野菜の無駄遣い 後編
4、最高級ベジポンを食わせてみる
500枚近い『宅配チケット』をつぎこみ、このクエスト用戦闘フロアに山盛りの野菜が運ばれてきた。
食品工場で加工されるために納入されてきたかのような様相を醸し出している。
「キキキキキ!!」
コックと名付けられたゴキブリは、小さな羽を広げて野菜の山に飛び込んだ。
「野菜の山」というのは比喩表現ではない。
マジで山になっているのだ。
ライトもレターも、このゲームでは有数のトッププレイヤー。
当然、個人資産として保有しているベジポンもかなりのものだ。
『ミラクルゴキブリ レベル113』
「うへえ。まだ上がる勢いが衰えないよう」
現時点でのこのゲームでの最高レベル害虫は、「血に飢えた赤猪 レベル250」である。
「害虫」ではなくて、「害獣」になっているではないか、というツッコミはおいておくものとして、これもなかなか高い数値である。
おそらくこれからもアップデートの過程でどんどんキャップは上がっていくのだろう。
『ミラクルゴキブリ レベル167』
「え、ライト。なんかレベル上昇の勢い早くなってない?」
「そりゃまあ最高級ベジポンばっかりだしなあ」
『ミラクルゴキブリ レベル225』
「だ、だ、大丈夫なの? てかこのゴキブリって、こういう運用のされ方想定されてるの!?」
「う、うーん。どうなんだろうか。イベント用のお祭りモンスターだし、まともな調整されてないのかもしれんな。ちょっと心配になってきたぞ」
『ミラクルゴキブリ レベル378』
「うわああああ。当たり前のように最高記録更新したああ。しかも更新しすぎィ!?」
「なんかおもしろいほどあがるなあ……」
『ミラクルゴキブリ レベル626』
「これもう、四桁も視野に入ってきたね」
「なんだろう。なんか心配事がどうでもよくなってきたぞ」
「はじめた張本人がなんてことを……」
『ミラクルゴキブリ レベル896』
「ああ、こりゃ四桁行きますわ。確信ってやつだね」
「ちょっと調子に乗ってベジポン持ってきすぎたかもしれんな。まだ全然減ってねえじゃん」
『ミラクルゴキブリ レベル1678』
「四桁突破おめでとう」
「なんか勢いはやくなってないか? 普通レベルアップってどんどん遅くなるもんだろ」
『ミラクルゴキブリ レベル4628』
「早くなってるー!! 明らかに早くなってるー!!」
「なんか、とんでもない禁忌を犯してるような気がする」
『ミラクルゴキブリ レベル8129』
「……なんか私も、どうでもよくなってきたよ。これってあれだね。テスト前日に何もしないまま徹夜してマンガ読んでる時の気分だね」
「そのたとえ、俺はよくわかんねえわ」
「あ、そっか」
『ミラクルゴキブリ レベル67892』
「……すでにあいつのレベル、私の攻撃力より高いんですけど」
「俺たちのレベル99ってクソザコだったんだなあ」
『ミラクルゴキブリ レベル246524』
「こわいからかえりたいです」
「ダメ」
『ミラクルゴキブリ レベル4508742』
「……」
「……」
『ミラクルゴキブリ レベル148500344』
「……」
「……」
『ミラクルゴキブリ レベル347080273214790』
『……」
「……」
『ミラクルゴキブリ レベルug3of9wb:l?f@=』
「……」
「……」
『ミラクルゴキブリ レベル0』
「キキキィ」 ゲフッ
全てのベジポンを食べ終えたコックは、満足げに鳴いた。
そして、全身が発光しはじめた。
ピカアアアアアアアアア
小さなゴキブリの体がまばゆい光に包まれ、急速に膨張していく。
光の塊は縦に延び、横に延び、ぐねぐねとうごめきながら少しずつ体の形を変えていく。
虫の形は星形に変形し、その先端それぞれが細かく形を変えていく。
五本指が形成され、骨格が形成され、触角が伸び、足の形が整えられ、頭が分離し、首が生まれる。
VRMMOの世界でもなかなか見られない美麗なエフェクトが終了すると、そこに立っていたのは黒い服を身にまとった「一人の少女」だった。
「ぷはあ!! 変態完了!! まさか人間になれるくらいのレベルアップができるなんて思わなかったな!」
少女の頭からは、二本の長い触覚。
背中には大きな羽。
立派に、ゴキブリの面影を残していた。
「いやあ、お父さん、お母さん。ぼくのためにこんなにたくさんのベジポンをくれてありがとう! おかげでここまでレベルアップできたよ。すごくうれしいな! とりあえずぼくは、お父さん、ライトさんのファームに移動するね。クエストをちゃんと片付けて落ち着いたら、会いに来てくれるとうれしいな!」
そう言うと、コックは背中の羽を展開させ、バシャバシャとはばたきはじめた。
「じゃあね。お父さん、お母さん。先にファームで待ってるからね!」
コックは飛び去って行った。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……あのさあ」
「……?」
「撮った動画、公開するのやめとこうぜ」
「……うん」
成長するゴキブリに興味本位で餌をやってみたら、天文学的数値までレベルが上がって、なんかバグって、最終的にオーバーフローしてゼロになって、そしてどういうわけか人間になった。
こんな意味不明の体験をしたことに、さすがのライトとレターも、動揺を隠すことはできないのであった。
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「……というわけで、第二予選ではうちのギルドの幹部を、ライトさんにぶつけていただきたいと思います」
「ダメだダメだ!! いくらなんでも、そんな明らかな不正をするわけにはいかない!」
ゲームの運営を行うゲームマスターのみが入ることを許されている、特殊VIP用ファームに築かれている豪華なホテル。
その中の一室で、今回のイベントを担当する重要スタッフと、プレイヤーであるはずの穀王「ブレット」が対面していた。
「よく考えてみてくださいよ。ライトという男がどれだけ規格外の存在か。それを一番理解しているのはあなたたち運営側のはずです。一般プレイヤーなんて10000人ぶつけても、1ドットもヤツの体力ゲージを削ることはできないでしょう。ライトはあまりの反則的な強さから、各ゲーム大会で出禁になるレベルだ。不正をしたわけではない。ただ強すぎたというだけで。カードゲームにおいて、反則的に強いカードの使用が禁止されるかのように。その禁止級カードの使用を、あなたたち運営は許可した! ならば、相応の適正化処置を講じなければいけない」
「し、しかし……」
とまどうゲームマスターに、ブレットは詰め寄る。
「冷静に考えてみてください。今回のPvPイベントは、もはや全プレイヤー参加型のものではない。ゲームのために人生をささげた連中による『オリンピック』に近いものとなるでしょう。そのような『興行』をするからには、観客は当然『白熱した戦い』を求める。それを実現させるために、ライトへの対策をとることは急務なのです。一方的な虐殺が何回も行われるだけでは、観客はすぐに飽きてしまうでしょう。」
「う、うぬぬぬ」
「ライト打倒作戦。これはうちのギルド『五穀』だけで行っているものではありません。ほかの巨大ギルドとも手を結んで行っている一大プロジェクトです。想像してみてください。無敗・無敵・最強・伝説のゲーマーであるライトが、我々『一般人』の策略によって倒される光景を。そんなことがおこれば、ベジタブルバトラーオンラインは日本だけではない、世界にも轟く名声を得るでしょう。すでにこのゲームは、ち密なバランス調整によって世界でも高い評価を受けています。ならば最後にあと一つ、『極めればあのライトでも倒せるゲーム』という事実をしらしめれば、このゲームは一気に世界規模VRMMOの仲間入りだ。『野菜で戦うVRMMO』なんていうふざけた趣旨からはじまったこのゲームが、王道ファンタジーやSFロマンと互角に戦える日が来るんです!」
「……ブレット君。本当に、あのライトに勝てる算段があるのかね?」
「もちろんです」
ゲームマスターは、ゆっくりと右手を差し出した。
がっしりと握手する二人。
今ここに、ギルドと運営の癒着が成立した。
そして、予選二回戦のカードは運営によって操作され、作為的なものとされる。
ブレットは、ギルド『五穀』の幹部『セサミン』に念話をかけた。
「セサミン。手はず通り、予選二回戦でライトと戦えることになったよ。ここでヤツのベジポンの性質を把握するんだ」
「御意。必ずや、あなたの期待に応えて見せます」
「がんばってね」
予選二回戦。
早くも、不穏な風が吹き始めていた。




