肝試し/九組目
最後の組となったのは海の家ARIKAの海女担当、青空渚とプラチナブロンドの髪を持つエキゾチックガール、日生芹香に如月澪とまったく同じ容姿をしている少女、ルナを加えた三人となった。
「んー、レイと一緒に肝試ししたかったけど、しょうがないか。よろしくね二人とも!」
「…………よろしく」
「よろしく、おねーさんたち! さあ、行くわよ!」
初対面の挨拶を比較的あっさり済ませた三人は意気揚々と懐中電灯を奪った芹香を先頭にして山の中に入っていった。ルナはその隣できょろきょろと興味深そうに周りを見回しており、渚はただ黙ってその後ろをついていっている。
「どうかしたの?」
これから何が出てくるんだろうかと興奮気味に話している二人に対し、渚が最初に一言しゃべって以降、黙っていることがルナには気になったのだ。
「…………別に」
言葉少なな態度は怒りや嫌悪からではない。感情を表に出すのが苦手な渚だから初対面の人間に勘違いされることも多いのだが、そこは人懐っこいルナのことだから彼女の返事を正しく受け取った。
「そうなの? じゃあこっちにきなよー」
「あ、ちょっ…………」
ルナは渚の手を引くと、自分と芹香の間に引きこんだ。
「さ、行こ!」
ぐいっと手を引っ張ったので若干走り気味になり、芹香もそれにつられて小走りになった。だが、数歩もいかないうちに彼女たちは足を止めてしまった。
「なに……これ……?」
芹香の問いに答えられるものはいない。彼女たちが先ほどまで歩いていた土の感触は不意になくなり、足元が何かぐにゃりとした感触に包まれてしまったのだ。
「ひっ」
芹香は不快な感触に言葉を失くす一方、渚は小さな悲鳴をあげ、ルナは……。
「うわー、なにこれ! おもしろーい!」
嬉々として歩みを進めていく。それだけならまだいいが渚と手をつないだままなので、なんとか悲鳴をあげる不名誉を逃れているような状態の渚は気が気でなく、芹香は芹香でおいてけぼりになるのを防ぐために涙目で足を進めるという、仕掛け人の想像以上にルナ以外はガッツリ精神を疲労するイベントとなった。
ちなみにぐにゃぐにゃの正体は先ほどの不可思議化学物質を詰めた巨大ビニール袋である。誰かがヒールでも履いていればこれは撤去する予定だったが、三人ともサンダルだったので、めでたく採用となったわけだ。
散々な目にあった二人だったが、ルナがお札を取る頃にはなんとか平静を取り戻していた。
「えへへ、なんかこれ仲良しみたいでいいね」
そしてその帰り道、芹香と渚はルナをはさんで彼女と手をつないで歩いている。誰かの手を握りたかったというのもあったが、ルナの暴走を許さないようにというのが主な目的だ。
「あ」
両脇の二人は極力周りを見ないようにしていたので、それに気付いたのはルナが最初だった。
「ねえ、ほらあれ見て」
「何よルナおねえ……ひっ!?」
めんどくさそうに目をあげた芹香の目に映ったのは行く手にゆらりと立ちはだかる人影だった。
「あっはっは、心配しないでセリちゃん、ナギちゃん。実はレイに聞いちゃったんだー。あれは人形だよ」
「え?」
その言葉に、声は出さずともつないだ手の震えは隠せなかった渚もキョトンとした顔でルナを見つめ、人影のもとへと歩いていき、その正体を確かめることになっている。
「ホントだ……」
「…………よくできてる」
顔にかかる長い髪でどうやら女性らしいということしかわからなかったが、素人目にはまるで生きている人形の様に精巧に作られていた。
「レイってば怖がって全部話してくれちゃうんだもん。こういうのは知らない方が面白いのになー。そして後ろに……」
にやりとしてルナが後ろを振り向くと髪の長い白装束の女がこちらへ向かってくるところだった。
「わ、わ、わ……」
「……………………」
芹香と渚はこの展開を知らないので相当肝を冷やしているようだ。たとえ知らなくても私は怖がらなかっただろうけどね。そうしてルナはのんきに佐々木の特殊メイクの精緻さを眺めていたが、次の瞬間、彼女の首筋をひやりとした感覚が駆け抜けた。
「え、え…………?」
ぎしぎしとしなる首をゆっくり後ろに向けると、爪の剥がれた指で彼女の肩を男の様な握力で万力のように掴みながら、歯の欠けた口を三日月に裂いて笑う女の顔が間近にあった。
「きゃ、きゃああああああああああああああ!!!!!!」
無事、肝試しを終了した企画課たちはひとまずお互いを労っていた。まだ後片付けが残っているが、都合の悪いことは直前まで考えようとしないのが彼らである。
「いやーどうなることか思たけど、無事に終わってよかったわ」
「まさか途中で脅かし用のネタ切れるとは思わんかったけどな。ホンマ、いろいろ助けに来てくれはったみんなには感謝せんと」
「あ、それから最後の演技なかなかうまかったですやん。おおきに」
そう、あの最後のとき、佐々木は参加者の後ろにいて、香我見は特殊効果を担当していた。あれは五組目終了時にてすでにネタが切れていた二人が切り札として呼んでおいた助っ人その四である。
「まったく、休みの日に急に呼び出されたかと思えばまさか幽霊をやらされるとは……」
「そのおかげでボクらが助かったんですやん」
「それに、町民のためになった思うたら本望でしょ?」
香我見のからかうような笑みを見て、彼は未だ興奮冷めやらぬ様子の広場の方へ視線を向ける。
そうして結局。
「まあ、いいか」
その一言で許すことになってしまう町長だった。
こんばんは。弥塚泉です。
リアルタイムで読んでくださっている方がいて、ちょっと泣きそう。
まとめて読んでくださった方もありがとうございました。
いただいたお時間の分楽しんでいただけていればいいなあ、と思います。
9/3,追記。
遅ればせながらお借りした方々のご紹介をさせていただきます。
まずは参加者の方々。
シュウさんの『文芸部へようこそ』から、高城部長、香月さん、綾瀬くん。
YLさんの『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』から、清水先生、梅原先生、小林果穂先生、小林拓人先生、果菜ちゃん、美果ちゃん。
寺町 朱穂さんの『人間どもに不幸を!』から、奏ちゃん、吉祥寺くん。
桜月りまさんの『うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話』から、雪姫ちゃん。
小藍さんの『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』から、海ちゃん、渚ちゃん。
三衣 千月さんの『うろなの小さな夏休み』から、ユウキくん、タツキくん、ダイサクくん、シンヤくん。
とにあさんの『URONA・あ・らかると』から、隆維くん、涼維くん、セリちゃん、天音ちゃん。
*天燕*さんの『精霊憑きの新天地?』から、レイくん、ルナちゃん。
綺羅ケンイチさんの『うろな町、六等星のビストロ』から、葛西さん、須藤さん、一条さん。
続いて企画課の助っ人に来ていただいた方々。
桜月りまさんの『うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話』から、タカさん。
シュウさんの『うろな町』発展記録から、榊さん、町長。
そして名前だけの登場になりますが、
YLさんの『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』から、直澄さん。
寺町 朱穂さんの『人間どもに不幸を!』から、タカトくん。
以上の方々をこの肝試し編にお借りしました。




