10/31『資料室の使用環境を著しく損ねたことについての反省文』
うろな町役場企画課。
今日も彼らは各部署からの雑務を片手間に、資料室の片隅でうろな町をより良くするための企画会議を行っている。のだが、今日はそれどころではないようで……。
「ていうか、いつもなにクールぶってんの? みんな人見知りは絡みづらいやろうなあ!」
「あーあ、そろそろこっから出てってくれます? やかましい同僚がおったら気が散ってしゃあないんですけれども?」
「なんなんですかこれは……」
資料室にやってきた風野は飛び交う罵声に一瞬場所を間違えたかと思った。しかしここは間違いなく資料室で、企画課が仕事場としている場所である。
今日は一日中こんな調子らしく、資料室に入った人間はすべからく気まずい心持ちを強いられ、ついに本日十二人目の入室者から苦情が来たのだ。なぜ風野のところかといえば、企画課の二人を何とかできそうなのは町長と秋原を除けば彼女くらいだからだ。その二人は手が放せないというわけで、無茶を振られた彼女はさらに別の人間に依頼を持っていった。町民はもとより町役場の職員にすら存在を忘れられているが、一番彼らを収めるのに相応しい人間のところへと。
「香我見君と佐々木君が喧嘩してる?」
彼は毎日仕事に都合のいい場所の机を借りるので、なかなか捕まらない。今日は住民課の片隅で老眼鏡をかけて、何かの書類を確認していた。
「はい。他の人が止めようにも、怖いみたいで」
「ああ、荒い関西弁は慣れてないとちょっと怖く聞こえるよね。じゃあちょっと行ってみるよ。といっても、今まで彼らが私の言うことを聞いたことなんてただの一回しかないんだから、あまり期待しないでね」
人の良さそうな笑顔に、誠実そうなスーツ姿。香我見と佐々木は正反対だが、彼はまたその二人ともと真逆の人種である。
「そんな。いくらあの二人でも課長の言うことなら大丈夫です」
彼の名前は徳島雄一。いつもふざけている部下二人とは正反対でとても真面目な、うろな町役場企画課の課長である。
「香我見クンの人見知りとは違うてボクのこれは人を楽しませてんねん!」
「おるよなあ、自分が楽しかったら他人も楽しいみたいに言う奴。そういうの、ブリとハマチの区別もつかん奴と同じくらい嫌いやわ」
風野は資料室に一歩入ったところで思わず立ち止まった。佐々木は初対面の人間に対しても愛想がいいし、香我見も最近は町民と仲良く雑談しているところを見る。それなのに、普段仲のいい二人がこんな風に喧嘩しているというのは、酷く居心地が悪い。きっとほかの職員もそれを感じて何とかしてほしいと思ったのだろう。しかし、隣にいた徳島の感想は違った。なんだ、それほどでもないね。そう言ったのだ。風野は信じられないような思いで問い返す。
「この喧嘩が、ですか」
「まあ、やっぱり聞いて気分のいいものではないけどね」
そう言って徳島は手を鳴らしながら二人の間に割って入った。
「はい、はい。そこまでにしなよ。資料室に用のあるみんなが困ってるんだ」
「やかましいハゲ!」
「環境管理課に植林してもらえ!」
「人のコンプレックス刺激するのやめてくれない!?」
徳島が集中攻撃される形で事態が収束するのを見ながら、やっぱり企画課は分からないところだという認識を深めた風野だった。
「で、結局喧嘩の理由は何だったんですか?」
「佐々木君が仕事サボってハロウィンパーティに行こうとしたからです」




