116話
「まず俺が水晶ながめと直接対面したのはアキバVtuber祭だな。同じ空間で一緒にトークイベントをしたな」
『そうだったね。やっぱり現役女子高生だった?』
「あの時ながめは何故か青いマスクと真っ黒なサングラスで顔を丸々隠していたから判断はつかないな」
『ヤイバ君……?』
あの時の恰好に嘘は付けないため正直に話したところ、アスカに怒られてしまった。
「ただあの時は俺も青髪で黒マスクで伊達眼鏡だったからお互い様だ」
『それじゃ全く説得にならないよ……』
俺の話を聞いた後、コメント欄では
『猶更怪しいじゃねえか』
『それほぼ黒だろ』
とながめが高校生じゃない事を確信したコメントが増えていた。
「恰好についてはそうだな。でもイベント中に気になることがあってな」
『気になること?』
「ああ。俺たちのトークイベントにはやけに高校生が多かったのだが、そいつらの内数名が動くたびにハラハラしていたんだ。勝手な想像だが、あの中にクラスメイトが居たんだろう。ながめはクラスメイトが来ることを知っていたから変装をしてラジオイベントに参加したんだろう」
『そうなんだ』
クラスメイトが居た事は事実だが、それ以外は全くの嘘だ。とりあえずここらへんで信じてくれたら楽なんだがな……
そう思いつつコメント欄を見たが、俺が根拠を示す前とそこまで大差なかった。
「だから俺は高校生なんだろうなと思っている。話題的にも高校生そのものだからな。俺が学校でクラスメイトと話している内容と大差ない」
なにせ同じクラスだからな。
「一旦はここら辺にしておこう。次はアスカだ」
『分かったよ。私については一度とは言わず何度もあってお話をしているね。オフコラボも何度もしているし皆も知っているかな』
『そこで証拠ってなると難しいけど、一番は私のながめちゃんに対する態度が一切変わっていない事だね。28歳以上だったら流石に距離が出来ると思うんだ』
「そうか……?」
アスカなら相手が30歳でも40歳でも付き合い方は変わらない気がするが。
『そうだよ。話す内容とかは一切変わらないと思うけど、ながめちゃんが30歳とかだったらあそこまでハグしたり頭を撫でたりは出来ないよ』
「だろうな」
見ていないから知らないが、アスカがあのながめに対して熱烈なスキンシップを取ることは想像に難くないし、ながめが実は30代だったとかだったらそこまで積極的にスキンシップを取らない事も想像つく。
そのあたりは視聴者も同じ意見だったらしく、28歳とかでは無いだろうと納得する視聴者もちらほら増えていた。
『根拠を示すことは出来ないけど、それが証拠かな』
少しだけではあるが、解決に向かったとは思う。
だがしかし、雛菊アスカの事を知らない人には信じられないだろう。
何か別の理由を話さなければ何も起こらないだろう。
やはりあれを言うべきか……?いや、言ったところで証拠にはならないか。
「ありがとう。他に高校生っぽい話とかあったりするか?」
『うーん……仲良くなりだしたころは微分積分の授業を受けてたとか、今は理系を選択してて模試で私の大学のC判定を取れたよって嬉しそうに言ってた事かな』
「その話ってしていいのか?」
実はながめの第一志望はアスカの大学なのだ。羽柴葵としてはそこが関東圏の一等地にあるオシャレな大学だからという話で通しているが、真の理由はアスカの後輩になりたいからという話らしい。
そこまで尊敬に値する先輩なのかと言われると疑問が浮かびあがるが、同業者が同じ大学に通うのはかなり都合が良いからな。
この話はあくまで配信外のプライベートな話である。配信でするのは少々怪しい気もするが。
『緊急時だからね。それに2年後私の大学に来たら配信中に全力で言うつもりだったし誤差だよ誤差』
「かなりデカい誤差だな。まあそう言うなら良いが」
『そんなことより、少しずつ信じてくれている人も増えたみたいだよ』
「そうだな」
コメント欄を見てみると、少しずつ水晶ながめを現役高校生だと分かってくれる人が増えてきたようだ。
「じゃあ、一旦はこれまでにしよう」
あまり貢献できたかと言えば微妙だが、少しは解決に向かっただろうということで話を終わらせることにしよう。
アスカに長居させるのも悪いしな。
と思っていると、『じゃあ柴犬って何者なんだ?』と疑問に思うコメントがちらほら増えてきていた。
知っているなら返してやりたいところだが、俺もさっぱり分からない。
とりあえず言えるのは赤の他人ということだけ。Vtuberの中でも似た声の人は良く居るしそういうものだろう。別に似ていると言っても同一人物って程似ているわけじゃないしな。
『そうだね。じゃあまたね!!!!!』
アスカがボイスチャットから抜けた後、通常配信を始めた。
水晶ながめについて語ったものの、その後の配信はただのソロVALPEXなので何も起こらない、そう思っていたのだが、




