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なんで俺が、メイド科に!?  作者: LOVE坂 ひむな
第二章 世界分割の巻
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デデリ城御前試合 三日目裏

 ただの気まぐれだ。


 後ろから大きな矢が飛んでくる。木の葉落としでは対処できない。

 だが遅い。認識してから避けて間に合う。

 見果てぬ夢の記憶のように軽い少女を抱いたまま、路地から路地へと入り込む。追っ手の上げる声はその仲間に届かない。

 お前は俺の術中なのだ。


 なぜこのようになったのか。

 ただの気まぐれだ。


 気まぐれに街を散歩した。すると彼女が降ってきた。本日の天気、晴れのち少女、というわけでもあるまい。見れば追われている様子だ。敵の目標をおぶって逃げるわけにはいかない。両手を塞いで抱えても戦う時に数拍遅れる。見なかったことにしてもよかった。


 ただ、助けようと思ったのは、彼女がメイドの格好だったから。

 同業のよしみというわけだ。


 多重の消音結界を張った。狭い路地の中にあって、ここは砂漠も同然だ。音をあげても響かない。合図は誰にも届かない。むろん、こちらは相手の音を拾っている。


「行ったようですね」


 さてこれで、ここまで逃げ切れば勝ちだとかの勝利条件があればいい。相手が全員死ぬまでとかだとちょっとやりたくない。


「助かります。実は」


 彼女が説明してくれた。追われているのは宗教的な事情のようだ。となると今いる相手が全員死んでも終わらない可能性が出てくる。神敵として追われているわけではないようだ。幸運なことだ。そうではなくて、祭具として追われているらしい。不運なことだ。


 生きた人間を祭具扱いというのはそう珍しい話でもない。彼女の宗派は交合教神愛派というものだ。交合教とは性的な行為に神秘的な力を見出すのを特徴としており、この国では淫祠邪教の代名詞的存在だ。神愛派は複数の人間での行為を最低限にするよう説き、淫祠邪教の中の良心とみなされるようだ。

 それでは彼女は祭具として、いわゆる神聖娼婦でもやらされているのだろうか、と思ったら違うようだ。


 彼女は半夢魔だった。いくつかの宗教では淫魔の呼称のもと神敵認定され生きづらい夢魔や半夢魔たちを、交合教は温かく迎え入れる。そして祭儀への協力を求める。協力程度で、祭具扱いというのは普通ではないとのことだ。そこを彼女は意思を無視して働かされているという。


 それで抜け出してえらい人の元へ行き、直訴しようとのことだ。そんなのうまく行くかなあ、と思う。一応、神殿からかっさらった大量の魔力を持ってきているらしい。その気になれば街区一つ二つを更地にできる程度はあった。交渉に当たって暴力を持って望もうという姿勢には感心だ。


 えらい人というのは当てがあるのかというと、あるらしい。日時場所も指定されている。


「デデリ河の洲ねえ。まあ、大丈夫かな」


 街の真ん中を流れている河の、真ん中にある洲だった。行ったら数十人に囲まれる、ということはなさそうだ。問題はどうやってそこまで行くかだ。河まで出ればなんとかできる。


「道ならありますよ」


 あるらしい。よかった、と思っていると彼女は近くの地面に魔力をぶつけて穴を開けた。


「水道を通って行きます」


 なるほど、昔読んだ冒険譚でも定番だった。都市の下水道を使って敵の目をかいくぐる、というものだ。でも臭いんだろうなあ。


「意外と臭いませんね」


 入ると、そんなに臭くなかった。棲み着いている魔物が無毒化しているらしい。そして魔物たちは適当に間引いたり増やしたりしているとのことだ。管理ってそんなに簡単じゃないと思う。そんな技術を持ったこの国をいつか滅ぼすかもしれないというのは、少し惜しい。


「次の角を曲がってまっすぐ行けば河に出ます」


 そして排水口を出た俺たちを、河の水が受け止めた。その直後、俺たちのいる付近だけ水位が下がり、ついには底に足がつく。そういう術だ。


「すごいことやりますね」


 彼女は感心しているようだ。海を割るのに比べたら労力はずっと少ない。


「あなたにも興味が出てきました」


 顎に手をあて、屈むと同時に俺の顔を持ち上げて目線を合わせてくる。特に止めることはしない。害意もなさそうだ。

 そのまま、頬に口付けされた。


 魅了の魔術が入ってくるのを感知する。そのまま通す。別に害はないだろう。


「熟したら、刈りに来ますから」


 この体は成長を遅くしてある。まあこの人が言うなら思春期ぐらいまでは普通に進めてもいいかな。

 魅了の魔術は大したものではないようだ。踊りに誘うような身振りにも、揺れる装身具にも、見ているとこちらが熱を帯びそうな目つきにも、細長く冷たくも器用そうな手指にも、お揃いのメイド装束の下から確かに自身を主張する肢体にも、全く心揺らぐことなどない。

 そうこうしているうちに洲に到着した。


「待っていたぞ」


 そこにいたのは、意外な人物だった。昨日の御前試合に出ていた、そして今も御前試合に出ていなければおかしい人物だ。


「先王に選ばれた勇者、トヴィシュトフ」


「ああそうだ、そなたも来ると思っていたぞ、最強者ダトゥヤール、その第三思考器官の記憶継承者よ」


 えっ?

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