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終末街の迷宮  作者: 高橋五鹿
第一章 終わりの街のオロチ

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第18話 新たなねぐら

 ピンチのときにこの施設の世話になろうとは。

 風雨は凌げるし物資は色々あるし、隠れる場所も多い。

 パニックものとショッピングモールはやっぱり切っても切れないんだな。


 ……ゾンビとか出てこないよな?


 金髪の話によればヒュドラ生物がもうゾンビみたいなものだが、見た目の問題としてまだ生前のままだからな。ただ、巨大化した時点で元の生物とは言い難い。この先はどんなのが出てくるのか見当も付かない。


 そうだ、金髪は生前とは全く違う姿だと言っていた。運動能力も人間のそれではない。生前の情報をそのままコピーしているのではなく、参考にして新たな生物を造り出していると考えるべきか。


 背中のリュックからバールを抜くと、正面入口からショッピングモール館内に潜入する。


 吹き抜けになっている中央通りを見渡した。

 生物の気配はない。


 そして暗い。

 以前は点いていた、テナントの照明などが軒並み消えている。

 ひと目見て分かるくらいの停電状態だ。

 そのまま中へと進んでみる。


 ん……?


 おかしい。自然採光だけじゃない。

 テナントの店は暗いが、通路の照明は一部点灯している。

 店と店の間の通路を覗き込む。


 緑の人型、矢印の看板が発光している。

 誘導灯だ。

 非常用電源? どうやって供給しているんだ? 電池式だろうか……。

 いや。


 停電がいつ起きたのかは知らないが、十時間くらいは経過しているかもしれない。電池式はそんな長時間の使用を想定していないはずだ。

 無停電電源装置を思い浮かべる。あれも短時間しかもたないはずだよな。俺の中では停電でPCが落ちるのを防ぐ程度の装置という認識しかない。もっと有能な設備があるのかもしれないが。


 これだけの大型施設となると、非常灯や誘導灯の数も半端ではない。まだ入り口から少し進んだだけなので、全て点灯しているかどうかは分からないが、どうやってその電力を賄う?


 んー、それとも俺は非常灯の持続時間に何か勘違いをしているのか? 三十分かそこらしか点灯しないイメージだが、よく考えるとそれは建築基準法かなにかで定められた最低時間のはずだ。イコール持続時間ではない。

 その法律はいつ作られたものだ? 昔の電灯は電力消費が激しくてその程度しかもたない。でも今はLEDを使うのが普通だろう。電池式でも十時間くらいもつのは自然な気がする……。


 もう半日くらい様子見すれば分かるかな。夜には消えてしまうかもと考えると惜しいが。

 とか考えてる間に、視界の非常灯らしきものがひとつ落ちた。


 だよな。


 単独で落ちたってことはやっぱり電池式だ。そのうち他の照明も落ちるだろう。

 通路を進むことにした。明かりのあるうちに食料を補充したい。


 やがて屋内中央広場に出る。今は動かないであろうエレベーター。左右には止まっているエスカレーターもある。食料品店は一階のこの先だ。今は特に上階への用は……。


 いや。いや待て。

 吹き抜け状の上階を見上げたとき、俺は何かを思い出しかけた。

 非常灯……非常用電源……。それは多分俺の勘違いだ。あれと直接関係はないと思う。

 エスカレーターに向かう。そして足早に上階へと登っていった。


 中央広場のエスカレーターはいつも閑散としていた。エスカレーターは入り口付近や店舗密集地帯に的確に配置されており、この場所で上下階の移動をすることにあまり意味はないからだ。


 このモールの四階に店はほとんどない。ただ広い屋上があるだけだ。屋上を一般に開放しているわけでもない。ならそこには何があるのか。

 俺は塔のような形状の中央広場を四階まで上がり、窓から見えるその屋上を見渡した。そこにあるのは一面の銀色の機械群だ。陽光を反射して輝いている。


 太陽光発電システム。

 屋上には、ソーラーパネルが所狭しと敷き詰められていた。


 やっぱりあったか。記憶違いではなかった。柄にもなく興奮を覚えた。食料確保のためスーパーを巡っていたとき、信じ難い値段の高級霜降り肉を見つけたとき以来である。

 我ながらそれはどうなのか。ちなみにその肉はすでに食った。美味かったよ。


 少し落ち着いた。

 さて、この太陽電池は使えるのだろうか? 置いてある以上なんらかの設備には使われているのだろうけども。多分補助用の非常灯とかに使われていると思う。

 館内で現在点灯している明かりのうち、法で定められた最低限のものは電池式、それ以外はこの太陽電池を使うとか? 俺ならそうするかなー、程度の考えだけど。


 あとは節電で割といつも使ってる、という可能性もあるか。だったら施設のどこかに今も通電している場所があるかもしれない。

 太陽電池はそんなに流行ってない気がするし、あまり能力を期待するのもあれだけどな。この施設けっこう古いし。


 それでも、電気が今も使える場所があるのか調べる価値はある。

 そのためにまず、俺は家電屋へと向かった。




 ショッピングモールに着いたのは朝五時とかだったはずだが、もう昼である。


 これだけの時間を費やして、なんの成果もあげられなかった。

 コンセントというコンセントに、家電ショップから適当に選んできた複数の日用品を差し込んでみたものの反応なし!


 分からねー。そもそも生きているコンセントがあるのかないのか、というところから分からねー。

 あるとしたらこの非常用電源を管理する部屋、オペレーションセンターの心臓部だと思うんだよな。

 でもそこが何処なのか分からん!


 スタッフ用のバックヤードからして広くて複雑なんだよ。しかも一箇所じゃないし。

 開かない扉もいくつもあった。

 鍵? そんなもん見つからん。


 いつぞやの店舗用バックヤードの鍵は、落ちている衣類からあっさり発見できた。

 でも店舗スタッフってのは普通は客のいるフロアで接客してるし、制服も着てるから簡単に見つかる。


 事務スタッフは無理。

 誰がどんな役職か分からないし、どこの鍵を持ってるかなんてもっと分からん。

 店舗スタッフに比べれば、扉の内側にいる可能性だって非常に高い。

 どこか扉から離れた場所にいることも、最初から出勤していないということもあり得る。


 贅沢を言うのはよそう。

 日が落ちたとしても、非常灯があれば館内を移動するのに問題はない。

 それに何箇所かのトイレは生きていた。これは大事。


 なにせ水道の水を一定以上の階層に押し上げるには電動のポンプがいる。だから停電したら水も使えないという場所は結構多い。

 まあ水道が止まるのも時間の問題のような気がするが、あんまりいっぺんに問題が増えても解決する方法が思い付かない。




 さて、今晩ここに泊まるとして、安全性をどうやって確保するか考える必要がある。


 寝るだけなら家具屋の高級ベッドとか快適そうだけどな。あんな広々としたとこ、巨大化生物でもあっさりと侵入できそうだ。寝てるときに近付かれたらおしまいだろうな。隠れる場所もない。


 というわけでなるべく狭いところ。いっそトイレの個室にでも立て籠もるか。でも逃げ場がないのはダメだ。大型じゃなくても手強い敵もいるかもしれない。例えばあの金髪のねーちゃんとかな。あいつには全く勝てる気がしない。

 まあ、あのねーちゃんと戦おうとは思わないが。話は通じるんだし、もしまた会うことがあってもなんとか見逃してもらおう。


 結局俺がねぐらに選んだのは、四階バックヤードの奥にある従業員用休憩室。恐らく宿直勤務を想定して作られている部屋だ。

 入り口扉は頑丈な鉄製。窓はソーラーパネルのある屋上に出られるようになっている。挟み撃ちにあったら終わりだが、片方から敵が来た場合は逆側から逃げることが可能だ。


 すぐそばには使用可能なトイレもある。合格。

 シャワー室や給湯室、食堂も近い。ただしガスは使えない。水道だけだ。贅沢は言うまい。


 最初は風雨を凌ぐだけだと思っていたから、それに比べればずっと文明的だ。

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