そして、オチ
何もわからないので完結です。巻いていきます。
「そういうわけでデデリ王国の都城に来たよ。ここで半夢魔ハルシャハブを引いていなければ、郊外から巨人の弓による超遠隔射撃をかいくぐりつつ接近するパートが必要になった。彼女の力能【茸十字の瞳】による幸運強化が効いたわけだ」
「はーい【茸十字の瞳】でーす。私こと半夢魔ハルシャハブの海兵風フォームでは、吉兆である十字茸の伝承を引いて幸運を呼べます。」
ちょうど気になっており、助かった。
解説してもらった内容にさらによく分からない用語が入ってくるのは、聞き流しておくことにした。
「以前来たときはお祭りだったんですよね。そう考えると単純に比較できないとしても、何か寂れているように感じます。こんなだから私の里を襲撃するに至ったのでしょうか」
巫女ラチャラチーが興味深く街を観察していた。
「さてね。役割を分けよう。私がハルシャハブとともに空の衣のレバイエというのを倒しに行く。ラチャラチーは岩のやつ、ミコトくんはスライムのやつだ」
「そんな大雑把に分散して戦って大丈夫なんですか」
「大丈夫だよ」
大丈夫らしい。信じることにした。
その結果、今に至る。
スライムのやつことフラーブルをブッ飛ばしに行く道すがら、俺は勇者とかいう男と出くわしていた。
「私は勇者トヴィシュトフ」
再会するまで忘れていたとは情けない話だ。俺は以前こいつにナルナナナヤン短刀を奪われ、まやかしの類の術を受けていた。
「あのデザインがダサいナイフは使ってくれているのか?」
「なかなか便利だ。その節は失礼した。今回は協力しよう、第三思考器官の記憶継承者よ」
そしてこいつこそ、俺の過去を勝手に捏造してくるやつ一号だった。不快なだけで特に害はないと思うので、放っておく。
とにかく勇者というのが共に戦ってくれるなら頼りになろう。
「フラーブルなら多分これが一番早い」
彼が伸縮する刃ナルナナナヤンを振ると、城の尖塔が斜めに切れて落ちてゆく。なるほど頼りになる。
さらに、落ちてゆく尖塔に雷が直撃する。あれは電電先生だろうか。さっきから嵐のような雨が降ったり雲がすべて吹き飛んだりと、派手に天気が移り変わっているのだ。どういう戦いだよ。
「あの落ちた地点にいるはずだグエッ!?」
「勇者さん!?」
頼りになるところを見せたばかりの勇者が、突き飛ばされた。
「久しぶりだな」
突き飛ばしたのは野性味あふれる大男だった。礼服に身を包むその男こそは、忘れもしない。
「誰だっけ?」
こんな知り合いいたっけ。
「おい! 俺だ! 元・人狼のリーコだぞ。お前は元はと言えば俺が求める最強の男というイメージから作り出されたというのに」
懐かしい。そんなやついたな。そしてこいつも俺の過去をでっち上げてくるらしい。いい加減にしてほしい。だんだん腹が立ってきた。
「そうか。今の俺はウサギ・メイドをやっているんでな。わかるか? やんちゃな犬を躾けるのもメイドの仕事なのだ」
俺はそう言ってスカート右側の編み紐をほどく。脚の可動域がほしい時にほどくことができるようにしてあるのだ。使うことはそうそうない。
「ほざけ!」
猛るリーコをなんとかくだし、組み敷いて肘を固めた。
「口ほどにもなかったな」
正直なことを言えば非常に苦しい戦いだった。もうダメかと思ったことも一度や二度ではない。幸運の勝利とすら言える。それでも、幸運だろうが勝利は勝利だ。
「再戦を望むなら、あっちのメタルスライムを倒してみせろ」
「ふむ。このフラーブルと戦う準備ができたと見ていいのかな」
一応今回の目標となっている、人型スライムのフラーブルである。律儀に待ってくれていた。悪い人ではないのだ。
「任せろ」
「任せた」
そしてリーコと敵手を置いて俺は城へと走る。相変わらず空は一瞬ごとに雨、雪、快晴とめまぐるしい。電電先生はたぶん大丈夫なので、巫女ラチャラチーの方へ加勢しよう。
「スライム拳法奥義を喰らえッ」
「ゲホッ! やられたッ」
瞬殺ではないか。何が任せろだよ。
先の戦いでボコボコにした俺のせいでもある。スライムに追われつつ城の中を走る。道が分かりづらいな。軍事防衛施設かよ。軍事防衛施設だった。
「止まれ! 逃げてもムダだぞミコト・ヒシュマーシュ我が弟よ」
こいつも俺のルーツをなんか言ってくる系かよ。あと逃げてもムダなら止まらせる必要はない気がする。
道を間違えながらも、幸運にも兵士などに会うことはなく、巫女ラチャラチーが戦っているであろう場所へたどり着いた。
「加勢だ!」
ラチャラチーは土塊を踏みしだいていた。これもう敵倒しちゃったのかな。
「加勢ですか。構いませんよ」
すっかり俺が対処しきれない敵を引っ張ってきた構図になっていた。すまない。
「以前その方には手も足も出なかったので、対策を講じていたのです」
ラチャラチーが勢いよく張り手を突き出す。
届いていないはずの張り手が、スライムの左腕を吹き散らした。
「これが、遠当て一の型。風圧による攻撃です」
「ふむ。やるではないか」
フラーブルは健在だ。体を蠢かせ、細く広げてラチャラチーを囲むようにする。
ラチャラチーは動じることなく床を強く踏みつける。
大きな音がするかと思ったら、驚くほど無音であった。
その力はすべて破壊に費やされ、蠢くスライムの大部分はただの色水のように床のシミと化した。
「これが遠当て二の型。震脚です」
「おのれ、このフラーブルをここまで追い詰めるとはな。だがその二つの技はもう効かぬぞ」
メタルスライムはかなり小型になってしまっていた。技がもう効かないというのはハッタリではなかろう。今ハッタリをかましたとして、はいそうですかと退くわけがないのだ。
「では遠当て三の型をお見せしましょう」
巫女ラチャラチーがそう言う。
それからは、よく見えなかった。
腕が素早く動いた。
大きな炸裂音がした。
フラーブルの核が砕けて転がっていた。
ラチャラチーの手には短い金属の筒が握られ、その端からは煙が昇っていた。
「遠当て三の型。銃です」
そんなのアリなんだ。
「さて、これで目標のうち二人は片付きましたね。外を見た感じ天気も安定していますから、電電先生も決着がついたのでしょう」
「俺のルーツについてワーワー言ってくるやつも片付いたな。俺が誰かなど俺が決めるというのだ」
「カッコいいこと言いますね。やっつけるのを全て自分でやっていればもっとカッコよかったんでしょうね。行動で示してほしいものですね」
棘のある巫女ラチャラチーである。ご面倒おかけしました。
「いやあ、疲れたねえ。久しぶりに一割ほど本気を出したよ」
どこからか電電先生が現れる。無事に勝利したらしい。
「私が里を焼かれて、納得するためだけの戦いに、付き合ってもらってありがとうございます」
あれ。この戦いで歴史を改変して里を焼かれなかったことにとかはできないのか。あまりにもぼんやりしすぎて、何の戦いなのかすら把握していなかった。黙っておこう。
「ありがとうついでなのですが、私は先の世界で【爆裂の種】というのを買っていました。これは暑い地域の植物に由来して、爆裂の魔術を使うことで種を飛ばしつつ敵を殺す種類の植物なのですが」
急によくわからない話が出てきた。
「それって急を要する話なんですか?」
「そうですね。結論を先に言うとこの城は爆発します」
「最初に言え」
めちゃくちゃ急を要する話だった。なんでそんなもの仕掛けたの?
「じゃあ少し階を降りて窓から堀に飛び出すのが一番よさそうだね」
電電先生が素早く解決案を出す。さすがだ。堀って安全なのかな。
「堀には毒草やら肉食魚やらいるが、爆発する城の中よりは安全だ」
よかった。
「爆発マデ、アト百」
爆裂植物ってそういうアナウンス出してくれるんだ。
ということで急いで下の階へ行き、堀に面する窓を発見した。あとは飛び降りるだけだ。
飛び降りるだけだったんだけどな。
「すみません、先に出ていてください」
そう断って、城の中に戻る。
入り組んだ構造の廊下を進むと、半夢魔ハルシャハブがいた。
やはりな。いると思ったよ。
「どーしたの? 私は幸運も使い果たしたみたいでさあ。もうダメだねこれ。血迷って心中でもしてくれるっていうのかな」
そんな訳あるか。
「うるさいバカ黙れこの背中に乗れ死ぬぞ」
とにかく彼女を背負って、再び脱出を目指す。
「なんで助けるの。死なせるって言ってたから、見捨てられると思った」
ハルシャハブは力なく呟く。
窓が見えたあたりで背中から下ろす。
「え? 本当に見捨てるの? 待って?」
「見捨てない。爆発する城から出るんだ。背中にいちゃ危ないだろ。前に抱える」
そうして抱え直し、窓から飛び出した。
堀の水に届くかというところで、後ろから爆音が聞こえる。一瞬だけ聞こえて無音になったのは、鼓膜が破れたのか。風に押されるようにして水に入る。
助かった。たぶん。
そして気づいたら電電先生と巫女ラチャラチーと半夢魔ハルシャハブとともに、森の中にいた。
「世界を渡ったのか」
そう呟いていると、半夢魔ハルシャハブが俺の足元に跪いた。
そしてなにごとか言っている。鼓膜が回復しておらずほとんど聞き取れない。
「今ちょっと耳が聞こえないんだ。電電先生治せますか」
耳元に手をあててもらうと、聞こえるようになった。
「ええっと、ハルは何を言っていたんだ」
「え、今のもう一回言うの!? ちょっとそれは」
何を言っていたんだ!?
跪いて忠誠を誓うようなタマではなさそうだ。からかいや冗談の類いだろうか。冗談を「聞こえなかったからもう一回言って」と言われるのは確かに嫌であろう。
一度敗北を喫した身としてはこういう機会に貶めておきたいところでもある。いや、半夢魔に敗北を喫したことはないが?
「ミコトさん。さっき行動で示せと言いましたけど、確かにやる時はやるのですね。見直しましたよ」
巫女ラチャラチーが温かく声をかけてくる。それはどうも。それはどうも?
とにかくこうして巫女の因縁を片付けた。もっとも半夢魔という脅威は身近にある。俺は装束のバランスや毛並みや刀を確認し、気を引き締める。
旅は続くのだ。
「あれ、伝わっていませんよ。言っておかなくていいんですか」
巫女が私に耳打ちする。いいということはない。
私の半夢魔としての戦いは、好意を抱かせれば勝ちだ。一方で自分の負けは負けと認めなければならない。
その点では、先の宣言が伝わっていたとしても解決にはなっていなかったろう。
あるべき決着は、飼育動物と飼い主という関係の中ではつけられない。
「次は目を見て言うもん」




