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ばかばっかり!  作者: 弥塚泉
2013年、うろな町役場企画課
24/42

12/6『うろな町を盛り上げる企画(仮) No.22』

 うろな町役場企画課。

 普段彼らは各部署からの雑務を片手間に、資料室の片隅でうろな町をより良くするための企画会議を行っている。しかし一年前の今頃は町民のそれはもちろん、役場の職員にすら知名度が低く、彼らの関係も今とは違っていたようで……。

「香我見君、そういえばオレの言ってた企画、考えてくれた?」

「ああ、あれならもったいないので裏面を僕のメモ用紙として使わせていただいてます」

 徳島雄一によって作られた企画課だったが、用意できたデスクは資料室の片隅で、課長の徳島自身もまだまだうろな町に人を呼び込む企画の方にかかりきりで帰ってこない。彼らはまだまだ企画という仕事にすら手探りの状態だった。

「ひどっ! ていうか何回も言うけどさあ」

「同い年とはいえ、初対面の相手に敬語を使うのは当然でしょう」

「会ってから三ヶ月も経ってる相手を初対面とは言わないよ!」

 それよりも問題なのは彼らの関係で、佐々木達也の方は何かと話しかけるのに対して香我見遥真の方は未だによそよそしい態度のままだった。佐々木としてはもう少し砕けた態度になってほしかったが、香我見は佐々木の何らかを気に入らないらしい。しかし仕事には支障がないため、下手に会話を促すこともできないでいた。




「そういえば香我見君、趣味はなんなの? オレはゲームなんだけど」

「僕は釣りが趣味です。この町ではまだできていませんが」

 企画を立てることについては手探りの彼らだが、各部署からもらってくる雑務についてはすでに片手間でこなせる。初めのうちは仕事に集中することを理由に雑談を拒否していた香我見だったが、佐々木はあっという間にキーボードを叩きながら喋り出し、今では仕方なく会話を成立させている。仕事に支障が出ないことで文句を言えないのはお互い様だった。

「ゲームというのはどんなものをされるんですか?」

「えっと……女の子の心を撃ち抜くシューティングゲームかな」

 資料室はしばし沈黙に満たされ、佐々木は心の中で思った。何一つごまかせていない。

「か、香我見君、釣りが好きってことはやっぱ魚が好きなんだ?」

「ええ」

「オレも好きだよ。ブリとかハマチとか」

「それは両方同じ魚です」




「香我見君は彼女とか作らないの?」

「別に」

 なにせ佐々木は香我見と出会ってから毎日話している。ときには女性関係の話にもなることがあるが、一向に乗ってこない香我見にある疑念が生じた。

「あのさ……香我見君ってもしかしてそっち系の人?」

「違います」

 恐る恐る聞いてきた佐々木にさすがの香我見も少し憮然として答える。

「よかった。もしそうだったら密室に二人っきりのこの状況ってかなり危ないもんね」

「仮にそうだったとしても佐々木さんは僕の美意識に反する顔をしているので安心してください」

「ひどくね?」




「ちょっと香我見君」

「嫌です」

「仕事だって。近所の保育所でやる運動会のポスター書いてるんだけど」

「ええ」

「デザインがいっぱいあった方がいいっていうことだから、香我見君も書いてよ」

「僕も仕事があるんですけど」

「そっちはオレがやるから。はい紙と色鉛筆」

「それなら書類整理と連絡担当に分けた意味がなくなると思いますが」

 ぶつぶつ文句を言いながらも結局色鉛筆を握る香我見。しかしやることが変わっても佐々木の口は止まらない。

「こういうのって学生の時に経験があると違うよね。部活とかやってた?」

「中高は陸上部でした。大学は適当にいろいろ」

「モテた?」

「普通だと思いますよ」

「ホントに? オレ、バンド組んでたんだけど全然だったよ」

「選曲が悪かったんじゃないんですか。君とか寂しいとか歌ってないとだめなんですよ」

「それは酷い偏見だと思うけど……」

「はい、できましたよ。ポスター」

「おおっ、これは見事な……ねずみ」

「子供です」




 またある朝、香我見が資料室に入ると佐々木は新たな試みを行っていた。

「おはようさん。香我見クン」

「おはようございます。……どうしたんですか?」

「何が?」

「イントネーションが変ですよ」

「実はオレ、関西人やねん。大阪と千葉のハーフ」

「またくだらないことを思いついたんですね。つい昨日まで標準語だったでしょう」

「香我見クン、大阪出身やったやろ? だからオレも関西弁の方が喋りやすいんちゃうかと思うてな」

 わざとらしくため息をつきながら席に着く香我見に、笑って返す佐々木だった。

「他人のことを心配するより自分のやりたいことをしたらどうですか」

 そしてちらりと佐々木に向けられた香我見の瞳は一段と冷たい光を帯びていた。

「この間言ってたゲーム、どこまで進みました?」

「ああ、『D.S.』な。あれやったらクリアしたわ。もう二週間も前やねんから」

「じゃあ宮村和葉の隠れた趣味はなんでした?」

「え? えっと……」

「直井恵美が生徒会長をやっていた理由は?」

「か、香我見クン……?」

 宮村和葉も直井恵美も『D.S.』のヒロインの名前だ。しかしなぜいきなり香我見がそんなことを言い出したのか分からない。そう戸惑ったような顔をしていた佐々木を香我見は見透かすような目で見ていた。

「やってないんでしょう。この町の人たちのための企画を山ほど立てて、その上僕のような人間に構っているんですから。自分のことを犠牲にしてまで、そんなことをしていて楽しいですか?」

「…………楽しいで」

 辛辣な香我見の言葉にもいつもと同じ笑顔で佐々木は答えた。

「オレ、みんなが笑ってるの見んの好きやから。香我見クンは何勘違いしてんのか知らんけど、オレは犠牲になってるとは思わへん。楽しいことしよ思たらどっかで嫌なことせなあかんのはしゃあないことや。みんなが笑うてくれるんやったら、オレの苦労もチャラになるわ」

 その言葉に香我見はしばし呆れたような、諦めたような顔でいて、最後に一つ今度は本当のため息をついた。

「分かった」

「ん?」

「君のアホさ加減には負けたわ。あと、そのヘタクソな関西弁にも」

「えぇ? そんな変かなあ?」

 佐々木は苦笑した。

「だから交換しよ。今日から俺はちょっとずつ君の考え方を真似する。みんなの笑てる顔を見れたら満足とかいうばかみたいな考え方を君の代わりにやったるわ」

「そんでオレは香我見クンを見習えってことやな。オレのやりたいことをやれと」

「もう二度とそんな気色悪いカオ見せんといてな」

「生まれつきこんな顔や!」




 その後に二人が作った企画書、『ドキッ! ミニスカサンタだらけのプレゼント大会』を町長に提出しようとしたのだが途中の廊下で秋原に遭遇し、これから幾度となく受けることになる、ある意味で記念すべき一回目の説教を受けた。

執筆中、不意に作品のテーマを思いだしてシリアスぶん投げ。

いろんな事がありましたけど、企画課は見た目いつも通りで。



シュウさんの『うろな町』発展記録から、先代町長と秋原さんを名前だけお借りしました。


修正点がありましたら、お手数ですが感想メッセージ活動報告コメント等々でお知らせください。

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