デデリ城御前試合 二日目
「っていうか大会をかき乱すって具体的にはどうするんですか」
「うーん。まずは勇者暗殺を阻止できると嬉しいな。これは難しかろう。それからカンカウラには表舞台から退場してもらう。昨日大怪我を負ったが、きっと無理にでも復帰してくるだろう。そこをまた叩く。第三にディルディロユをなんとかできると良いな。これはパソデサ村を守るのに直接繋がるものだ。あの山で戦うのは分が悪いからな。あとは剣英チョッチョラが何度か負けてくれるとのちの大粛清が変わってくるかも」
「カンカウラを叩くと言っても、もうゾンセと戦っていますから、我々にできることは少ないのでは」
他の参加者をそそのかすにしても、出資者の意向よりも強い影響を及ぼすのは難しそうだ。何か考えがあるのか。
「そこなんだよねえ……」
ないのかよ。まあいいか。
今日は木の葉落としの魔術を教わりに行くのだが、その前に試合を一つ見るぐらいの余裕はあるようだった。
「さてデデリ城御前試合! 二日目の始まりだァーッ!! 第四番! 本日最初のカードはァ! 最強剣士チョッチョラ対ッ二級冒険者にして豪商ッ無双少女フーカだーッ!!」
シヒデという戦士が来るという電電先生の予想は外れたようだ。観衆の声援はチョッチョラに向けられるものもあればフーカに向けられるものもある。
「チョッチョラは国内で唯一ッ剣英の称号を持つ天に愛された剣士ッ!! 魔剣でもない剣で多くの怪物を討伐ッ! さらに斬れるなどとは普通思いもしないッ実体を持たないものまでも斬ったという逸話があるッ!! 斬れぬものはないとでも言わんばかりだッ!!」
剣英とは確か剣豪のさらに二つ上ぐらいの称号だったか。見た目は若いが、立ち居振る舞いは堂々としている。
「一方のフーカをッ二級冒険者と侮るなかれッ一級冒険者でも手を焼くような難事を次々に解決ッ! さらには商才にも恵まれたかッ数々の商品を売り出す現代の文化英雄ッ! サメ印の食堂には通う方も多いのでは? 各地の有力者と繋がりがあると噂されるが今回は自費での参加だァーッ!!」
こちらの見た目は若いどころではない。幼い女の子とすら言える。俺と同じくらいか。サメの頭をユーモラスにデフォルメしたフードのついた服を着ている。ついでにサメの手袋とサメの履物を身につける。サメの頭が五つあることになる。
「って疾る海風さんじゃん」
「知っている顔か」
「向こうは忘れているかもしれませんが、手合わせしたことがあります。負けました」
「ほう。ならチョッチョラが勝てる道理はないかな」
「でも剣英でしょう。能力値を見てもそうそう負けそうにはありませんよ」
実際、始まった試合はチョッチョラが攻め続ける一方的な展開で進んだ。フーカはサメの召喚獣だとかサメ型の火や土を出す魔術を繰り出すが、即座に斬られる。断魔剣のように剣が魔術を斬る性質を備えているのではない。なんのカラクリもなく、剣技によって斬っているのだ。
「これはチョッチョラが勝つのではありませんか」
「まあよく見ていたまえ」
「チョッチョラの動きが鈍ってきていますね。疲れではなさそうですが」
動きが鈍っていると言ってもその度合いはほんのわずかだ。凄腕の剣士だというぐらいだから気づけはするだろうが、力の入れ方だとかをすぐに調整するのは難しいだろう。ここにフーカの勝機が生じる。サメの魔術を繰り出す。やはりすぐに斬られるが、一拍遅い。フーカがチョッチョラの懐に潜り込む。手袋越しに拳が繰り出され、チョッチョラはくの字になって吹っ飛んだ。少女の見た目からは想像もできないほどの威力だ。
「勝負あったな」
「フーカさん、だいぶ手加減していますね」
ラチャラチーが分析する。えっ、本当? あれで?
「なんと! 一撃でノックアウトだーッ! 伝説を背負う英傑同士のぶつかり合いはッ! フーカの勝利ッ!! これも大方の予想に反していたのでは!?」
「ではひと段落ついたところで木の葉落としを習ってこい。首尾よくいけば第六番のゾンセ対トヴィシュトフに間に合うぞ」
「木の葉落としってそんなに短時間で身につくようなものなんですか」
「短時間では身につかんな。君でも実時間で半日はかかるだろう」
「は?」
矛盾に満ちた言葉に首をひねったが、行けばわかるとのことだった。
「指定した場所ってここか。こんな都会の中に森があるとは」
さらには周りに糸が巡らされ、それに触れると警報が鳴るようになっているようだった。避けるのは簡単だが、いきなり訪れるのは失礼にあたるだろう。糸の一本を持って揺さぶる。けたたましい音が鳴り響く。
さらには矢が数本飛んできた。避けようとして……これを葉に変えてみようと思い立った。本来の木の葉落としはまた別のやり方を取るのだろうが、飛んでくる矢を見てから葉にするぐらいはできる。腕五本分ぐらいの距離で、葉となった矢が舞い落ちる。
「おや、おやおやおや。どこでその技を身につけたのか」
そばの木から声が聞こえる。伝声管だ。
「今のは見て魔術を行使しただけです。本来の木の葉落としを身につけようと思いここに来たのですが」
「必要なかろうに。同じことができるのであれば」
「見てから魔術を使うのでは間に合わないような投射武器を相手にする予定があるのです」
「ふむ。よかろう」
すると周りの森は一瞬で消え、俺ともう一人、小柄な老人が真っ白な空間に立っていた。さらに俺たちを取り囲むように十いくつかの絡繰装置が置いてあった。
「バネ仕掛けと落下を利用して拳ほどの大きさの球を投射する装置ですね。魔術で複数回の投射を可能にしているのでしょうか」
「特訓用じゃ。手本を示すから見ておれ」
装置が動き、一斉に球を打ち出した。速さは微妙に異なるようだ。
「木の葉落とし」
老人はすでに精緻な術式を組み上げており、十数の球は全て木の葉に変わった。球の通過を条件として葉への変換を起こす魔術にも似ているが少し違う。最も大きな違いは魔力効率の良さと妨害の難しさだろうか。
「やってみよ。最初はゆっくり、徐々に球速をあげていくぞ」
こうして、特訓が始まった。術式を組み上げるのはすぐにできるようになった。こうなると実は球速は問題ではなくなる。見てから魔術を使っている訳ではないからだ。あとは慣れるだけとなる。そうして半日ほど過ぎたか。
「見事じゃ。もう教えることはない」
「——ありがとうございました」
こうして木の葉落としの魔術を覚えた。結局かなりの時間を使い、もう第六番の試合には間に合わないだろう。そう思ったのだが。
「あれ?」
外に出ると、まだ日は高かった。あの空間は時間の流れが違うのか。便利なことだ。
「ミコトくん! 終わったようだね。試合はもうすぐだよ。ちなみに第五番のディルディロユとレバイエはレバイエの勝ちだ」
電電先生が迎えに来ていた。
「ラチャラチーは……翻訳ギルドですか」
というか新たに言語を身につけようなんてたかだか七日でできるものなのだろうか。
「彼女はすでに基礎を身につけていたし、何もいっぺんに流暢に話せるようになろうというんじゃない。これから蛇や蜥蜴や蜥蜴人と会って話すなら教師なしでも上達できる、という領域まで押し上げるのが目的なのさ」
そういう話をしていると、城の広場から大きな声が聞こえた。
「おおーッ!! この試合も思いもよらぬ展開だァーッ!!」
もしかして俺たちが着く前に終わってしまうんじゃないか。そう思って急いでいくと、勇者が押されていた。押されているなどというものではない。盾は砕け、剣は落とされ、左手のひらを槍で貫かれている。
「これは勇者トヴィシュトフの負けですかねー」
言ってみてから、猛烈な違和感を覚える。トヴィシュトフの負けとはどうしても思えない。妙なことだ。会ったことのある人物でもないのに。
貫かれたトヴィシュトフの左手が槍を握り、ゾンセの手からもぎ取った。手が真反対まで回り、普通に左手で槍を持ったかのようにゾンセに向けた。
「しかしトヴィシュトフ負けていない! この体はどうなっているのかッ穴が空いたはずの左手で魔槍ぶちこわし丸を奪ったァーッ!!」
あれ魔槍ぶちこわし丸っていうのか。盾を砕いたのもあの槍だろう。槍でついたにしては不自然な傷がある。魔槍としての力がそうさせたのか。
そこからの試合展開は圧倒的だった。ゾンセは勇者に傷一つ負わせることなく、右手を突かれて降参した。
「トヴィシュトフの勝利ーッ!! 昨日カンカウラを下したゾンセもかの勇者には敵わなかったッ!! 序盤は押したが槍を奪われて一気に不利になったかッ! ここはトヴィシュトフの不屈を称えるべきでしょうッ!! いい試合でしたッ!」
「電電先生。あの勇者って……」
「ああ、あいつは人間ではないな。魔物の一種と見るべきだ」
勇者といえば人類の希望だ。それが魔物の一種か。
だいぶきな臭いな。




