キノコベジポンの猛攻
戦闘開始とほぼ同時に起こった、謎の触手の襲撃。
ライトは特に動揺することもなく、とりあえず忍刃を一閃した。
白い触手たちは、軽い力だけですべてが真っ二つとなる。
まるで紙でも切ったかのようだ。
触手が倒れ、マッシュの姿が見える。
しかしまたすぐに第二第三の白い触手が視界をふさいだ。
それは全方向からライトに覆いかぶさるように展開され、光を遮断する。
矢継ぎ早に斬撃を繰り出して触手を払うが、またすぐに流れ込むように触手が生えてくる。
切り倒した触手の巨大な残骸も残るために、あたかも水に呑まれているかのように、ライトは触手空間に閉じ込められた。
「おおい見ろよ、あのライトが苦戦してるんじゃないのか?」
「いや、そう見えるだけだ。ライトはまだ全くダメージを受けていないぞ」
「確かにそうだが……」
ライトという男のおそろしさをよく知っているギャラリーは、ライトはまだピンチでも何でもないと理性的にわかっている。
だが、その考えが少し揺らぎかけているほどに、マッシュの猛攻は熾烈を極めていた。
通常のプレイヤーなら、この異常とも思える密度の攻撃に何もできずハメ殺されてしまうだろう。
それをぎりぎりでさばいているライトの正確な切り替えしは、やはり神業レベルだった。
(マッシュが扱うベジポンはキノコ。ということはこの白い触手の正体は……『えのき』だな!)
触手のように猛烈な速度で生えてくる巨大な「えのき」
それらをさばくだけなら難しいことではないが、あまりの猛攻ゆえにライトのスタミナもじりじりと削られていく。
(ラチがあかないな。一度、この戦場をリセットして態勢を立て直す!)
ジリ貧になってしまう前の迅速な判断。
これもライトの無敗伝説を支える重要な能力だ。
右手に持つ忍刃をポテトンファーMに持ち替え、大きく振りかぶる。
「中辛の拳・『纏』!!」
右手からほとばしる超人的な力を芋に乗り移らせる。
ポテトンファーMからびりびりとした振動がほとばしり始めた。
「なんだあのオーラは!?」
「も、目測だが攻撃力30000は超えてるぞ!!」
「さ、さんまんっ!? バカな、ジャガイモのベジポンでそんな数字が出せるはずがない!!」
圧倒的な攻撃力を前に原形を保てずに茹で上がり始めたポテト。
その全てが、地に振り下ろされる。
ズガアアアアアアアアアアアアアアン
その攻撃は、もはや衝撃破。
ジャガイモの着地点を中心にほとばしるエネルギーはえのきの障壁を蒸発させ、地中に潜む増援の触手をも掘り返し、無力化させる。
衝撃はその勢いをとどめることなく、マッシュが立つ方向にも向けられる。
その攻撃は点ではなく、超巨大な面。
故に回避不可能。
防御態勢をとることを強いられる。
しかし、その矛が向けられているのはトッププレイヤーのマッシュだ。
FPSプレイヤーのために高速の攻撃をさばくのにも慣れたもの。
落ち着いて防御の策をとる。
「これくらいは想定内……。攻撃のキノコだけではなく防御のキノコもすでに生産済みです……!」
マッシュの前に展開される、十二枚のヒラタケ。
食用ではないかわりにカサを大きく成長させて盾として特化させた代物。
そのキノコ全てが、トッププレイヤーであるマッシュのスキルも相まって、適切なフォーメーションで並べられる。
水一滴もマッシュに届かせない、キノコの護身。
その盾は、ゲーム的なステータスでも証明された力を持つにいたる。
「完全防御……。攻撃力が10000だろうが99999だろうが全てをゼロにする最強の防御……!」
衝撃すべてが、キノコに吸収されて消滅する。
後ろのマッシュには何も攻撃は届いていない。
「あの柔いえのきとは違って、ちゃんと防御用のキノコも備えているのか。もともと持ち込んでいたベジポンではないとすると、戦いの場で直接キノコを栽培してるとみたほうがいいな。戦い方に合わせていろんな種類のキノコベジポンを生み出せる。かなり強力なベジポンだ」
一般プレイヤーとは違う明確な歯ごたえ。
ライトは興奮していた。
彼らが自分を倒す可能性はゼロではないというその事実に震えていた。
ライトは邪魔なえのこが全て消滅したので、すぐに周囲の状況を把握する。
まずは自分とマッシュ以外に誰か近くにいるかどうか。
誰もいない。
こんなトッププレイヤー同士の戦いの場に、普通のプレイヤーが近づくはずもないから当然だ。
次にこのバトルロワイヤルでは、あと何人が残っているかを確認する。
スタジアムの天井には、巨大なスクリーンで戦況が把握できるようになっていた。
『のこり三人』
(のこり、三人だけだと……!)
バトルロワイヤルは100人から始まった。
しかも全員が、すでに一回戦を制している強者ばかり。
一般プレイヤーの中では最強クラスの者しかこの舞台にはいないはずだ。
そのプレイヤーたちが、試合開始からいくばくも経っていないのに全滅。
間違いなく、ただごとではない。
天才ライトの動きが、動揺で一瞬硬直する。
常人には全く見えない刹那だったが、マッシュはその隙を見逃さない
「ここだ……!」
――――マッシュのリアルスキル「絶対命中」発動!!
ライトの真下から再び生え出す、キノコの大樹。
先ほどライトが蒸発させたことが嘘のように、キノコが無限に襲い掛かってくる。
FPSにおいて最強クラスであるマッシュがなぜキノコベジポンなんてものを使ったのか、その答えはここにあった。
キノコは、栄養価の低さがトップクラス。
単純なカロリーにおいては、世界一栄養のない野菜である「きゅうり」よりも下回る。
ゆえに、その攻撃一本一本の威力は、あまりにも大したことがない。
このゲームにおいても、「毒」などの特殊な場合を除き、キノコがメイン武器として使われる例はほぼない。
しかし、トッププレイヤーの技術はベジポンの価値を変える。
このベジタブルバトラーオンラインにおいては、ある方程式が成り立っている。
攻撃力の高いベジポンは一撃火力で勝負し、
攻撃力の低いベジポンは手数で勝負する、という原則だ。
単純な栄養の比較するだけならば、「パセリ」、「セロリ」、「しそ」のような緑黄色野菜の力はぶっちぎりで最強。
「にんじん」や「だいこん」のような野菜の代表を、はるかに凌駕する。
しかしもちろん、それらの野菜は食べにくい。
苦みの強いセロリを単独でばくばく食べることはほとんどないだろう。
つまり総合的な栄養では、手数の少ないベジポンより、手数の多いベジポンの方が強い、ということも起こりえる。
そして「キノコ」は、少ない栄養を食べる量で補うベジポンの、典型的な例である。
(気づいていなかったでしょう、ライトさん。このキノコベジポンは、戦いが始まる前から発動していたという事に……!)
万を超えるキノコの弾幕を眺めながら、マッシュはにやりと笑った。
キノコは極端な栄養価の少なさだけでなく、もう一つ特異な性質を備えている。
それは、地上にのびているキノコのかさは、「本体ではない」ということ。
キノコの本体は、地中に張り巡らされている無数の「菌糸」だ。
我々がイメージし、そしてよく食べるキノコのかさは、胞子をまき散らして繁殖するための装置に他ならない。
だからどれだけ生えてくるキノコを破壊しても、地中の菌糸がある限り終わりはないのだ。
しかしもちろん、そんな反則的な性能の裏には弱点がある。
それは、菌糸を展開するのに時間がかかることだ。
キノコベジポンが最良のパフォーマンスを発揮するためには、菌糸を十分に張り巡らせなければならない。
だがもちろん、トッププレイヤーの戦いではそんな悠長なことをしている時間はない。
……いやあった。
それは、バトルロワイヤルが開始される前の待機時間。
交戦やスキルの発動は禁止されていたが、「ベジポンを取り出す」ことは自由であった。
だからマッシュはキノコを取り出してこっそりと地中に張り巡らせていたのだ。
それは不正でも何でもない。
ただ、キノコベジポンは「抜刀するのにものすごく時間がかかる」というだけなのだ。
そしてマッシュのFPSプレイヤーとしての超常的射撃能力であり、もはやスキルと呼べるまでに昇華された「絶対命中」の力がキノコベジポンの性能を底上げする。
並のプレイヤーでは、一万本の武器を与えられてもうまく扱いきることはできない。
だがマッシュにはできる。
全ての攻撃を完全に制御し、正確に撃ちだすことができる。
一万方向からの殺意をもったキノコの銃弾は、ライトですらも防戦一方に追い込むのだ。
「いいねえ、マッシュ!! ずっと待っていたよ、お前のような強力なプレイヤーが現れることを!!」
キノコの攻撃をさばききれないと判断し、ライトは地面を蹴って飛翔する。
空中に逃れることで、ライトは一時的に難を逃れた。
――――セサミンの、リアルスキル「トッププレイヤー」発動!!
飛翔するライトの、そのさらに上空。
無数の黒ゴマによって織られたワンピースを身にまとう女が、にやりと笑って言う。
「その余裕にまみれた薄ら笑い……、吐き気がします!!」
土中を支配するキノコと、空を舞うゴマ。
二人のトッププレイヤーが同時に、ライトに襲い掛かる




