肝試し/一組目
一組目の布陣は懐中電灯を持った高城が先頭、それに張り合うように横に並ぶユウキ、そんな二人の後を保護者のようについていく清水、となっていた。彼らが進むルートは体力的に楽な曲がりくねっているだけの平坦な道ということもあって、会話が弾んでいた。まして今は直線の道を歩いている。草むらの茂みから、木の陰から、何かが出てくるかもしれない不安を会話することで打ち消したいのかもしれなかった。
「だいたい私はこの催し自体懐疑的なのだよ。幽霊などというのは科学がまだ未発達だった時代に語られる御伽噺であって、実在するわけがないのだから。今回は綾瀬がどうしてもというから大変不本意ながら部長としての彼への監督責任を果たすために仕方なく、しょうがなく来ただけなのだ」
「お、俺もそうだぜ。ユウレイなんかいるわけねーよ。ダイサクがどうしてもって言うからさー」
「ユウキ君はともかく、高城さんは懐中電灯の明かりが震えまくってるんだけど」
「はっ!?」
清水の何気ない声にも肩を震わせて前方を確認する高城。どうやら電灯で照らした先から当の本人は目を逸らしていたらしい。
「こ、これは視界を広げるためだ。視界を固定していては予期せぬ方向からの襲撃を受けかねないからな」
「ん? 幽霊はいないんじゃなかったのか?」
「ねーちゃん……」
からかうような視線と疑うような視線を浴び、沈黙すること一拍。
「幽霊はいないが、主催者の脅かしはあるだろう。私が警戒しているのはそれだ」
「へえ、例えばどんなのだ?」
「そうだな。ほら、向こうに明かりが見えるだろう? まるで……まる、で……」
「ひっ、人魂じゃねえのかよあれ!?」
高城の指さす彼らの行く手には青白い炎をあげて燃える物体が宙に浮いていた。
「おおおお落ち着け、人魂などあああるわけないあるわけない」
「まあまあ、とにかく確かめてみようじゃないか。きっと佐々木君たちの仕掛けだよ」
「お前はもっと焦れ!」
騒ぐ二人をなだめてすかしてなんとか人魂らしきもののもとにたどり着いた清水はその正体をすぐに看破した。
「へえ、ホウ素を燃やしていたのか。なかなか粋だな」
「わ、わかってたし。ただの火だって知ってたし」
「幽霊の正体見たり枯れ尾花、という奴だ。だから私は最初から言っていただろう。所詮幽霊など非科学世界の遺産なのだよ」
清水の後ろから意気揚々元気を取り戻したのもつかの間、一行の背後からかすれたような声が聞こえてくる。
「な、なんか聞こえね? 女の人の声みたいな……」
「風の音だよユウキ君。ドイツのある谷を風が吹き抜けるときにはその特徴的な形状によって女の悲鳴に聞こえたりする。恐らくはこの森の木々の配置がそれと似たようなひっ!?」
「ななななななんか首の後ろに冷たい、ててててて手みたいなのががががが」
「ききききき奇遇だなユウキ君実は私も最前からくくく首筋に奇妙な感触を感じていてそうだな例えるならば」
高城の悲鳴に振り向いた清水が一言。
「お前たち、後ろにいる髪の長い女性は知り合いか?」
悲鳴をあげながら脱兎のごとく引き返していった二人を見送りながら清水は苦笑した。
「まさかこんなに効くとは思わなかったなあ。ちょっとからかいすぎたか」
「からかいすぎたか、やのうて帰ってしもたがな! まだ全然肝試してへんのに!」
黒い長髪のカツラ、通称サダコウィッグを振り回して抗議するのは肝試し委員会実行係の佐々木だ。白い着流しを着て靴は履かず、拙いが指先には爪の剥がれたような特殊な装飾も施している。
ちなみに香我見は肝試し委員会特殊効果係として待機しており、先ほどの火の仕掛けや女性の呻き声などは彼によるものだ。
「ていうかとどめ刺したんが脅かし役やのうて参加者ってどういうことやねん。自信なくすわ」
「よくできてるなあ。このコスプレ。直澄の奴でもここまではできないぞ」
「さっさと札持って帰れー!」
清水はささやかな復讐に心の中でこっそり舌を出してゆうゆうと広場に戻ったのだった。




