メイド騎士は永遠に
「ここがミズホ国か——」
俺は内戦から逃れるかのようにして極東はミズホ国へ飛んだ。急いでいたので手段は船舶でも熊の国の湿地帯を縦断するデメニ殺戮魔導鉄道雷電でもなく、文字通り飛んだ。前世での飛行免許が有効なのは幸いだった。
「僕の故郷に似ているね。それでも確かな違いがあるのが、僕は異世界に来たんだと感じさせるよ」
ズィロ少年も一緒である。島国ミズホ国はその国土の大半が山である。わずかな平野部に人と街が集まり、樹状積層都市をなしている。俺たちが今いるのはそんな樹状積層都市の一つ、東キャピタルメトロポリスである。東と付いているがれっきとしたミズホ国の首都だ。
この国は様々な点でアザードやヨルンギュイアなど西方諸国と異なっている。西方の人間にミズホ国の名物名所を聞いたなら、その答えも多様性に富んだものとなろう。海の幸山の幸をふんだんに用いた料理か。飛行が許されない人々にとっての天へと近く唯一の手段としての登山に惹かれる者たちの憧れの的である霊峰・ブレイズ山やエターナル山か。数多くのダンジョンとそこに駅を置く鉄道網か。吸血鬼から天使までにおよぶ多種族の共存か。
地理的な要因により外敵の侵入を受けづらかったばかりでなくこの土地の中での戦争も久しく起こっていない。その秘密は神の印である。神を味方につけ戦いを避け、避けられない戦いにおいては良い結果をもたらす神器がこの国にはあるのだ。この国はそれを俺たちに快く譲ることになる。
「それで東キャピタルメトロポリスを守る、それ自体が神器であるこの鉄の輪“らいどん鉄道”の駅である二、三十のダンジョンを全て攻略すると次に進めるというわけだね?」
「ああズィロ少年、そうらしい。すでに一つを残して攻略し、次が最後だな。西のプラムフィールド・ダンジョンと並ぶミズホ国最大のダンジョンの一つ。シヴキャニオン・ダンジョンだ」
最深部である第百九階層にたどり着くとダンジョンマスターがいた。吸血鬼だ。
「拙者がシヴキャニオン・ダンジョンの迷宮支配者、忍者シノバズでござる——」
ズィロ少年が「忍べよ」と小声でツッコんだ。忍者あるいは忍びとは吸血鬼の一種である。ミズホ国以外で見られることはほとんどない。ミズホ国では忍びは歴史の表舞台で裏舞台で活躍し続けた。特有の魔法魔術科学体系を築いており、忍びを知らない者からすれば不可思議な術の数々を用いるという。実際火遁水遁風遁魔遁などを用いてきて非常に苦戦し死を覚悟すらしたが、なんとか実力を認めさせることができた。
「見事にござる——今や封印は解かれた、お前たちは次の試練を乗り越えることであの方に会うことができるでござろう——」
急いで外に出ると雲が割れ、何者かが空高くから光のはしごの中を降下してきていた。
「ハケヨーイ!!」
丸く巨大な体型、人の形に詰め込むには無理があるというほど詰め込まれた脂肪とその下の筋肉、膨れ上がる魔力、それは——
「——ノコータ」
本日二度目の、死を覚悟する瞬間だった。回避でなく防御行動をとっていたら、あるいは回避が少しでも遅れていたら、一瞬にしてこの国の名物であるマグロのひき肉のように赤い肉塊と化していたことだろう。さっきまで俺たちが立っていた地面は大きくえぐれている。
「力士——伝説の!」
「知っているのかズィロ少年!」
「僕の故郷じゃ格闘技選手のことだったがどうやらこの世界では違うらしいということは聞いていた。力士とは天使の一種だ。その名の通り、力を司る」
本当にデタラメなパワーをもちスタミナも底があるように思えず忍者との連戦ということもありたいへん苦戦したが紙一重のところで勝利をもぎ取ることができた。二度とやりたいとは思わない戦いだった。
「——私を眠りから覚ましたのはあなたがたですね」
女性が現れた。敵意はなさそうだ。紅白の祭服に身を包んでいる。
「それほどの苦労をなさったところ申し訳ないのですが神の印はお渡しすることはできません。確かにあれは予備もたくさんあり他にやったところでこの国が揺らぐということもありませんが、人類が戦いを忘れればその営みは停滞してしまうのでこの国の外のみなさんには戦っていてもらわなければ困るのです——」
そのように出し渋っていたが根気強く交渉すると
「——はい、本当にすみませんでした、わかりました、喜んでお渡し致します」
と言ってくれた。彼女がついて来て神を呼ばなければ戦いを鎮めることはできないというので連れて帰ることになった。飛べないので帰りは熊の国の殺戮鉄道だ。熊の国にユルクロニが生きていたので滅ぼした。さらに第六感とか呼ばれていたその側近らしき人物が
「クク、君はその能力の真価がわかるか? メイド騎士の秘密がわかるか? 今はわかるまい、ただ——」
と思わせぶりなことを言っていたのでそんな風に言って延命を図らなくても命は取らないと言って安心させた。
「ミコトさん! お帰りなさい! そちらの女性が神様を呼べる方ですね」
学院に帰りついた。王都はひどい有様だったが、リーコやいつぞやのサメの女の子の活躍により想像していたほどの打撃は受けずに済んでいるようだった。
「定命の者どもよひれ伏せ、私が神である——」
そして神が降りてきた。職能判定の鏡と同じ声である。
「ミコトなる者に問う! お前の力はなんのためか」
「よく生きるためです」
正直に答えた。
「お前はなぜメイド騎士であるか」
「穏やかな日常の世界を守る者だからです」
お前がそう言ったからじゃねえの? と思いながらリーコに言われたようなことを答えた。
「合格だ。この地には平安があるであろう。望むならお前は私に伴う神として前世のようにパンを焼き仲間と穏やかに暮らすがいい。さらにお前の転生譚は『なんで俺が、メイド科に!?』なる題により吉祥なる物語として世に知られよう。この物語の一片でも読み、聞く者は邪悪なるものを避け、良きものを惹きつけるだろう」
そして俺はメイド騎士として伴神となったのであった。メイド騎士ミコトは永遠に——
気が向いたら続きやリメイク書くかも




