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なんで俺が、メイド科に!?  作者: LOVE坂 ひむな
第二章 世界分割の巻
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巨人の弓争奪戦

「暑いな」


 汗をぬぐい、温度調整の魔術を重ねがけしながら溶岩スライムを斬り捨てる。隣では巫女ラチャラチーが水晶ゴブリンを殴殺していた。溶岩スライムが死に際に撒き散らす十二の炎の球を危なげなく撃ち落とす。


「こんなところに巨人の弓とやらが保存されているんですかね」


 こんな熱を持つ穴に置いていては、虫食いは生じまいが、何かの拍子に燃えてしまいそうだ。それを防ぐ魔術だってそう長持ちするようなものではない。


「ある。伝説の巨人族が使っていたという大きな弓はそこここにあるが、これはその中でも特に強力なもので、本物であってもおかしくない。それを保存するのはこういう、並みの生き物にとって入りづらい場所となる。そして本物ならそうそう劣化するものではない」


「巨人って本当にいたんですか? いたとしてどのぐらい前なんでしょう」


「わからん」


 巫女が疑問をうかべ、先生が答える。巨人はいたのか。いたとしてどのぐらい前か。それは「わからない」としか言えない。巨人を再現または召喚しようという試みはいつも中途半端に終わる。時間を遡行しても、巨人に会うことはできない。

 巨人がいたかのような痕跡は見つかる。またどの時代に行っても「昔々、巨人という大きな人々がいた。神々と戦い……」といった伝承がある。「じい様のじい様が見たが……」と付く場合もあるが、そこから四世代分遡って巨人がいたことはない。

 人間が想像するものはいつでもあまり変わらないというだけのことで、巨人はいないのか。あるいは。


「でも本物の巨人の弓と言うからには巨人がいるはずですよね」


「まあ、そうだな……」


 そういうことを話していると、洞穴の先がひらけているのに気づいた。石を投げたり、苦手なのだが獣を召喚して使役したりして、罠や待ち伏せがないか確かめる。


「大丈夫そうですね。ここは、っと」


 第一印象では、祭壇に見えた。空間は俺たちが入った入り口を最上段として、長方形を何重か重ねた形に掘り下がっている。下の三段にはおびただしい数の人の像がある。最下段には大きな箱が置いてあり、周りにいくつかの武具が添えられる。そのどれもが、人が扱うには大きすぎるサイズだった。


「祭壇というか、墓ですかね」


「その通り。ここは巨人の墓だね」


「えー、じゃあ巨人ってやっぱりいたんですね」


「そうとも限らん」


「そうですか?」


 先生と巫女はのんきに会話を交わすが、俺には警戒すべきものがあるように思えた。何かが、いる。どこを見ても、何を聞いても異常は検出できないが、絶対に何かがいる。


「あそこにある弓ですよね。取りに行ってみましょう」


「ああ。警戒を怠るなよ」


 先生も、何かが起こるだろうことはわかっているようだ。

 下の段に飛び降りる。特に何も起こらない。

 下の段に飛び降りる。特に何も起こらない。

 数段降りても何も起こらない。

 下から六段目に降りる。人形たちが一斉にこちらを向いた。さらに、後ろを見ると、ここより上の段はなく壁で、出入り口のない部屋のようになっていた。結界か。全く気づかなかった、というかこの段に降りることを条件に結界が発動するようになっていたように思える。ついでにこの結界内にある例の副葬品らしき武具は偽物だ。


「悪い、出て行くよ。出口はどこかな」


 俺がそう言うと次の瞬間には、下から七段目に立っていた。人形たちは入る前から動いていない。後ろには先生と巫女がいる。いるのだが。


「お二方とも戦ったあとのようですね。何かに襲われでもしましたか」


「ああ。ミコトくんが降りると見えなくなって、同時に一番下に番人らしい人が現れた。かなり強いやつだねあれは。三人がかりじゃないとそう勝てないよ」


 どうやらここは誰かが下から六段まで降りて結界に入り、残りがその間に現れる番人と戦って、結界外にある武具を手に入れるという手順を取らないといけないらしい。


「えー、じゃあ現段階では弓は手に入れられないわけですか」


「いやいや、攻略は可能だ。要は我々以外の何者かが結界に入ってくれればいい」


「うーん。召喚獣を使うにも、結界内に入ると接続が切れそうですよ」


「だから、呼んでおいた」


 電電先生は自信満々に言う。え? 誰を? 


「まあ、今は引き返そう」


 きっと何か考えがあるのだろう。少し納得行かないが引き返すことにした。

 溶岩スライムや水晶ゴブリンをなぎ倒しながら道を戻ると、思いがけない相手と出くわした。


「あらあらミコトさんじゃありませんの」


 髪を縦ロールにして何房も垂らした少女だ。二つ前ぐらいの世界で顔を合わせたィディヤ嬢とユリヤ嬢の間ぐらいの年齢と見える。どっちで呼べばいいのだろうか。ごまかして適当に中間音で言っておこう。


「ィリヤ嬢、ご機嫌麗しゅう」


「ィディヤですわ!」


 ィディヤだった。この人がいるということは狼人間だったが今は人間になっている所のリーコもいるのだろう。と思ったら令嬢の後ろから二人の男がやって来た。


「お嬢、あまり先走らないでください。危険です」


「せめて僕の目の届くところにいてよね」


 リーコともう一人、こちらも懐かしい顔だった。


「ズィロ少年」


 以前の旧友、何とかストス型転生者とか名乗っていた異界の剣士だ。


「ミコトくんじゃないか。なんか胡散臭い女性にたぶらかされたって聞いたけど」


「そうだよ。こちらが電電先生という胡散臭い人だ。あと巫女さん」


「よろしくー。我々は引き返すとこだけど、一つ助言をしておこう」


「ありがたく拝聴したいねえ」


「やめろズィロ。いくらお前がある程度の嘘を見抜けるからといって、誤った方向に誘導される恐れはあるんだぞ」


 リーコ・ラオランゴはさすがによく分かっている。というか先生と大して会話したことがないはずなのにどうしてそこまで信頼があるのか。悪い方向に。


「この先にある副葬品の武具が君らの目的だと思うのだが、あれを取ろうとすると分断される恐れがあるぞ。我々もどうしても三人でかかれないので尻尾を巻いて逃げてきたというわけだ」


「それで、道が二つに別れて片方が外れという状況に喩えるとすると、僕らが外れの方を引いているうちにまた引き返してあたりの方に行こうというわけかな」


 ズィロ少年もかなり鋭い。実際これは正解なのだろう。


「そうかもしれないな。そう思うなら君たちは二手に別れるのがいいことになる。あるいは我々はそうして別れたところを各個撃破してうまいところを持っていくつもりかもしれないぞ」


「うーん。まあいいや、行こう二人とも」


 そうして三人は奥へ進んで行った。

 電電先生は見送ってから言った。


「じゃあ彼らが外れの方を引いているうちにあたりの方に行こうか」


 やっぱその方針なんだ。


「タネが分かってしまえばリーコとズィロ少年の二人で番人とやらを倒してしまいそうな気がしますね。急いだ方が良さそうですよ」


「いや、あのお嬢様を一人にはしないんじゃないかな。まあでもリーコくん一人で番人と渡り合えそうではあるね。じゃあミコトくんの目と耳で何が起こっているか確かめてもらいつつタイミングを見計らってさっきの部屋に戻ろう」


「あっ三人とも結界内に入りました。急ぎましょう! 作戦は?」


「番人は召喚術を使う。長引くほど相手有利だろう。一発で決める」


 シンプルでいい。部屋に走っていくと、結界の強度を外から高めてやりつつ、走る勢いのまま事前に詠唱しておいた魔術を行使する。

 仮想的な炎や水流や草の刃は、小柄な番人に届く前に霧消する。


「魔力を吸うつる草」


 召喚獣ならぬ召喚草に食べられたようだ。しかし防がれるのは想定内だ。すでにナルナナナヤンの短刀が振り抜かれている。間合いを無視して相手を切りつける、初見必殺の一撃だ。


 キン! 


「なに!?」


 防がれた。それも、相手と自分の中間地点、明らかに相手の間合いの外でだ。


「ナナヤン刀の魚」


 煙の向こう、番人は右手に細長い魚を振り上げていた。おそらくは——


「同一の武装——!」


 だが攻撃はまだ終わっていない。俺の側から巨大な岩が転がり落ちる。番人というからには、避けて棺と想定されるものが壊れるのを見過ごすわけにはいかないのではないか。果たして、相手は迎撃した。その手段は単純明快、正拳突きだった。岩が無数の破片に割れて八方に飛び散る。

 否、八方には飛び散らない。岩を挟んで番人と反対側にラチャラチーが立ち、岩の破片を一つ一つ前へ押し返していく。そのどれもが当たれば手痛い傷を負わせる石飛礫が面で、しかも時間差をつけて襲いかかる。


「石食いの……」


「わああぁぁぁぁぁ!!!!!!」 


 原始魔術【大声】でこれまでに召喚された生き物たち共々解呪(ディスペル)する。番人は身を守る手段を失い、石を全て体に受けた。


「やったか!?」


 その時である。番人を埋もれさせた石の山が内側から弾け、無傷の番人が姿を現した。やっぱりダメか。そんな気はしていた。


「騒がしい墓荒らしだ」


「我こそはミコト・ヒシュマーシュ。騒がせうさぎメイドだ。お前は?」


 番人は少し可笑しそうに笑い、何かを懐かしむように目を閉じてまた開いた。その表情は憂いに満ちているような、そんな気がした。


「俺は……名前のない、ただの墓守さ」


 こうして不意打ちは失敗に終わり。


 第二局面が始まる。

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