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ばかばっかり!  作者: 弥塚泉
2013年、うろな町役場企画課
13/42

肝試し/三組目

 二組目が最後まで仕掛けを消化しきったので三組目はそれとは違うルート、くの字型のカーブを描く平坦な道を進むことになった。森の中であるため、引き続き草むらや木の陰が主な注意点となる。

「ふっ、ついに俺の千里眼サウザンドサイトを使うときが来たようだな」

 そんな肝試しに挑むのは邪気眼系中二病患者の高校生、香月。

「さうざんどさいとって何ですか?」

 オカルト大好き妹系中学生、山辺天音。

「えっと、僕にもわからない……」

 ビストロ『流星』の店長にしてうろなの人気料理人、葛西拓也。

 懐中電灯を持った香月が先陣を切り、その傍らで目をきらきらさせている天音にその後ろで彼女たちを見守る葛西という、図らずも一組目と同じ布陣となっている。

 そうして歩いていくうち、周囲を木々に囲まれてちょうどあたりが真っ暗になった頃。

「ひっ」

 唐突な破裂音が聞こえ始めた。一回ではなく、間隔を空けて二回、三回と鳴る。

「これは……」

「いわゆるラップ音というやつですね」

 声は出さないものの音が鳴るたびに肩が跳ねる香月はともかく、他の二人はさほど動じない。オカルトに詳しい天音にしてみればありきたりな脅かしだし、葛西は何か音が鳴ってるなあくらいにしか思っていないからだ。

「な、なあ。なんか聞こえない?」

 開始三分にしてキャラを忘れた香月が震えた声を出す。

「いやさあ違うと思うんだけどさ? 俺の勘違いだと思うんだけれども、これってなんか……」

「彩菜ちゃんがイチゴソースと間違えてハバネロかけたケーキ食べた時の声みたいだね」

「呻き声だろ女の! ああっ認めちまったじゃねえか!」

 明かりを持つ香月が足を止めてしまうと三人ともその場に留まることになる。彼らを威圧するような重苦しい雰囲気の中、草むらでぱきっ、と枝の折れる音がした。

「誰だっ!」

「はぶっ」

 が、その過程で香月が勢いよく懐中電灯を横に向けたため、天音の顔面を強打してしまうという不幸な事故が発生してしまう。

「お、女の子の顔をぶつなんて、責任取れるんですか」

「任せろ!」

 親指をぐっとあげて爽やかに笑ってみせる香月に、天音は顔を伏せた。

「あ、ごめんなさい。やっぱりいいです」

「ちょっおま、今顔で判断しただろ!」

「してません。あなたの人間性で判断しました」

「それでフォローしたつもりか天音ちゃん! 余計傷口抉られたよ!」

「あの……女の人の呻き声は……?」

 ひとまずそんな雰囲気ではなくなったので幽霊も帰ったようである。

 その後は仕掛けもなく、香月も先ほどのやりとりで元気とキャラを取り戻して無事に祠からお札を取ることができ、思ったほど怖くなかったな、などと言いながら歩いていた帰り道。折しも往路で立ち止まった場所に差しかかったときにそれは起こった。不気味な音楽が鳴り始めたのだ。それ自体はお化け屋敷などでよく耳にするものだが、それだけに耳にするだけで体が勝手に身構えてしまう。何か怖いものが身に迫っていると。

「ひゅーどろどろ来た! めっちゃひゅーどろどろいってるよ!」

 やはりこれが効果的なのは香月のような怖がりで、天音と葛西は雰囲気出てきたなあとぼんやり思っている。

「来るぞ来るぞ、すぐ来るぞ。なんかが来るぞぉ……。」

 香月はそのうちにぶつぶつ呟き始めた。心の準備をしたいらしい。そのまま歩くことしばらく。

<きゃはははははははは!!!!>

「うわあっ! びっくりした! びっくりしたぁ……」

<きゃああああああああ!!!!>

「あああああっあーびっくりした! めっちゃびっくりした!」

 女の高笑いや悲鳴など、様々な音響効果で脅かしにかかってきたが、もちろん香月しか怖がらなかった。

 広場の明かりがぼんやり見えてきてそろそろ終わりというとき、二組目の雪姫ショックから立ち直った佐々木が再び後ろから迫っていた。今度はこんにゃくを首筋にあてて驚かせるだけのつもりで、その後は草むらに駆け込むことになっている。姿を見られるつもりはないが、念のためということで何を思ったか全身銀色の宇宙人の変装をしている。狙うは同じく前方を歩く二人の後ろに一人でいる男性だ。一歩、二歩と近づき、こんにゃくで彼の首筋に触れた。その瞬間、

「こらっ!」

「へ?」

 風のように振り向いた彼に佐々木の手首が掴まれていた。

「ダメじゃないか、食べ物を粗末にしちゃ!」

「え、あ、すんません」

「怖がらせるならほかに方法があるだろ?」

「いや、一応水で洗ったら後で自分らで食べよ思てたんで大丈夫かなと……」

「ダメダメ! なら僕がきちんと料理するから、後日ちゃんと店まで来ること!」

「はい、わかりました……」

 いつの間にか完成していた、正座の宇宙人に対して指を振って説教する青年という奇妙な図をうち止めたのは天音だった。

「あ、あの……あなたはもしかして宇宙人ですか」

 期待するような少女の表情を見て、その場にいた男たちの思いは一つになり、その代表として佐々木が立ち上がる。

「見られてしもうたんやな……僕はM78星雲からやってきたんや。こっそり地球に来ていろいろ観察するつもりやったんやけど、この姿を見られてしもうたらもう帰らなあかん」

「そんな、私のせいで……」

 俯く天音の頬に手を当て、そっと顔を上げた。

「君のせいとちゃうよ。それに、最後に地球人と……君と話せて良かった」

 天音は思いきった様子で手を差し出す。

「握手、してください……」

 力強い握手を交わし、佐々木は去っていき、一人の少女のささやかな思い出となった。

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