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なんで俺が、メイド科に!?  作者: LOVE坂 ひむな
第二章 世界分割の巻
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商人ロゾフ

 行商人ロゾフは爆裂チャウ魚から取れる擬硝石をヴェルベッラ地域のクジョイ氏族という部族に売り込む。これは銃砲を扱う戦争技術において革命を起こし、ヴェルベッラ連合王国の成立を早める。のちのデデリ王国との間の戦いでも銃砲は活躍し、デデリの国力を大いに削ぐことになる。そんなロゾフの命が危機にある。それを救おうという話だった。


「それって……いいんですか? 山ほど人が死ぬのでは」


「死ぬなあ。それだけではない。銃というのは従来の武器に比べて小さな訓練量でより大きな戦力を生み出すことができる。つまりは幼子に至るまであらゆる人間を兵士として駆り立てることに繋がる。まあ後でヴェルベッラ連合王国は滅ぼして銃の技術は失わせるかどうかするが」


「善悪観が狂いますね」


「まあいい、行くぞ。まずこの辺にいる賊を一掃する」


 賊ときたか。まああまり大変そうではないな。


「これを見たまえ。魔獣トゥルヴの仔が木に吊られている。おそらく親をおびき寄せるための囮なのだろう」


「ひどいことをする奴がいるもんですね。一体誰がこんなことを」


 これが賊の仕業だというのだろうか。


「俺たちだぜ」


 話が早い。犯人が現れた。三十人ほどの集団だ。


「お前たちが賊か」


「初対面で失礼なことを言うもんだな野ウサギ風情が。俺たちはこうして魔獣を狩り人々の生活を守る立派な冒険者よ」


 まあ正々堂々としているという自認があるか勝算があるからすぐに名乗り出たのだろう。どこにでもある冒険者ギルド的なところに届出を出してもいるかもしれないが、多分そこから身を持ち崩して山賊になったんじゃないかな。

 あるいは実力はあるが魔獣の養殖などロクでもないことをやっているか。魔獣の養殖というのは、冒険者ギルドや街の政治やらの運営がゆるい地域ではわりとある話だった。素材を売ってよし、戦力にしてよしとおいしい職業なのだ。

 こいつらの能力値を見る限り、前者か。つまりあまり実力がないケースだ。


「見てわかると思うがこいつらは普通に賊なので適当に手加減しつつ、ミコトくん、ラチャラチーくん、やっておしまいなさい」


「なんか口調ブレてます?」


「ウオオオオ殴って体中の穴という穴をすごいことにした後殺す!!」


 立派な冒険者からは程遠いことを口走りながら襲ってくる賊どもを軽く撫でてやる。


「ウグーッ!」


「弱い」


「調子に乗るなッ! 俺はそいつほど甘くないのですぐさま殺した後体中の穴という穴をすごいことにしてやるッ」


 駆け寄る自称冒険者の足を払い、背中に肘鉄を入れる。背骨にヒビぐらい入ったか。まあすぐに癒せば後遺症も残るまい。最悪でも足が動かなくなる程度だろう。


「弱い」


「クッこいつら強いぞ! 先生! お願いします!!」


 すると集団が左右に別れ、長身の男がその間を滑るようにしてこちらへ来る。ラチャラチーに比べるとずっと遅いが、隙のない身のこなしだ。さらには呼吸と意識の切れ目を狙うような完璧なタイミングで槍を突き出す。

 突きというのは点の攻撃で、これは危なげなく避けることができる。槍が後ろにあった木に刺さり、横への移動が制限される形になる。すかさず槍を叩き折って動線を確保する。

 左手を掴まれた。慌てることなく逆に相手の手首関節を極めようとするが、逃げて距離を取られる。不可視化の魔術をかけて間合いを隠しておいた竹刀で追撃をかけるふりをするが、動じない。剣の不可視化というのは姿勢から間合いを測れる相手には通用しない。これはそれほどの敵ということか。


「強い」


 戦いの技を見ても、能力値を見ても、こんなところで山賊などやるような器ではない。


「いやいや、君ほどには及ばないとも」


「なぜ賊などとつるんでいる。他に食い扶持などいくらでもあるだろうに」


「教える義理はない」


 これはボコボコにして聞き出すしかないか。


「——と言いたいところだが、君は私よりも強いな。それに槍も失った。ここは洗いざらい話した方が生き残りやすそうだ。この荒くれどもは連れて行け」


「先生!?」「そりゃねえですよ!」


「仲間を売るのか。薄情だな」


「知らん。こいつらを仲間だと思ったことはない。修行していたら絡んできて、負かしたらつきまとってきて迷惑していたのだ」


 じゃあなんで襲ってきたんだ。アレか。強そうだから手合わせしたくなったとかか。


「君らを襲ったのは、強そうだから手合わせしたくなったというところだ。非礼をわびよう。私はゾンセという名だ」


「ミコト・ヒシュマーシュ、こっちはラチャラチー、そして電電先生。今はロゾフという商人を害する者を排除するため動いている」


 言ってから、これ言っていいのかなと思ったがまあいいだろう。ダメだったら電電先生が無理にでも止めているはずだ。


「ほう! 私もその商人に会いたいと思っていたのだ。デデリ城御前試合に紹介してもらおうと思ってな」


 こいつぐらいの使い手がいれば俺たちがいなくてもロゾフは死なないんじゃないのか。と思ったが、デデリ王国に行くということは擬硝石が王国に渡ってしまう可能性があるのか。そうするとデデリ王国が強くなってしまい、我々の目的は達成できない。


「ううむ。我々としてはロゾフ氏にはヴェルベッラ地域のさる氏族に擬硝石を売り込んでもらいたい。デデリ行きはその後でいいか」


「戦国の世界だな。ならば私も同行しよう」


 普通そこは「ならば」で繋がないところだろうな。


「とりあえず、賊さんたちを街に引っ立てましょう」


 ともかくラチャラチーの提案で、まずは港町に行くことにした。




 賊どもを引き渡し、ロゾフを探すことにした。港町は広い。手間取るかもしれない。


「と言ってもそう難しくはない。ロゾフはルマダ氏族に属しているから、第二街区に住んでいるはずだ。それでそこそこの規模の商人となればさらに絞れる。こっちの方向、おそらくママチ通りに面しているだろう」


 なぜか慣れた足取りの電電先生について、通りまでやってきた。


「あの商店だろう。留守のようだな」


 確かに、店頭には外出している旨の書き置きがある。しかし。


「中に人が何人かいるようですね」


「血の匂いがしますよ」


 ラチャラチーが血の匂いを嗅ぎつけたようだ。鼻いいんだ。中に進んで行くことにする。


「この街区の構造上、店の奥深くに入って裏路地に抜けることは可能だ。裏路地から入って襲撃することもな」


「……何も命を取ろうって訳じゃあねえんだ。その石を、全部と言わねえからさ、譲ってくれねえかな?」


 奥から話し声が聞こえる。明らかに不穏だ。


「ダメだ! 欲しいなら自分で漁師に掛け合うか採取に行け!!」


「そうしようと思ったんだけどな、チャウ魚は不漁だって言うんだよ。おかしいなあ? お前の石はどこから手に入ったんだろうな? おまけにチャウ魚のいる海域を封鎖している奴らが見覚えのある奴らばっかでさあー……どこで見たと思う? お前と懇意にしている犯罪組織の連中じゃねえか」


 あれ? ロゾフの方が悪そうじゃない?


「先生……」


「今回の目的。それはロゾフを無事にヴェルベッラ地域に送り届け、そこに擬硝石をもたらすことだよ」


 まあ、そういうことだ。とりあえず客人には穏便にお帰りいただいて、ロゾフと話し合うことにした。


「いやー助かりましたよ! あのような荒くれに囲まれて私気が気でなかったのです」


 よく回る舌だ。


「ええ、もう大丈夫です。ヴェルベッラ地域、クジョイ氏族の砦まで我々が護衛しましょう」


「本当ですか! 助かりますな。実は護衛をしてくれるはずの用心棒たちが逃げ出していましてね」


 そして準備を整えて港町からこの小世界の果てまで行き、世界転移装置を起動した。


「これでヴェルベッラの世界まで行けますよ!」


 港町の世界が崩壊する中、俺たちは新たな世界に飛び立った。

 あちこちで火が燃え盛り、鉄の打ち合う音が鳴り響き、血の匂いが絶えない世界だ。

 そこは、まぎれもない戦場だった。

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