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第十八話 【ツンデレ波】VS【あなたのハートにエンジェルビーム】



「ツンデレ波……?」

 姉ちゃんが口にしたその技名に、僕は思わず首を傾げてそう繰り返した。

 なんか技の響きからして全然すごそうには思えないんだけど、どうなんだろう? 奥義っていうくらいだから、たぶんすごい技のはずだけど、ネーミングが微妙過ぎて、どうしても不安感が拭えなかった。

 いや、今までの技もネーミング的にどうかとは思うけどね!

「早絵……。まさか本当に【ツンデレ波】を使うつもりなのか……?」

 姉ちゃんが今までにない構えを取るのを見て、レジェンドさんが動揺しているかのように声を震わせて言う。

「まだ一度だけしか使えていない、あの技を……!」

「え! そうなんですかっ?」

 そんな不安定な技を、今から使うつもりなのか!?

「それって大丈夫なんですか? 失敗したら元も子もないんじゃあ……」

「湖太郎くんの言う通りではあるのだが、しかし、それだけ早絵が追い込まれているということなんだろうね……」

「姉ちゃんが、追い込まれている……」

 でもそれは、正鵠を射た指摘ではあった。

 ああして強気でいる姉ちゃんではあるけれど、それが虚勢であることは、長い付き合いである僕からしても一目瞭然だった。

 きっと姉ちゃんは、そうでもしないと勝てない相手だと踏んだから、あえて成功率は低くも威力は格段にでかい技で勝負に出ようとしたのだろう。

 たとえそれが、即敗北に繋がりかねない方法だとしても。

 せめて、その虚勢が由梨江さんに少しでも通じていてくれたらよかったのだけど、当の本人は至って平静に、

「……なるほど、奥義ですか。でしたらわたくしも、それ相応の技で迎え撃って差し上げるべきですわね」

 と、胸の前でハートマークを作った。

 しかも、あの構えは……!

「エンジェルビームか……!」

「正確には、堀江流奥義【あなたのハートにエンジェルビーム】ですわ」

 あなたもよくご存知のね、と姉ちゃんの言葉に訂正を入れる由梨江さん。

 自分が負ける要素なんてなに一つとしてないとでも言いたげな、妖艶な笑みを浮かべながら。

「……なるほど。どうやってあの早絵を──曲がりなりにも私の弟子をあっさり倒したのかと疑問に思っていたが、どうやらかなり強力な技を持っていたようだね」

 自信満々に振る舞う由梨江さんを見て、レジェンドさんが得心いったように頷きながら言う。

「奥義と奥義の衝突……か。恥ずかしながら胸の高鳴りを抑えきれないよ」

「よ、余裕ですね、レジェンドさん。僕なんて姉ちゃんが負けやしないかって、さっきからずっと胃が痛くて仕方がないですよ……」

「ああいや、私とて早絵の心配をしていないわけではないよ? まだ完全に会得したわけではない奥義を使おうとしているのだからね。ただ……」

 と、そこでレジェンドさんは一拍間を置いたあと、厳かな声でこう続けた。

「それでも私は見てみたいのだよ。私が編み出した奥義が、あれだけの強敵相手にどれだけ通用するのかを」

 まあ、武道家としての性みたいなものなんだけれどね──。

 そう苦笑混じりに言って──お面のせいで表情は窺えないけれど──レジェンドさんは姉ちゃんと由梨江さんの行く末を見守るように熱い視線を送った。

 なるほどな。この勝負を一番楽しみにしていたのは、ある意味レジェンドさんの方なのかもしれない。

 それこそ、本当は姉ちゃんの代わりに戦ってみたかったんじゃないかと思ってしまうくらいに。

 それにしても、結局ツンデレ波ってなんなんだろう。字面からしてなにかを放出する技だとは思うけど……。

 なんて考えながら見ていると、不意に姉ちゃんが突き出していた両手を腰に回して、

「今から奥義を出すけど、別にあんたのためじゃないんだからね! 私がそうしたいから使うだけなんだからねっ!」

「え、なんで姉ちゃん急にキレてんの?」

「それは違うぞ湖太郎くん! あれはキレているのではなくてツンデレているのだ! ああすることにより釘宮力を爆発的に高めているのだよ! 実に良いツンデレだ!」

 怪訝がる僕とは対照的に、なにやら興奮気味に解釈するレジェンドさん。また出てきたよ釘宮力……。

 けど、そのツンデレ波という技を使うのに必要な過程だったみたいで、次第に姉ちゃんの手の中から青い燐光のようなものが現れた。

 やがてその燐光は誘われるように中心へと集まり出し、一つの球体となって眩く発光し始めた。

 なんだか、まんまかめはめ……いや、うん。これ以上はやめておこう。

 なぜだかわからないけれど、これ以上は口にしてはいけない気がしてきた。

「もうじき放つんだからね! う、受け取らないとただじゃおかないんだからねっ!」

 奥義を放つ準備が整ったのか、対面にいる由梨江さんに対し、相変わらずキレているのかツンデレているのかわからない感じで怒号を飛ばす。つーかそれ、どのみちただじゃ済まないじゃん。

「それは聞けませんわね。なぜならわたくしの奥義が、そちらの奥義に押し負けるはずなんてないのですから」

 対して、由梨江さんもいつでも奥義を放てる用意ができたのか、指で作ったハートマークをピンクに光らせつつ、そう言った。

 それを合図に、姉ちゃんと由梨江さんが今にも技を放たんと双眸を凄ませる。

 そして。



「釘宮流奥義! 【ツンデレ波】!!」

「堀江流奥義! 【あなたのハートにエンジェルビーム】!!」



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