野菜の無駄遣い 前編
【クエストクリア!!】
飛んで行ったテントウムシが光になって四散した瞬間、気の抜けたウィンドウが現れた。
思った通り、あのテントウムシの落下で驚かせに来ただけのドッキリ的なクエストだったようだ。
「ひえ~。なんて怖いことするの。わざわざそんな倒し方しなくたって、普通に落ちてくるの避ければよかったのに……」
レターがたまげている。
確かに避けるというのが一番合理的な倒し方だ。
落ちてくるのがわかっていたのなら、全力で回避すれば避けられない攻撃ではない。
一般プレイヤーでも十分可能な範囲だろう。
だが、もしできるのならスタイリッシュな方法で倒したいというのは、ゲーマーの性だ。
こればかりはしょうがない。
あの空を覆いつくすかのような巨大質量が、ニンジンがささっただけで、まるで風船が破裂したかのように吹き飛ばされるのだ。
これを爽快と言わなくてなんと表現しよう。
「さて、クエストも終わったことだし、素材回収して帰ろうぜ。」
フロアに散らばっている光の玉のようなものを拾いながら、レターに声をかける。
これは、あのテントウムシを倒して手に入る素材のようなものだ。
普通のVRMMOのように武具に加工するようなことはしないが、場合によってはよい肥料や、ファームに建設する建物の材料になったりする。
ありがたく回収しておこう。
「すごーい。あの大きさなだけあって、落ちてる素材の量もえげつないね!」
「んまあ、ジョーククエストなだけあって、大した素材はドロップしてないなあ」
レアな素材は、白ではなくてほかの色で光ってることがあるが、今回は全部、白のようだ。
せっせと雑多な素材を集めていく。
すると突然、レターがすっとんきょうな叫びをあげた。
「ぎゃあああああああああ!!??」
「なんだその女子らしからぬ叫びは」
絶叫にビビることなくレターのほうを向くと、そこには一匹の小さなゴキブリがいた。
『ミラクルゴキブリ レベル10』
「なんだ、ゴキブリか」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、はやくおっぱらってよ。おっぱらってください」
大きさ的には、カブトムシよりはちょい大きいくらいかな、程度のものだ。
現実で出くわしたら卒倒レベルの大きさだが、UFOサイズのテントウムシを倒した直後では、ミニマムサイズにしか思えない。
いや、この中途半端にリアルなサイズが、嫌悪感を増しているのだろうか。
「ってうわー、こいつ私たちの素材くってるううううううう」
「え、まじでか」
「キキキキキ」
不気味な音を立てながら、そのゴキブリは素材の白い球に食いつく。
玉はすぐに、ゴキブリの小さな口の中へと吸い込まれていった。
「か、返せえ! いくらいらない素材だとしても私たちの素材だあ、かえせえ!!」
レターが取り乱し、背中にしょっていたレタスの剣まで抜刀しはじめた。
問答無用で両断する気らしい。
まあ、害虫だしそれもしょうがないだろう。
「キキキキキ!!」
『ミラクルゴキブリ レベル11』
「ん?」
もう一度ゴキブリをみると、何か違和感を覚えた。
もしかしてこのゴキブリは……。
「レター! ちょっと斬るのストップ!」
「え?」
静止も間に合わないらしく、すでにレターはレタス大剣を振り下ろし始めていた。
まずい。
さすがにあの性能のベジポンで斬られたら、あの程度の害虫は一瞬で昇天する。
「スキル『中辛の拳』!!」
瞬発的にスキルを発動。
振り下ろされるレタスを、左手で受け止める。
ガキイン!!
レタスらしからぬ金属音が響いた。
右手に、ダメージを受けた衝撃を感じる。
だが、受け止めることには成功した。
「ウソ。片手で大剣の振り下ろしを止められるものなの……? それってもうプレイヤースキルとか以前にかなりの筋力値のステータスがないとできないことなんじゃ……」
レターは驚いていた。
突然ライトが、ゴキブリを倒すことをやめさせようとしたからではない。
片手で大剣の振り下ろしを止めた、という事実に驚いているのだ。
ライトは、とぼけたような表情をして話題をそらす。
「ん、まあ俺のベジポンの性能がいいおかげだね。まあそれはいいとして、このゴキブリはかなりのレアものかもしれない。大事に実験してみようぜ」
「どういうこと?」
ゲームはうまいのにアホの子であるレタが、首をかしげる。
「このゴキブリさ、レベル上がってるよ。素材食べた後に」
「え、あ、ほんとだ」
害虫のレベルアップ。
何かスキルを使って一時的にレベルを上昇させるモンスターはあるにはあるが、このゴキブリからは何か別のものを感じる。
「素材を食べてレベルアップするゴキブリなんて、今まで一度も聞いたことない。いくら俺たちが孤立したソロプレイヤーだとしても、そういうおもしろい情報ならさすがに耳にしたことくらいならあるはずだ。だとしたら、こいつはイベント限定のユニークモンスターなのかもしれない」
「あ!! 確かに、『イベント中は世界中で、特殊な害虫に出会えるかも……』ってイベントの告知であったね」
「そうそう。というわけで実験タイムだ!! レター、カメラを回せ。面白い映像が取れたらwetubeに流して再生数稼ぐぞ!!」
「お、おうっ!」
ライトのようなプロゲーマーにとって、ゲームプレイ動画は貴重な広告収入源。
かくして、突然の撮影タイムが幕を開けるのである。
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「みなさんこんにちは。ライトとレターです。なんか今日、素材を食べたらレベルアップするゴキブリを発見したので、いろいろ食べさせてみようと思います。レターさん、ちゃんと撮影できてますか?」
「できてますっ!!」
1、とりあえず今のクエストで手に入った素材を全部食べさせてみる
「キキキキキ♡♡」
落ちてた素材を全部集めて、ゴキブリに与えてみた。
夢中になってむさぼっている。
なんかこころなしかはしゃいでいるようにみえる。
『ミラクルゴキブリ レベル14』
「うん、これ明らかにレベル上がってるな」
「そうだね。でももう、素材なくなっちゃったよ」
2、ベジポンも食べさせてみる
「ほーら食え。最高級のベジポンだぞー」
使い捨て用にいつも持っている便利な催涙爆弾ベジポン『オニオンボム十六式』をゴキブリに与えてみた。
「そ、そんないいもの、もったいない! それって大会用の装備じゃなかったの?」
「この爆弾は使い捨てだから、ファームにまだたくさんあるよ。……あれ、こいつ食わねえな」
ゴキブリは玉ねぎに食いついてはいるが、全然飲み込まない。
数分格闘してもダメだったようで、最後には諦めてしまった。
「もしかして、ベジポンの性能に対して自分のレベルが低いせいで食べられないんじゃない?」
「なるほど。その通りかもしれないな。じゃあファームから取り寄せるか」
「ファッ!?」
一応このゲームでは、冒険中にベジポンがなくなってしまったときにファームから取り寄せるという機能がある。
しかしこれは、「宅配チケット」という課金アイテムを使わないとできないコマンドだ。
だから、普通は高難易度ダンジョンを攻略しようとする時くらいしか使わない。
こんなことができたらヌルゲー化するので、当然の処置だ。
「まあまあ。金に糸目をつけてたらいい動画は取れないよ」
「なんか私、嫌な予感がしてきたんですけど」
3、弱いベジポンから順に食べさせてみる
キャベツ、レタス、トマト、ゴボウ、じゃがいも、ピーマン、オクラ、はくさい、にんじん、ほうれんそう、かぼちゃ、小松菜、ねぎ……。
「野菜ギフト」みたいな豪華なフルコースが、一体のゴキブリのためだけに用意された。
ライトのようなトッププレイヤーになると強いベジポンしか持っていなかったために、急遽ゴキブリが食べられそうな弱いベジポンたちをバザールで買い集めたのである。
「キキキキキ!!」
そして案の定、ゴキブリは野菜に食いついた。
野菜の山が、少しずつ取り崩されている。
ゴキブリは本来、ほこりとか人間の汗、髪の毛のような微量な有機物だけでも何日も生きられる生命力で有名だ。
それなのにこんな贅沢なものばかり食べている。
ゴキブリのレベルアップを喜んでいるライトのかたわら、レターは複雑な気持ちだった。
『ミラクルゴキブリ レベル18』
『ミラクルゴキブリ レベル27』
『ミラクルゴキブリ レベル42』
『ミラクルゴキブリ レベル78』
「うおおおおお。すげーー。どんどんレベルが上がっていくぞおおお」
「確かに上がり幅がすごい……」
いつもは冷静沈着なライトが、まるで子供のように楽しんでいる。
対照的にいつもは天真爛漫なレターは落ち着き始めていた。
「あ、野菜なくなっちゃったね」
ゴキブリが、最後に残ったカボチャを、硬い皮をがしがしかみ砕くことで食べ終えた。
そのころにはもう、レベルは90を超えていた。
「よし、ここまで来たらさすがに俺の玉ねぎでも食べられるだろ。ほらコック、食え」
ゴキブリは「コック」と命名された。
レベル90になったゴキブリは、玉ねぎをぐしゃぐしゃに砕き、そしてするすると飲み込んでいく。
『ミラクルゴキブリ レベル101』
「あれ?」
「おおお!!」
ついにゴキブリがレベル99を超えた。
明らかにミラクルが起こっている。
プレイヤーはレベル99になったらそれ以上成長しない。
害虫の場合は例外もあるが、レベル100を超えるのは特別なボスだけのはずだ。
「よしレター!! 俺のファームにあるあまったベジポン全部、こいつに食わす。レターも協力して」
「ま、まじでえ!?」
「どうせ使いきれずに腐らせてたい肥にするくらいなら、この実験で使うほうが有意義だ。宅配チケットは俺のを貸してやる。急いで取り寄せるぞ」
実験はまだまだエスカレートしていきそうだ。




