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因習眠る島  作者: 雨宮 徹


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20/25

慟哭

 真っ赤に染まった部屋。赤、赤、赤。


 俺は異常な光景に身動きがとれなくなった。しかし、一瞬で我に返り瑞樹に近寄る。出血がひどく、このままでは死んでしまう。止血すべく、頸動脈をおさえる。くそ、止まってくれ!


「そんな! 瑞樹が……!」


「蓮、近くにある布を持ってきてくれ! 血を止めるにはハンカチよりも分厚い布が必要だ!」


 蓮は勢いよく走り去る。


 瑞樹の口元を見ると、必死に何か言おうとしている。


「瑞樹、無理をするな。今助けるからな!」


 しかし、俺の励ましは無駄に終わった。


 瑞樹の口から息がなくなった。


「そんな……」


 命がけで守ると誓ったのに、失敗に終わってしまった。


 呆然としていると、次々と人がやってくる。誰がどの順番で来たのかは分からない。いや、そんなのはどうでもいい。瑞樹が死んだ、それだけが事実だ。


「瑞樹!」


 瑞樹の母、瑠璃が遺体に抱きつく。


「それは、違う」


 それは、弘道のものだった。


「それは、愛だ」


「そんなバカな! お前はやっぱり狂ってる!」


 蓮の言うとおり、服からして瑞樹に間違いはない。


 だが、弘道を見ると、「自分の考えに間違いはない」という自信を感じる。なぜだ? どうして、そう言いきれる?


 次の瞬間、瑞樹の髪がはらりとめくれると、耳が露わになる。そこには、ピアスがあった。ピアス? それが意味することは一つ。この遺体は、愛のものだということだ。


 なぜ、愛が瑞樹の服を着ているんだ?


 そんな俺の考えは、弘道の叫びによってかき消された。


「そんな……。儀式が失敗した。神託が外れた。そんなことは、あってはならない。これは、何かの間違いだ!」


 次の瞬間、勢いよく誰かが部屋に駆け込んできた。それは、瑞樹だった。状況を把握するなり、弘道に一発食らわせる。


 弘道は壁にぶつかるが、ぶつぶつと呟くだけで、なんの反応もしない。


 愛が弘道によって殺された。それだけが、紛れもない事実だった。

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