デデリ城御前試合 最終日
騙された。
俺は今、河の中洲でリの字(「大の字」に相当する表現)になって腹ばいに寝ている。好きでやっているわけではなく、動けないのだ。両手首がウの字(「コの字」に相当する表現)の金具で固定されている。魔法を使って切り抜けられるような状況でもないようだ。
聞いた話ではこの金具は数日の経過で消滅するらしい。
半夢魔の娘を助け、偉い人に会わせるようここまで連れてきたのだった。しかし自分は偉い人とやらには会えず、こうして這いつくばらされている。
「あの娘が会おうとしていた偉い人とやらも、誰だか分からなかったなあ」
声に出してみて、強烈な違和感を覚える。
まるで、実際にはその偉い人というのに会っているものの、何かの外部的な操作によってそれを忘れているかのようだ。そんなことは現実に起こらないだろうが。
そのように考えていると、後ろに気配を感じた。
敵対者ではない。
「すみません。不覚をとりました」
「いいよ。あれが相手ではねえ。どういう風にやられたかすら思い出せないでしょ?」
電電先生だ。
さすがに、どういう風にやられたかは覚えている。確か……どういう風にだっけ。
「それに、あの人は本質的に敵じゃないんだ。それより時間の感覚はどうだい」
おそらく拘束されてから三日ぐらい経っているはずだ。
「今日これから御前試合の六日目というところでしょうか」
「面白いものが出るよ。行こう」
そうして金具を外され、なんとか立ち上がって広場まで行った。だいぶ体が鈍っている。鍛え直さないとな。
「六日目第一試合! フーカの勝ち! 見事、ディルディロユを下したァー!」
到着すると、サメの子が例の無限湧きする岩の人に勝ったところだった。無限湧きする岩の人は決戦のとき敵に回るはずだ。その戦いは見ておきたかったかな。
「ところで巫女ラチャラチーが見当たりませんけど、何処ですか」
「さあ、迷子じゃないといいねえ」
電電先生ははぐらかす。どうやら何か知っていそうだ。今は教えてくれないのだろう。
「第二試合! 冒険者カンカウラ対ッ! 勇者トヴィシュトフ! 頂上決戦にふさわしい対決だァーッ!」
カンカウラさんってポッと出のゾンセさんにボコボコにされてなかったっけ。それでゾンセさんにトヴィシュトフが勝ったはずだ。
知名度とかの話なんだろうな。興行だからな。
試合はカンカウラ有利に運んでいった。手数が多いというのが強い。ゾンセ相手では魔と剣による攻めの組み立てを完全に破られていた。しかしトヴィシュトフは断魔剣のような一発逆転の手段を持たないとみえる。
「でもトヴィシュトフも負けてはいませんね。多分ここから飛び道具とかで上空に注意を引いて足元で魔法魔術的な技を使う想定でしょうか」
足元で仕掛けてくると分かっていても、上からの攻撃に対処しないわけにはいかない。予想通り、綺麗に定石的な手が発動した。
「しかし定石的ということは対策もあるということだ」
カンカウラはこの試合で初めて後退という手をとった。二人の間で地面が爆ぜ、砂の柱が上がる。
カンカウラの後退は後手に回ることを意味しない。下がりながら剣を振るう。届かない間合いであるにも拘らずトヴィシュトフは回避を選ぶ。
「遠当て系の斬撃ですね」
それから、跳ぶにも逃げるにも避けづらい横薙ぎの素早い斬撃が放たれる。
それがトヴィシュトフを捉えることはなかった。
トヴィシュトフが手を振るうと、剣による遠当てが弾かれる。繰り返し斬りつけようとするも、すべて弾かれる。その手の中にあるのは、見覚えのある刃だった。
「ナルナナナヤン!」
懐を探ると、俺の持ち物だったはずのナルナナナヤンがないではないか。
「デザインがダサいから捨てるつもりだったんだ。だから別にいいけど、どうして奴が持っているんだ」
トヴィシュトフは斬撃を無効化しつつ、もう片方の手から見えない何かを放ち、カンカウラを倒した。
「勝負ありッ! トヴィシュトフの勝ちだァーッ!」
会場が盛り上がる。この六日で一番の試合を見たぜ、という盛り上がりようだ。
「しかしてここで飛び入りのお知らせだッ! ちょっと遅すぎたから正規の試合にはならないが、最後に二試合ほど見せてもらおうッ! 皆も剣士チョッチョラや岩のディルディロユの戦いぶりを見足りないんじゃないかーッ?」
飛び入りというのがいるらしい。
「この時代この国でまだ他に勇士がいるわけですか? しかもここまで出てこなかったのに急に出てくると?」
「まあ、見なさい」
尋ねると電電先生は薄く笑って言う。
「擁立者は翼神使徒会! だがお偉方の思惑なんて今は知ったことじゃあないッ! さあ来いッ! 飛び入りの戦士——」
翼神使徒会というとこの国の中では少数派の宗教組織だ。
しかしそんなことはどうでも良い。
重要なのは、ラチャラチーにゆかりがある組織だろうということだ。
何となく、こうなる気はしていた。
「祈祷師にして拳闘士! ラチャラチー!」
司会者が高らかに名を呼び、それに応えて戦士が台の上に登る。
「巫女ラチャラチーです」
祈祷師と拳闘士というのは矛盾した肩書きだ。通常、祈祷師は拳を握ることがないのだ。
そして登壇する小柄な少女に、会場は困惑にざわめく。
しかし対戦相手、剣士チョッチョラは真剣な目で彼女を見据え、薄く笑う。
その笑いの意味は明白だ。
「よろしくお願いします」
つまりは、楽しめそうだ、と。




