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なんで俺が、メイド科に!?  作者: LOVE坂 ひむな
第二章 世界分割の巻
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新たな物語の始まり

お久しぶりです

 伴神(しごと)をやめた。つまらなかったからだ。「お前は冒険を求めてなどいない」とはあの人狼リーコ・ラオランゴの言だったが、実のところ俺はほどほどの冒険とほどほどの安全を求めていたのではないのか。


 そういう訳で放浪の旅に出ている。お誂え向きにあの神とやらが哀しみのあまり世界をバラバラに引き裂いてくれたから、以前旅した世界とは全く違う世界になっていて面白い。バラバラにと言っても、こっちの世界は熊の国だけとかこっちの世界は自由国だけとかそういうことでは必ずしもなくて、世界を複数の層が構成しているとすればそれを引き剥がしたことになるような分け方や、時間的な切りはりもされている。それゆえ知っている人物のようで少し違う人物がいたりする。現に俺の目の前には——


「はあ!? これっぽっちのトテト苗が銀貨五枚ですの!? ありえませんわ!!」


 とても聞き覚えのある口調で話す、縦ロール数房を垂らした見覚えのあるお嬢様然とした人がいる。俺の知っているのよりは幼い。鎖鎌とか持っていても驚かないぞ。


 ちなみにトテトというのは根っこと実がそれぞれ主食と緑黄色野菜として食用になっている植物だそうである。元の世界にはあった記憶がない。あと今お嬢様然としたと言ったが苗を自ら買いに来ているあたりお嬢様ではないのかもしれない。


「これ適正価格銀貨二枚ぐらいでしょうね」


 計測スキルで見た査定を少し盛って伝えてみた。ちなみに計測スキルで何が見えるかも世界を渡れば異なってくる。面白い仕様だ。しかし店主としても適正価格少し上ぐらいなら合意しやすいのではないか。


「おいおいふりふりモノトーンの嬢ちゃん、困ったなー……いきなり適正価格言い当てられちゃよー」


 嬢ちゃんじゃないけどな。でもこういう時は女に思われた方が得なんだろうな。


「適正価格からさらにまけろ、とは言いませんわ……銀貨二枚でお売りなさい!!」


「しょうがねえなー」


 どうやら商談が成立したようだ。よかったよかった。


「あなた面白うございますわね! ちょっと付き合いなさい!!」


 そして付き合わされることになった。まあ自分一人で行動するよりは他の人に連れられた方が楽しいことも多い。経験上な。


「こんな格好ですけど男です。ミコトって名前です」


 以前決闘沙汰になったことを思い出して最初に男だと言っておくことにした。これで「決闘を申し込みますわ!!」とか言われたらまあ仕方がない。


「最近流行っていますものね! わたくしィディヤ・ポレゴリニルヤですわ!!」


 大丈夫だった。流行っているんだ。何が? メイドが? 女装が? ポレゴリニルヤというのは確かこの街のそこそこ偉い家だ。俺は後ろ盾とかないし無礼働くと首が飛ぶな。抵抗して大軍を相手に戦うのも面白そうではあるができるだけ避けたい。


「よろしくお願いします、イディヤさん」


「ィディヤですわ!」


「イェディヤさん……」


「ィディヤですわ!!」


「イィディヤさん……」


「ふざけてますの?! 決闘を申し込みますわ!!」


 結局こうなるのか。血の気多くない? 決闘には勝ちました。鎖鎌は持っていなかった。


「申し訳ありませんわ……異邦の方で発音が拙いのですわね。そうと知らず決闘なんて——」


「いいんですよ、ィディヤさん」


「あっ!! 今の!! 今のが正解ですわ!!」


 この後何度か名前を呼び、途中で自分の声に計測スキルを使えることに気づいたので使って身につけた。


「ところで付き合うというとどこへ行くんですか?」


「わたくし今、家の習い事抜け出して外出しているところですの!」


「いいんですか?」


「ダメですわね!!」


 まあそうでしょうね。


「街の果てが見たいのですわ!」


「……」


 そうかー。そうきたかー。実はこの世界は街一つで完結している。果てはない。見た感じ地平線があるし球の表面の一部か全部に街が作られているように思われる。一部なら果てはあるわけだ。だが実はこの世界は外から見れば円盤上の世界で、中からは縁に近づくほど小さくなるので果てに辿りつけないのだ。ただし中心はあるらしい。自分でもよくわかっていないし、この認識で正しいかどうかも知らん。という話をした。


「——それはおかしいのですわ! 縁があるのに辿りつけないなんてことありえませんわ!!」


 そう言われるとそうな気がしてきた。どうなんだろう? 


「とにかく行きますわよ! あっちが中心だからその反対方向ですわね!!」


「——ここにいたのですか、お嬢様」


 バリトンボイスが聞こえた。厳しさと冷たさを内に持つような声だ。


「ぴっ!?」


 ィディヤお嬢様の反応は覿面だった。ぴっ!? て。


「全く、また勝手に外出して——帰ったら『燻しラドゥ』ですよ」


 声の主は執事然とした男だった。ただし体つきはあまりにも巨大だ。野獣のようだと思った。


「い、嫌! いい子にするから燻されるのは嫌!!」


「外に出る前にそこに思い至るべきでしたね」


 ちなみにラドゥとは植物で、焼くと煙たいことで知られている。え? お嬢様を燻すの? まあ打ったり叩いたりするよりはマシ、なのかなあ。と思っているとお嬢様がこっちに目線を送っているのに気づいた。あれは助けてということだろうか。助ける義理はない。


「ィディヤ様は悪くありません。全てこの薄汚い野良メイドのしわざです」


 義理はないが、助けてやるよ。


「気がすむまで私を打てばいい。煙で燻せばいい。けれど今回ィディヤ様は許してやってください」


 二人は動きを止めて、奇妙なものを見るようにこちらを見ていた。まあそりゃそうなるわな。こんな追求されればすぐバレる、というか多分追求しなくてもバレるような嘘をな。


「見え透いた嘘を。君がお嬢をかばう理由がわからないな」


 俺もわかんねえよ。


「前世で主従だった気がする——とかじゃダメですかね」


「はあ?」


 理解不能、という声がィディヤ様本人から上がる。ダメか。ダメだよなあ。


「お前、お前は——」


 ところが執事っぽい方は驚き衝撃を受けた表情をしていた。


「我が友、ダトゥヤール?」


 今度は俺が驚く番だった。前世、いや前前世か——の俺の名前だ。その名前を知っているというのは、これは何者か。思い当たる節はあった。「お前に対抗して執事になる」とかなんとか言っていた前前世の友がいなかったか。


「私……俺は、リーコ・ラオランゴだ」

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