君は?」
「結構見るで。しかも、実は中学んときの文化祭で友達と漫才やったから、多少知ってんねん」
「なんや、やっぱり漫才得意なんやん」
「ゆうてその一回だけやから、あんまり頼りにされても困るけど……。まあ簡単に漫才やろうっちゅうたらコント仕立てにしたらええんちゃう?」
佐々木は言いながらホワイトボードを手近に引っ張ってくる。
「例えばボクが店やりたいって言い出して、それのシミュレーションするとか」
「ふーん。佐々木君、なんかやりたいことある?」
「店で言うたらアニマチオンやな。こないだみたいに声優さん呼ぶとき、サインとかもらうわ絶対」
ホワイトボードの一番上にアニマチオンの店長、と書かれる。アニマチオンというのはうろな町に唯一存在するアニメショップだ。佐々木は主に通販を利用するので行くことは少ないが、店頭特典などのために足を運ぶこともある。
「職権濫用やないか」
「そうそう、そうやってツッコミ入れながら進めていって、オチつけて終わりや」
佐々木は完全に甚平をほったらかして、喋りながらホワイトボードの隅にデフォルメした女の子の絵を描いている。佐々木にしても香我見にしても、何か一つのことだけに集中するということができない人間なのだ。
「あかん、俺がやりたいことって言ったら神楽子と出かけることしかない」
「このシスコンは……。ほな、せっかくボクら企画課なんやし、やりたい企画で攻めていったら」
「俺と神楽子のために一日だけ町の施設全部タダになるとか?」
「また神楽子ちゃんやん! 一回神楽子ちゃんから離れて!」
「それは無理や」
「仮定の話でも!?」
「そんなことよりネタ作らな。佐々木君、ふざけてる場合ちゃうで」
「香我見クンはそれで真面目やからかなわんねんなぁ」
仕切りなおそうとしたとき、ドアの開く音がした。
「すいませーん」
間延びした挨拶とともに本棚からひょっこり顔を出したのは風野紫苑だった。
「センパイたち、珍しく仕事をサボって何をやってるんですか?」
何か資料を探しに来たらしく、二人の方へはちらっとホワイトボードを眺めただけで、本棚に向かって視線を流し始める。
「これも仕事のうちやねんって! かくかくしかじかで……」
「なるほど、夏祭りでやる漫才のネタを考えてたんですか」
「よお分かったな。絶対お前知ってたやろ」
「うーん……ていうか、ですね」
投げやりな香我見のツッコミに、しかし風野は答えず代わりに苦笑いを浮かべながらこう言った。
「センパイたちがネタを考えるということがすでに一つのギャグですよね」
皮肉にも似た彼女の指摘に、二人は顔を見合わせて首を傾げる。彼らはある意味、天然ボケといわれる人間だった。
山田さんの『アニマチオン・うろな町店』から、アニマチオンのお名前をお借りしました。
どうも、弥塚泉です。
うろな夏祭りに向けて、準備中。
今年のうろな夏祭りは七月五日です。ぜひお越しください。
『ばかばっかり!』は当日の午前八時からやってます。




