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なんで俺が、メイド科に!?  作者: LOVE坂 ひむな
第二章 世界分割の巻
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お前必ず死なすからな、あるいは即堕ち二コマ

「ここが動物ショップか〜」


 この世界では戦力増強によさそうなものがあると買うといいよ、と電電先生からまとまった金銭をもらっている。武器を買うつもりはない。今さら使い慣れないものを手に入れるより、一振りでも多く素振りやチョップを鍛えた方がいい。


 そこで動物ショップである。


 強い動物を飼育し誇示することは、昔からえらい人の関心事だった。貴族とかいうのが統治から追いやられ、家柄が飾り同然のものとなっても、そうした示威は重視されている。といってもこの世界でどうだかは知らない。街のようすを見たところで、正直わからない。


 ともかく今や余裕があれば市民も動物を飼育することができる。

 ロバ、犬、猫あたりが人気らしい。

 もちろん、今求めているのはロバなどではない。


「ここから先は紹介が必要です。紹介状をご提示いただきたい」


 電電先生から預かっていた封筒を渡す。いつの間にかラチャラチー巫女が入手していたらしい。働き者であることだ。


「ここからは危険動物の区画です。くれぐれもお気をつけください」


「戦って強い動物を探しています。ここにはどのような動物がいるのですか」


「奥の方に覆いのかかった檻が三つあるのが見えますか?」


 確かに、黒い布か何かで覆われた箱状のものが置いてあるようだった。とりわけ一番右にあるものが妙に気になる。強い魔力を持った動物が入っているのだろうか。


「まず一番右が半夢魔です」


 よし、帰ろう。


 半夢魔はダメだ。あれはダメだ。つい先日不覚をとった上、何をされたかすら分かっていないという有様なのだ。それに今の気になる感じだって既に術中の可能性がある。さっさと引き返すに限る。その前に無力化されている半夢魔でも見ておこうか。


「半夢魔ですか。あれは目を合わせると危険なので、こちらの煤ガラスをお持ちください」


 帰ろうとしていたはずだ。それが、なぜか半夢魔を見ることになってしまった。何かに介入されている。思考に侵入する者がいる。なに、直接見るのでなければ恐れることはない。


 係りの人が覆いを取り去る。まずい。


「あんたかあ。こんなザマで会いたくはなかったなあ」


 ちょっと予想はしていた。先日会った、まさにその相手だった。少し掠れたような声で、彼女は言う。


「あれ、思ったより魅力を感じないな」


「開口一番これだもんね。本当イヤだよ。好きで魅力を失ったわけないよ」


 姿形は前と変わらない。喋り声と服装は別物だ。何が魅了の力を減らしているのだろう。前は同じメイドのよしみという共感を起点にしていたのだろうか。それにしても、これは、煮え湯を飲まされた相手を屈従させるチャンスかもしれない。


「店員さん、こうした動物を飼うには危険もあるのではありませんか」


 そう聞くと、店員は丸い首輪を取り出した。丸い、というのは、ふつう帯状になっているところ円筒状である、という意味だ。


「そこで当店ではこちらの品をお付けしています。『絆』だとか『仲良し首輪』だとか呼んでおります」


 そう言って店員が、首輪に紐でつながった球のような何かを握る。すると、首を囲むことになる円筒部分が膨らんだ。


「これで頸部を圧迫して、大人しくさせるのです。魔術行使を妨げる術も付与してあります」


 なるほど、そういう道具があるのか。そして、そんな道具に仲良しとか命名するのかよ。

 さすがに人の形をした相手に使うには抵抗がある。脅しに使うぐらいであれば辛うじて受け入れられるといったところか。


 そういうことを考えて、俺は半夢魔を買い取ったのだった。




「名前をつけてやろう。希望がないとげろしゃぶとかにするが」


「耳に馴染まない。少しもじって、ハルシャハブね。以降そう呼んで。ハルでもいいけど」


 なんか態度でかくない? 俺の器が小さいのか?


「あまり言いたくないこと言うと、俺は君の首を絞めることができるんだが」


「できないよ。あんたはそんなことできない。所詮はその程度だよね」


 やたら挑発してくるので、本当に絞めてやった。手元で球を握るだけであり、実際に手で絞めるよりはハードルが低い。

 どちらが主でどちらが従であるか教えてやる。


 苛立っていたのを落ち着け、一息つく。


 つけない。


 息ができない。


 半夢魔ハルが指を眼に添える仕草をした。子供の遊びで挑発を意味する。

 何かをされた。

 それが何か判断するより先、握る力が弱った拍子に、息が自由になった。


「貴様の首を絞めたのと連動しているのか」


「二度目であっても油断しているところなら、支配してやれるかなーって。あんたが単純で助かったよ。飼育時の虐待にはかなり厳しく規制があるから。あんたがハルに対してできることはない」


 してやられた。この連動は前回会った時から仕込まれていたようだ。とはいえ半夢魔ハルから俺に対してできることもない。単純な力比べなら負けないし、魅了系は意思にかかわらず解呪されるようにしている。


 そのはずだった。


 目の前にいる半夢魔ハルは、不自然なほど魅力的である。その肢体の均整も、勝ち誇ったような笑いも、待遇がよくなかったのか薄汚れた肌すらも、視線を惹きつけるようだ。何をしたのか。


「さあ。単純にハルが綺麗なだけじゃないの」


「そういうことか」


 実際、魔術的な力は働いていない。だから、彼女が言っている通り、単純に不自然なほど綺麗なだけなのだ。

 思えば檻の中にいて覆われていた時から魅了じみた効果が働いていた。


「匂いか、振動か。そのあたりかな」


 目でも耳でもとらえられない魅力を、魔術的な力なしに感じさせていたのだ。このどちらかだろう。


「頭いいね。もう遅いけど。前回はあまり楽しめなかったから、今日はいっぱい遊んであげたいな。そう思うよね?」


「お前必ず死なすからな」


「そういえばどちらが主でどちらが従であるかってやつ、教えてくれてありがとう。可愛がってあげる」


「必ず死なすからな」


 なんという屈辱だろう。一度ならず二度までも醜態を晒すのか。しかも前よりもなおひどく辱めてやろうと意気込んでいるらしい。


 そう悔しがっていると、不意に後ろから肩を叩かれた。もちろん、目の前にいる半夢魔ハルシャハブによってではない。


「落ち着いてください。私の認識と判別を貸します」


「ラチャラチーさん」


 巫女ラチャラチーの声だった。

 そう告げられるや否や、一瞬世界がバラバラになった気がした。視界は何も変化していない。聞こえる声もそうだ。ただ一瞬だけ意味を失ったか、意味以外を失ったか、よく分からないがそう思えた。

 すぐに全てが元どおりになる。一つ、半夢魔に感じていた魅力だけは解体されたままのようだ。例えばその手指を見て、長いなあとは思うけれど、それだけだ。心を動かすものは感じない。


 何がなんだか分からない。とりあえず助けてもらったらしかった。


「ありがとうございます」


「いえ。お役に立てて幸いです。そちら半夢魔さんですね。別に半夢魔とかその地位は世俗のものなのでどうでもいいんですよね。とにかくミコトさんを虜にされると面倒なのでやめてくださいね」


「はーい」


 ハルシャハブの方にも釘をさしてくれた。それで聞いてくれるかは分からない。


「うん。こう言っては失礼だがかなりいい目を引いたね」


「あっ電電先生」


 先生もいらしていた。戦力強化のギャンブル要素のうちで、これは当たりの方らしい。本当かなあ。


「王国を攻めるんだ。いいね。ハルも【歩く異界の仔】ミコトと一緒に行くよ」


 なんて? こいつも独自の俺観を押し付けてくるのか? いい加減にしてほしい。どいつもこいつも好き勝手言って好き勝手しやがって。

 そう思ってはみたものの、電電先生が「前世などない」と言った他は特に押し付けられた覚えもなかった。なぜこんな感想を抱いたのかな。


「多分ここから勝ちの目を増やすのは難しいね。次で王国を攻めにいこう」


「はい」


 そういう流れになるらしかった。

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