二人のトッププレイヤー
予選会場は大きな賑わいを見せていた。
無理もない。
数年ぶりに、あのライトが表舞台に姿を現したのだから。
「おい、ライトのあのベジポン。武器は普通だが、防具はいったいなにかわかるか?」
「ちっともわかんねえ。おそらくユニークベジポンだな。ベジポンの種類の数からして、相当複雑に作られたベジポンだぞ」
「あれがライトなのか……。こうやって見るだけなら普通の少年じゃないか」
「バカヤロウめ、あの時代を忘れたのか。俺は今、ここから見てるだけでも寒気がするぜ……」
予選会場のスタジアムを見下ろす、数えきれないほどのギャラリー。
その視線はすべて、ライト一人に注がれていた。
(まさか予選を一般公開するとはな。トッププレイヤーをわざわざ二人もあてがってきた理由の一つにエンタテインメント性がなんたら、ってのもあながち間違ってはいないみたいのか。分かってはいたことだけど、試合のたびにこれだけの注目を集めるってのは疲れるだけだな)
VRの世界でもなぜか感じる視線に、ライトはうんざりとしていた。
四年前にあらゆるゲームの大会への出場を禁止されて以降、ライトが久しく感じていなかった感覚だ。
出場禁止の要因はきわめて単純。
「あまりに強すぎるから出場しないでほしい」というだけだ。
あらゆるゲームで無双できるライトの実力は世界を沸かせたが、それは最初のうちだけ。
ライトの存在が定着していくにしたがって、それをうとましく思う声もだんだん大きくなっていった。
なにせ、冗談抜きで一度も負けたことのないバケモノなのだ。
割合的に毎日二回は何らかのゲーム大会が開催されている昨今、ゲリラ的に大会を食い荒らすライトの存在が邪魔になるのは必定であった。
『【衝撃映像】ビーストファイト4の大会で優勝した選手、一人だけ動きがやばすぎるwwwww』
『例の天才ゲーマー、「ライト」という名で正式にプロゲーマーになる模様』
『ライト、マジのガチで天才だった模様wwwww』
『【悲報】国内の主なゲーム大会の優勝者、全員ライト』
『【朗報】ライトさん、マイナーゲームでイキってたプロゲーマーを公式の場で粛清する』
『【悲報】ライトさんにボロ負けしたプロゲーマー、自殺する』
『なんでゲームしかしてない中卒が、俺らより年収高いわけ?』
『ライトさん、賞金を稼ぎすぎて貿易摩擦を引き起こす』
『【悲報】e-sportの大会、視聴率急落』
『ライトとかいう、現実世界ならワンパンで死ぬ雑魚』
『【速報】SPACE GATE2の運営、ライトの出場を禁止する』
『ライトのいない大会が、過去最高の盛り上がりでワロタ』
『【悲報】ライトさん、無敵すぎていろんなVRMMOで干される模様】
『【速報】レジェンドゲーマーのライト、大会への出場自粛を発表』
彼は強すぎた。
単純に、強すぎた。
それだけの理由でライトは、自主的に大会出場をやめたのである。
「出場禁止」の処分を受けたといううわさが流布しているが、実際には違うのだ。
手ごたえのない相手ばかりで楽しくない。
勝っても疎まれる。
そんな状況に嫌気がさして、ライトは自主的に人間と戦うことを諦めたのだ。
だが今、ライトは再び戦いの世界に舞い戻る。
「ライトさん……。あの、お久しぶりです……」
「ん、お前は……」
他のプレイヤーたちから距離を取られているなか、一人だけ、ライトに近づいてくるものがいた。
背の低い一人の少年だった。
髪の毛で目が隠されて見えない。
その少年が持っているのは、巨大な「キノコの盾」だった。
「お前、FPSゲーマーのマッシュか……!」
少年の姿を見るや否や、ライトはすぐにその正体に気づく。
「……覚えててくれたんですか。光栄です」
マッシュ。
背丈からして明らかに子供で、体格も華奢。
とても強そうには思えない風貌。
だが、彼の名を知らないものはほとんどいないだろう。
彼は、少数精鋭をほこるギルド「単細胞軍団」のギルドマスター。
特にFPSにおいて最強の一角とうたわれたプロゲーマーだ。
「いやー懐かしい! 今はもう中学生くらいか!」
「あ、はい。学校は行ってないんですけどね……」
「そうか。まあプロゲーマーの才能があれば普通の教育なんかあんまり意味ないしな。いやーまさか最初に戦う相手がマッシュとはついてるな。あの時の撃ち合いはなかなか楽しかった」
ライトは現役時代、マッシュとFPSの大会で戦ったことがある。
4人でチームを組んで戦うルールで、とても完成された連携を披露し、マッシュはライトを追い詰めた。
ライトは自分だけうますぎるという性質上、連携があまり得意ではない。
ヘタに連携するくらいなら、一人で動いたほうがライトは数倍強いのだ。
そんな単騎で暴れまわるライトを、マッシュのチームは弾幕を駆使することで抑え込んだ。
最終的に、「壁を走ってありえない方向から強襲する」という意味不明な絶技を披露してライトは勝ったが、それがなければ戦いはどうなったかわからなかっただろう。
「今日は、よろしくお願いします……。あ、トッププレイヤーはもうひとり、『五穀』の幹部のセサミンさんも参戦してるらしいです……」
「なぬ、『五穀』からか」
ギルド『五穀』は、ブレットがギルドマスターを務めるギルド。
総合力ではBBOにおいてトップクラスのギルドだ。
ブレットがライトを倒すことを宣言していたあたり、その幹部にも息がかかっていることは間違いない。
(なるほど。ひょっとしたらこの予選のカードは、俺のベジポンの正体を見極めようとするための前哨戦として組まれたものか。下手に手の内を明かすと、これから戦う相手がみんな俺にメタった戦略をとってくるってわけだ)
ライトはそう邪推しながらセサミンの姿を探す。
しかし見つからない。
バトルロワイヤルのステージにはいくつかの建物や障害物があるため、どこかに隠れているのだろう。
マッシュとは違って、自分の姿を戦いが始まるまで隠すつもりのようだ。
セサミン。
その名の通り、胡麻のベジポンをメインで扱うプレイヤーだ。
現実では女子大生らしいが、その優れた運動神経をもってVRMMOの世界でも活躍している。
ギルマスであるブレットに絶対的な忠誠を誓っているらしく、常に側近としてブレットを支えている。
なかなか油断できない相手だ。
まず、ゴマは相当トリッキーな部類のベジポンだ。
少量でも十分な栄養を摂れるが、どう考えてもメインで食べるタイプのベジポンではない。
どちらかというと、他のベジポンと『食べ合わせ」ることで効果を発揮するベジポンだ。
すでに知られているセサミンの戦術でも、ゴマベジポンは薬味として補助する程度の役割だ。
今回の大会では、どんな活躍を見せてくれるのだろうか。
『全員揃いましたので、これより予選第二回戦を開始いたします。三分後に始めますので、それまでお待ちください』
その時、天からアナウンスが流れた。
ようやく、戦いが始まるようだ。
バトルロワイヤルで重要なのは、それぞれの位置関係。
周囲にいたプレイヤーは一斉にライトから離れるように散らばっていった。
さすがに、一回戦を突破したプレイヤーなだけに、無謀にもライトのもとへ突撃するような愚を犯すものは一人もいない。
いや、ただ一人を除いて。
「こんなところで突っ立っててもいいのか、マッシュ? そんなところにいられたら、始まってすぐに交戦開始せざるを得ないが」
ライトは忍刃を取り出して構える。
まだ戦いが始まっていないためにスキルを発動したりダメージを与えることはできないが、武器を取り出すことくらいは自由だ。
そのためライトは、威嚇として忍刃をマッシュに向ける。
ライトが一番恐れることは、トッププレイヤーたちとの戦闘を楽しめないこと。
結構な大物の部類であるマッシュが、つまらない形で戦場を去るようなことは、絶対に阻止しなけらばならない。
だが、マッシュは感情のない目で立ち続ける。
そして、髪の毛の向こうにある鋭い眼光はまっすぐに、ライトへ向けられていた。
「60! 59! 58!」
二人の間には沈黙が流れ、カウントダウンだけが空から降り注ぐ。
早くも始まりそうな、トッププレイヤー同士のぶつかりあい。
ギャラリーの注目はすべて、ライトとマッシュに注がれていた。
「……本当に、光栄です。ライトさんが復帰後にはじめて戦う相手が僕になるなんて」
マッシュが口を開いた。
「ははは、以前に戦った時から数年経ったからな。お前がどれくらい成長したのか楽しみだよ。今回も俺を、楽しませてくれよ?」
「ええ……。昔あなたに完膚なきまでにやられて以降、僕も強くなるために努力を続けました。ただ、あなたに勝つためだけに……」
――――――マッシュの、リアルスキル『トッププレイヤー』発動!!
――――――ライトの、リアルスキル『究極のゲーマー』発動!!
「5! 4! 3! 2! 1!」
ライトの感じる、心地よい緊張感と高揚。
脳内にたぎるアドレナリンを感じながら「ゼロ」のアナウンスを握りしめ、地を蹴って走り出す。
戦いが、はじまった。
ズザザザザザザザザザザッ!!!
はじまると同時に、ライトの視界は白くてうねうねとした「触手」のようなものに包まれた。
(なんだこれ、地面から生えてきている……!?)
「さあライトさん。僕があなたを楽しませます……! 僕が使役するベジポンは『キノコ』。土中の支配者にして、全ての命の終わりと始まりをつなぐもの……!」
ライトの初めての戦いの相手は、キノコベジポン使い、「マッシュ」




